第15話 レンさん


「……ば、バケモン」

「誰がバケモンじゃ」

「お前じゃよ。上位ドラゴンを……しかもその変異種をソロで討伐してきた奴の事をバケモンと呼ばずになんと呼べば良いんじゃ」


 僕は依頼達成の報告を侯爵領のギルドでしている。

 依頼を受けたのは帝都のギルドだが、依頼主は侯爵だからな。

 ここのギルドにも報告しないと僕が死んだみたいになっちゃうし討伐されたことが分からなければミスリルの採取も再開しないだろうし。


「それにしても……ミスリルを捕食して変異した魔物の報告は受けていたが……まさかドラゴンまで変異するとはのぉ」

「ドラゴンが変異した例は無いのか?」

「無いのぉ。今まで報告を受けたのは狼、ゴブリン、オークなどの比較的小さい魔物ばかりだった」

「ふーん……まあこのドラゴン、住み着いてから毎日のように食べてたっぽいしそりゃ変異するよね」

「なにはともあれ、依頼達成じゃな。この素材はどうする?」

「売る……あぁいや、鱗を少しくれ」

「分かった。他は売却か?」

「ああ」

「よしちょっと待っとけ」


 爺さんはドラゴンの死体を出していた裏庭から消え、少しするとめっちゃ重そうな袋を持ってきた。

 うっわマジかよ金貨何枚あるんだ?


「ほれ金貨千枚だ」

「せっ!?……と驚いてみたは良いものの、慣れてるし。何ならドラゴンの変異種だもんな。これくらいが打倒か」

「ホントはもっと高いんじゃが……流石にそこまでの資金が無くてのぉ。今度、領主様に話をしてくるからそん時にの」

「分かった。じゃ僕は帝都に帰るから。それについては帝都のギルドに連絡くれ。多分しばらくは帝都に滞在すると思うし」

「分かった」


 僕はジジイにさよならをして侯爵領を去った。

 

 帰りも結界で空飛んでくか。早くアイに会いたいし、アイも寂しがってると思うし。

 僕は爆速で空を飛んだ。


「ふぅ……おぇ……」


 案の定吐いた。


 吐き気が収まったあと、僕はギルドに報告しに来た。

 

「帰ったぞー」

「え?ハルさん!?もうですか!?依頼失敗ですか!?」

「いや成功だから。これあっちのギルドで貰った依頼完了の印」

「あっほんとだ」

「報酬ちょうだい」

「分かりました。えーと金貨五百枚ですね……五百!?」


 受付嬢さんは驚きながら報酬を渡してきた。

 ドラゴンの素材を売った金と合わせて千五百。十分だろう。


 報酬を受け取った僕はギルドを出て、みんながいる宿に戻った。

 途中買い食いはしたけど迷わず戻ってこれた。


「な、なんか……怒ってる?」


 宿からすんごいオーラを感じる!!

 これアイのだ。森で再開した時みたいにちょっとキレてない?

 大丈夫かこれ。帰ったら氷漬けにされない?


 僕はビクビクしながら自分の部屋に入った。

 そこには氷漬けになった部屋、ベッドでワンワン泣いてるアイ。

 

「!?ハルくんの匂い!!」

「お前は犬かよ」

「ハルくーん!!どこ行ってたのー!!!寂しかったよぉ」

「いやルイ達がいただろ」

「あの二人はデートに行きやがったわコンチクショウ」

「お、おう。なんかごめんな」

「ハルくん!一日もいないなんて聞いてなかった!ひどい!」

「ごめんって!脇っ!ほ、ほんとにっ!やめっ」

「……な、なんか気持ちい」

「アイがドSに目覚めた!?」


 数分イチャコラしたあと、僕はレンとやらに会うために外に出ようとしたんだが……


「今日は離さないよ」

「いやでも……」

「んー?なにかなぁ?」

「な、なんでもないです」


 ベッドでアイにガッチガチにホールドされて出来なかった。

 結界を張れば引っ剥がす事もできるけどアイがかわいそうだからな。

 

 僕は1日中アイの抱き枕になった。

 お陰で体がガッチガチになった。い、いてぇ。


 翌日、アイの抱き枕から開放された僕はレンさんが経営している魔道具店に向かった。

 場所はアイに聞いてある。

 でも聞いた時めちゃくちゃ渋ったせいで時間がかかった。


 ハグしたら一瞬で話してくれた。チョロいぜ。

 初めて自分からハグしたからちょっと恥ずかしかったです。はい。


「ここか……流石貴族に人気の店だな」


 でかいしちょっと派手だ。

 店の扉を開けた。


 店内には沢山の魔道具が並んでいた。

 ほえーこりゃ凄いな。

 王国の魔道具ってあんまり質が高くなかったからなぁ。


 僕は商品を見ながら近くの店員を捕まえる。


「あのー」

「はい。どんな物をお探しですか?」

「いや、お探しと言うか……作ってほしい物がありまして」

「なるほど。制作ですか……ちょっと店長呼んできます」


 そう言って店員は店の奥に消えた。

 しばらくぽけーと魔道具を見ていると髪をボサボサにした男が僕に寄ってきた。

 この人がレンか?


「お前か?魔道具を作ってほしいって奴は」

「あっはい」

「素材は持ってんのか」

「持ってますよ」

「金は」

「それなりに」

「着いてこい」


 僕はレンであろうに着いていった。

 僕は工房に連れてこられた。

 なんかこういうとこの雰囲気好きなんだよね。


「で、何を作って欲しいんだ?」

「あー指輪を……」

「ほう……恋人にでも渡すのか?」

「まあそんなとこです」

「そうかそうか!!」

「!?」


 なんかめちゃくちゃ不機嫌そうなオーラが吹き飛んでめっちゃ機嫌良くなった。

 え?なに?急にどうした?


「俺、恋バナが好きなんだよな〜」

「へー」

「お前とその恋人の話を聞きたいところだが、そうすると時間がなくなるからな。また今度だ。今は素材を出してみろ」

「あっはい」


 僕はアイテムポーチから小さな魔石と昨日狩ったドラゴンの鱗を取り出す。

 

「これで」

「……お前これ!上位ドラゴンの鱗じゃねえか!!しかもミスリルっぽい魔力を帯びてやがる……お前なにもんだよ」

「Sランクの冒険者です」

「Sランクか。なるほど……てかよ、このちっこい魔石も使うのか?」

「お願いします」

「これってゴブリンとかの低級モンスターの魔石だろ?お前ならドラゴンの魔石とか持ってこれるんじゃないか?」


 うんまあそうだけどね。

 この魔石は母上が買ってくれた魔石だ。


 母上と一緒に街を歩いてる時に見つけたこの魔石。

 初めて見る魔石に僕は興味津々だった。それを見抜いた母上は僕に買ってくれたのだ。

 

 その日から僕はこの魔石に魔力を込め続けている。


「まあそうだけどね。この魔石はドラゴンの魔石よりも価値があると思うよ」

「あ?んなこと……」

「良く視てみて」

「……おい……おいおいおい!!何だこの魔力の量と質は!?これ本当に低級モンスターの魔石か!?どういうことだ!!」

「僕の魔力を何年間も込め続けたからね」

「……なるほどな。よし!任せてくれ!この俺、レンが最高の指輪を作ってやる」

「おお!!」

「あっ何か欲しい機能とかあるか?」

「この魔石の魔力は結界魔法の魔力なんだけど、指輪を着けた者が死ぬような攻撃を受けた時に絶対に守れる結界を展開できるようにしたい」

「ふむ……分かった。一週間だ。一週間経ったらここに来い」 

「ほんとか!ありがとう!!金は?」

「そうだな……技術料で金貨五百枚って事で」

「たっか!?」

「そりゃお前、ドラゴンの鱗の加工……しかもこれ変異種のだろ?高くなるわ」

「それもそっか。分かった。ここに置いてくぞ」

「毎度ありー」


 僕は金貨を置いて店を出た。




「店長、珍しいですね」

「あ?何がだ」

「オーダーメイドを作るなんて」

「いやぁ、素材がショボかったら断るつもりだったぞ?でもよ、上位ドラゴンの変異種の鱗にSランク冒険者が毎日魔力を込めた魔石……これほど素晴らしい物はない」

「そんなにですか?鱗は分かりますけど……」

「お前もまだまだだな。この魔石には上位ドラゴンなんかの魔石と比べもんにならないほどの魔力が込められてるぞ。しかも質も良い!早速取り掛かるぞ!一週間は誰も入るなと言っとけ」

「分かりました。でもご飯と睡眠はしっかり取ってくださいね」

「……」

「もう聞いてないし……」


 店員の脳裏には1週間後のレンの状態がはっきりと映し出された。



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