俗世を目指して旅に出る。

油性ペン

プロローグ ~始まりのアイズ~

突然だがここは何処か分かるか?という話を

聞くのは無駄に近い。俺は異世界にいるみたいだ。というのを当たり前に認識しているのはおかしい話だ。よく漫画である展開、ショック死して転生して最強になる。どうやら俺もそうなった...といいんだが。


* * *


目を開けてみると何やら見覚えのない天井が広がっている。

「あら、やっと起きたのね。」

こちらも聞き覚えのない声が耳元に入ってき、

不穏な空気を感じた。冷静になっているのも

おかしいな。俺は朝起きたら穴の空いた天井が見えて、その先には朝食をつくる母の姿が見え、

俺を起こそうと怒鳴り声が聞こえてくるのが

毎日の始まり方。しかし今日は違うみたいだ。

天井に穴は空いていない、ましては横に

美しいフォルムのお姉さんが立っていた。

ああ、これは夢ってやつか。たまにあるよな、

エロい事考えたまま寝ると夢になってそのまま楽しむことが出来ると。夢なら少しぐらい、堪能してもいいよな.... 俺は起き上がり、そのお姉さんの方へと手を伸ばす。数秒後にはフニっとした感触が手につたわり――――

「失礼しますよっと..――」

痛っ!って夢なのに痛みを感じるなんて、普通ありえるのか。いや冷静に考えろ。この状況で夢ではなかったら逆になんだって言える。

だから大丈夫だ。きっと、うん。大丈夫――――

「この汚れ者め!容易く触ろうとするな!」

あれ、これもしかしてやっぱ夢じゃない..?

手にはたかれて残った赤い痕、未だに耳元に残る彼女の声、これらは確かなものだった。

もしかして、異世界というものなんだろうか。

今初めて冷静になって物事を考えられた。

でもどうやって、どうして異世界に来た。こんなことを考えてる時間はとても胸が苦しく締まる。

「あの、ここは何処ですか」

俺は咄嗟に声をかけてしまった。

「何処って..?なにも私が拾ってあげたんだが。」

は?やっぱりそうか、そうなのかもしれない。

俺は死んで異世界転生して、美少女に拾われて

後に覚醒して魔王倒す系だ、これ。

そう信じて、この人が何者かは分からないけど

俺は言った。

「一緒に、旅をしてくれませんか?」

言った。コイツは本当に何を言っているのか。

自分を制御することすら出来なくなっていた。

「旅?良いがこの地でそんなこと、そう甘くないぞ。」

え。いいの?こういうのって普通断られるタイプのやつでは?何故か意見が通って俺は身体の

緊張がほぐれる。

「あなた、この辺じゃ見ない顔だね。」

「あの、もしかして異世―――」

言いかけたところで

「そうね。きっとあなたは何処かで死んで

ここに来たのでしょう。」

彼女は食い気味で話してきた。異世界に住んでいる人は、ここが異世界というのを認識しているのだろうか。彼女にとってここは俺が住んでた俗世と同じ解釈なのか。疑問だらけだ。

「さっき旅をしたいと言ったろ?」

ボケーっとした俺の目を覚ますかのように、

急に話しだす。

「いわゆる、あんたは異世界転生というものだ。

元の世界に戻りたいなら、バンリの地へ行くといい。」

「バンリの地?」

俺はラノベでしか聞いたことのないような

中二臭い名前に動揺した。

「ああ。きっとそこに行けば何か分かるはずさ。私が案内してやる。」

その中二臭い地へ行って、本当に俺は元の世界、言わば俗世に戻れるのだろうか。

根拠のない事を淡々と話して信じれるわけがない。うん、まあ行くけどさ、うん。

ただ名前も知らない人に付いていくのは

気が引ける。子どもの時に母が言っていた。

知らない人には付いていくなよ、と。


「悪い、言い忘れていた。私の名は

         クリーナベル・バンリ」


まるで俺の心を読んだかのように咄嗟に名前を発した。それに名前に付いているバンリ、とは

さっきの地名となにか関係があるのか。

それに何故こいつは俺の俗世に戻れる方法、

というよりかはヒントを知っている。謎はさらに

深まり続ける。そして、

モヤモヤとした俺の気持ちを晴らすべく、

「あのさ、なんでお前は現世の戻り方について

知ってるん――――――」

「さて、早速バンリに旅をするか。」

くっ、意図的に話を遮られたような気がした。

やはりこいつには何か秘密がありそうだ。

しかし、こういうのはラノベだと

大事な場面で話を遮られるのは良くある展開。

うん、良くある。よな、ああ。

俺は何を言っても仕方がないと思ったのか、

ぐちゃぐちゃになったシーツのベットから

自然と足を降ろそうとしていた。

途端、風の強い外から飛んできた葉が、

俺の手の甲に乗った。

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