第8話 番外編 涼香のご飯事情
はぁはぁ……お腹空いた。
お昼ご飯少なかったかな?
キツネと一緒に食べようと思って買った、たこ焼き。
2人で分けて10個づつ。たくさんあるし1個だけ食べちゃお。
おいしぃー。ソースの甘酸っぱさと、マヨネーズの甘味が最高だよぉ。
カリカリでもちもち。
……1個のつもりが、いつの間にか2個食べちゃった。まだたくさんあるしいっか?
ごめんねキツネ。
ピンポーン
「はいはぁい」
「きた」
たこ焼きが入った紙袋を掲げて、キツネに渡す。「おぉこれはこれは」と袋の中身を覗くと、キツネの動きが急に止まった。
「これはたこ焼きだね?」
「たこ焼き」
「大きい箱だね?20個入りと書かれているね?」
「大容量」
「おかしいね?20個の割には重さがあまり感じられないような?それに重心のバランスに違和感を感じるよ?」
「……キツネご飯作って」
なんとか気をそらす為に、そぉっと家に上がり込むと頭を掴まれた。
バレてしまったの?私の完璧な作戦が。もう見破られてしまったの?
「四隅にたこ焼きを置いてバランスを取っているようだけど、何故3個だけなのかな?」
「最初は四隅に1個づつ移動してたけど、最後の1個はいつの間にか消えていたの」
嘘はついてない。ちゃんと事実を話した。4個あったたこ焼きは隅っこに移動していたはずなのに、分からないけど何故か移動してる最中に消えてしまった。
でも大丈夫。きっとキツネなら推理できるはず。
「なるほど。涼香の作戦が完了されるその時、謎の力によって最後の欠片が消えてしまったと……」
「そう。謎なの。落としたりしてないし、味も変わらず美味しかった」
暫くの沈黙、ううん。一瞬といいほどに感じられた。1秒もしない間。
間と呼んでいいのかさえ分からないけどれ、キツネは口を開いた。
「恐らく、いや絶対と言っていいほどに確信したね」
私はキツネの気迫に少し圧倒される。
キツネは眼鏡を拭いて、かけ直す。存在しない眼鏡が見えるほどに今、私はキツネに魅入っている。
「ただ涼香が我慢できなくて無意識に食べたんじゃね?」
「――!!」
衝撃。私の無意識の行動すらも推理してしまうなんて、流石はキツネ。
「ごめんねキツネ……。キツネのたこ焼き1個しかない」
「おおい!17個も食っといて、残りの3個も分け合うのかよ!!しかもウチが1かい!」
「あっ!そっか。じゃあ、こりぇで、にゅこだかりゃ、ゴクン。仲良く1個づつ、だね?」
小首を傾げながら、事件解決した喜びを私は輝いた目で表した。
キツネもニコっと笑ってから、残りのたこ焼きを2個同時に口に運んだ。
「あっ、ああー!」
そんな顔色一つ変えないで、食べるなんて、酷いよキツネ。
そんなやりとりを終えて私達はリビングへ向かう。
私は椅子に座り、キツネは台所に立ち、包丁片手に変なポーズを取ると
「本日のメニューは煮魚、カルボナーラ、餡かけ焼きそば、どれになさいますか?」
どれも包丁使わなそうなメニュー。
「キツネのなら何でもいいよ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
私はキツネの作るご飯が好き。おいしいのはもちろんだけど、料理してる時だけキツネの目が開く。
その姿は皆が知らないキツネ。普段のキツネのふざけた雰囲気なんてどこにもなく、料理に真剣に向き合っている。
私はその姿を見ながら、大好きなキツネのご飯を待つのが好き。
誰も知らないキツネ。私しか知らないキツネ。私は誰にも知られたくないキツネを独り占めする。
たまに目が合うとキツネは恥ずかしそうに目を反らすけど、ニッと笑いかけてくれる。
これも私だけが知っている笑顔。
次第にいい匂いが部屋中を包み込むと、私のお腹がご飯寄こせと催促する。
お腹を擦りながら宥めていると、コトンと小皿が置かれる。
「もう少しだから先にそれ食べてな」
キツネはいつも私のお腹事情を察してコレを出してくれる。
3つにカットされた黄色い俵を口に運ぶと、私の好きなしょっぱい味付け。
「キツネの卵焼きは最強」
「別に、どの卵焼きもおいしいでしょー」
確かに甘い、しょっぱい、おいしい味付けはたくさんある。
でもね、これはキツネが私の為に作ってくれた私だけの卵焼き。
誰がなんと言おうとこの卵焼きが最強。他とは比べ物にならないほどの美味しさなの。
いつか消えてしまうこの卵焼きを少しでも長く、と私はゆっくりと味わった。
最後の卵焼きを口に運び、飲み込むと台所の音が止む。
「へいお待ち!今日は中華だぜ!」
テーブルに次々と置かれた料理は色鮮やかで湯気がすごかった。
餃子、エビチリ、チャーハン、わかめスープ、小籠包、麻婆豆腐、卵焼き。
「全然言ってたメニューがない」
「あれ?あっちのがよかった?」
エプロンを外しながら、不安そうな顔をするキツネも私しか知らない。
「ううん……。さいきょー」
不満なんてない。キツネの料理ならなんでも嬉しいから。
私が笑顔を向けるとキツネも笑う。
「こんなにたくさん食べれるかな?」
「ウチも食べるんだよ!」
それは私しか知らない。
誰にも教えたくない、私のご飯事情。
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