第7話『AIの導き』(1/4)

「この体、動くぞ!」零士は興奮気味に叫びながら、ウルによる身体制御補佐を得て、的確に肉弾戦を展開する。彼の左腕が野獣の口を模し鋭い牙を見せたように変形し、獲物を捕食する光景は、まるで悪魔の仕業のようだ。零士自身、この非人間的な姿を他人に見せることはできないと心底から感じていた。噂というものは独り歩きするからだ。


「零士って慣れるの早すぎ」とナルは、彼の柔軟性と適応能力に感嘆する。その声には驚きと少しの羨望が混じっていた。


「俺というより、AIがすごいんだろ?」零士は自信満々にウルを信じ切っているが、どこか謙虚な笑みを浮かべて答えた。彼の言葉には、ウルとの絆と信頼が感じられた。


「たしかにそうね……」ナルも自身のAIのことを思い、納得している。その声には少しの寂しさも含まれていた。


 零士は自らを端末として徹している。戦いでは主はウルであり、彼は操作される端末でしかない。まだこの動きが自分のものとして完全に染み付いていないからだ。


 しかし、零士には特性があった。すべてをウルに預けることは、通常ならば狂気の沙汰であろう。第三者に完全に支配される状態は、経験のない者にとっては恐怖でしかない。しかし、それが彼の柔軟なところと適応力の違いを示している。


 ウルにすべてを任せることで、彼らの関係はうまく機能していた。ナルはそのことを理解しているが、内心では侵略されていくような嫌悪感と違和感、恐怖感を覚えていた。


 それでも自然とすべてを任せられるのは、零士の才能かもしれない。ナルは彼が嬉々として動き回る姿を見て、再び感心した。


 ダンジョンを進んでいく中で、次の侵食率15%への準備が整った。零士はウルに誘導されながら、魔獣の討伐数を加速度的に増やしていく。実践経験が物を言う中、ナルの助言もあって、彼は試行錯誤を繰り返していた。亜空間倉庫の活用により、収納量に制限がないため、彼らにはまだ余力がある。ただし、ウルの管理下でエネルギーの調整をしながら使っていた。


 ――そうしていると、突如として美少女が現れた。


「なんだ? ただの美少女か……」と零士は内心で思わず口走るが、その心の中では好奇心が芽生え始めていた。


「零士さま。あの少女が気になりますか?」ウルの声には、零士の心理を察知するかのような鋭さがあった。


「さっき聞いた緊急クエストを思い出してさ、やっぱりかと思ってな」と、零士はギルドで聞いた内容を思い出しながら答えた。彼の声には、冒険への期待が込められていた。


 ふとした時の直感で向かった先には、やや年下と思われる美少女がいた。この場所には似つかわしくない外見と立ち振る舞いで、彼女が美を象徴しているようだった。その顔つきや髪型は確かに美少女にふさわしく、着ているものも彼女によく似合っていた。美少女は、その美しさが彼女に何でも似合わせる特権を与えていたのだ。


 零士は、この出会いがただの偶然ではないことを感じ、心の準備を整えていた。彼女が緊急クエストの鍵であることが、ほぼ確実だった。



 美少女は、装備から見ると典型的な魔法使いのように見える。彼女の身にまとっている物は、高級そうな素材で織られたローブや、複雑な紋章が刻まれた杖など、一目で品質の良さが際立つものばかりだ。その姿は、魔法結社で騒がれている人物に間違いないと、零士は独り言のように思考を巡らせる。


 彼女は手馴れた様子で魔法を操り、魔獣の討伐を難なく遂行していた。その様子を見るに、一体何のために一人でこんな危険な場所にいるのかと、零士はふと考える。しかし、人それぞれに事情があるだろうと考えを改め、余裕そうに立ち回っているので去ろうとする瞬間、背後から声がかかる。


「あのー。そこのお方。あのー。そこのお方……」と、ある美少女が彼を呼び止めようとする。声の主は、柔らかく穏やかで驚くほど透明感を感じるものの、どこか戸惑いを含んだ表情で零士を見つめていた。


 零士は、興味なさげに振り返り、「ん? 俺か?」と返す。その声には、特別な感情は感じられない。


 美少女は、何かを飲み込むような表情で「はい……。あなたしかいないかと……」と答え、少し眉をしかめる。


 零士は彼女の表情を無視して、そっけない態度を取る。「俺に用か?」と、次に進もうと急ぎ足を取る。


 美少女は驚きを隠せずに、「え? あたしを知らないの?」と問う。彼女の声には驚きと少しの怒りが混じっている。


 零士は、関わり合いたくないという明確な意志を持って、「――知らん。それじゃ」と断り、去ろうとする。しかし、美少女はその場に留まり、零士の去る背中に、「ちょっ! 女性を置いていく気? 意外すぎるよ……」と焦りを露わにする。


 零士は内心、この手の美少女に関わると面倒なことになると確信している。しかし、彼の足は一旦停止し、「ん? 置いてくも何も初めから一人でそこにいたんだろ?」と言いながら、彼女の表情を窺う。


「え! こんなの初めてよ……。どういうことなの?」美少女はますます焦りを隠せず、零士を引き留めようとする。彼女の声は驚きと疑問でいっぱいだった。


 零士は仕方なく彼女との会話を続けることを決める。彼はため息をつきながら、「事情があるんだろ?」と尋ねる。美少女は戸惑いながらも、「え? まあ、そうなんだけど……」と答える。


「単にさ、人それぞれだろう?」と零士は肯定的に答える。彼の声には、何かを納得させるような落ち着きがあった。


「え? うん、その通りなんだけど……」と美少女も答え、いささか呆気に取られる。零士はすかさず、「それじゃ!」と話を切り上げ、去ろうとする。しかし、美少女は零士の服の裾を掴んで離さない。


「え? え? えー?」と美少女は繰り返し、零士を引き留めようとする。零士は内心、この子は一体どこの子供なんだと思いつつ、再び会話に応じることにする。

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