第10話 隠し事

 家に帰ると制服のままベッドに入り込む。

 シワなんて気にしてられない。気になるのは自分の気持ちに気付いてしまった事。

 多分、五十嵐先輩は誰が見ても可愛いと思う。いや絶対そうだ。文句がある奴は手足を縛って分かるまで説明してやる。

 さぁこい。


 最初に会った時も可愛らしいなとは感じた。

 元気で子供の様に笑っては、口を開くと男の子のような口調で大胆な性格。

 でも意外と家庭的な所を見せ付けられる。

 頭も良いのに、少し抜けてる所がおかしくて、おかしくて、わたしを楽しませてくれる。

 同い年と遊ぶように気軽な気持ちでいられるし、そんな空気を作ってくれているのかも?いやあの人はそんなまどろっこしい事はしないし、出来ないだろうな。

 あれが素で裏のない人。どんなにひっくり返しても表で、どんなに色を付けても弾いてしまう。

 それが五十嵐楓子なんだろう。


 わたし達は知り合ってまだまだ全然日が浅い。

 もちろん知らない所なんてまだまだ沢山あると思う。

 五十嵐先輩にわたしの事を教えてない事だってある。

 でもこれまでの五十嵐先輩を見てきて、わたしは好きになってしまったのだ。

 一時の感情?そう、かもしれない。普通の人達なら。

 でもわたしは違うと直感、いや確信してる。一時の感情なんかで済まされてたまるか。

 わたしの思いは本物なんだ。


 顔を思い出すだけでわたしの心はキュゥっと締め付けられて、ちょっと苦しいけど嫌じゃない。

 その度にわたしはベッドの中ではしゃいでしまう。

 恋って楽しいんだなぁ。こんなにも人を想って心が騒がしくなるなんて。



「……」


【ふーちゃんが来るなら……千秋、来るでしょ?】


「涼香には分かってたのかな。自分でも今気付いたのに……」

 あの時の涼香に対しての違和感は、コレの事だったのか。


 そんなバレバレだったのかなと、ゴロゴロと体で布団を巻き込んでしまう。


 目を閉じていると、まるで様子を見にくるかのように、五十嵐先輩の顔がひょこっと出てくる。

 考えないようにしてるつもりなのに、無邪気にわたしの頭の中を暴れまわる。

 そんな姿も可愛らしく、ふふっと笑ってしまう。


「ってコレただの妄想だっ。これじゃあヤバイ奴だよ~!」

 はぁ……無心になろう。というか少し寝ちゃおう。






『千秋!』

 先輩がわたしの名前を呼ぶ。

 いつもの明るい笑顔。


『千秋?』

 先輩がわたしの名前を呼ぶ。

 寂しがってる犬みたいな目。


『千秋』

 先輩がわたしの名前を呼ぶ。

 柔らかい笑みが少し大人っぽく見える。


 ふふふ。


 寝れる訳がない。まぁいいか、はっきりした。

 わたしは可愛い五十嵐先輩が好き!

 それだけ!おしまい!

 わたしはぐちゃぐちゃになった布団を抱き締めて、気持ちを落ち着かせる。


 はぁ、どうにかこの気持ちを五十嵐先輩に……




 バレないようにしなきゃ。














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