10・サトウキビ畑を見に行こう

第27話 遺跡第一層へ

 フォーエイブル男爵絡みの仕事で、たっぷりと報酬をもらった僕。

 懐がたいへん暖かく、本日の朝食はいつもの定食屋よりもワンランク上のところで食べることにしたのだった。


 ハーブとひき肉をたっぷり腸詰めにした自家製ソーセージと、やはりその食堂の自家製ザワークラフトみたいなのがついてくるセットにした。


「あっあっ、こりゃあ美味い。ワンランク上げるだけで如実に美味しくなる……。贅沢を知って元の世界に戻れなくなりそうだ」


 戻るけどね!

 いいものを食べるのは、今日一日だけだ。

 チートデイというやつだ。


 なお、安楽椅子冒険者はあまりにも活発に活動しすぎたため、精神的に疲労してしばらくはギルドに引きこもるそうだ。

 ギルドに……?

 自室じゃなく?


 彼女が家にしている宿、もう住み着いてから経営者が二回変わってるらしい。

 親子三代を見守ってきてるじゃん。

 その宿には長く住んでいてあまりに代わり映えしないので、ギルドに居座っているのだとか。


 僕としては、彼女が自宅を持っていないことが驚きなのだが……。

 まあ、普段あまり仕事してないしな。


 なので、本日の予定はいつも通り一人でやる。

 今日は何をするか?

 懐が暖かい今、僕は仕事などする必要がない。


 一週間はサボって骨休めして暮らすつもりだ。

 その一日目たる今日は……。


「ドロテアさんが言っていた、遺跡第一層のサトウキビ畑に行ってみるか!」


 思えば、巨大遺跡の上にあるアーランに住んでからもう十五年ほどになる。

 この世界にあるそこそこ大きな都市は、遺跡の真上にあることが多い。

 なぜなら、遺跡から採取される資材などなどが都市の発展を助けてくれるからだ。


 なので、そこには遺跡探索をするために冒険者たちが集まる。

 で、冒険者たちをまとめる人間が権力を得て、貴族になったりする。


 こうして都市が国になる。

 アーランはそういうタイプ。


 で、僕は長いことここにいるのに、遺跡には一回も入ったことが無いんだな。

 必要が無かったからねえ……。


 アーランの遺跡第一層から第三層までは掘り尽くされて、何も残っていない。

 それより下となると、一日や二日では到達できないわけだ。

 ソロ冒険者が行くような場所じゃない。


「だけど、せっかく金があるなら第一層観光をしてもいいな……。というわけで、思い立ったが吉日だ」


 僕は弁当の保存食を買い、第一層の入口に立っていた。

 たくさんの人が中に出入りしている。


 ここは、遺跡を利用した畑作地帯になっているらしい。

 遺跡の中が?

 不思議すぎる。


「おや、観光? あ、冒険者か。なんか依頼あった?」


 入口に立っていた検問の兵士とやり取りする。


「観光ですね。ここっていつくらいから観光できるようになったんですか?」


「ええとね、二十年くらい前だね。第一層の攻略が完了したのがその頃合いでな。で、十年前に第三層まで行って、それっきりだよ。第四層以降は本当に難攻不落らしい」


「へえ、そりゃあ大変だあ」


 つまりその二十年前ちょっとくらいに、ギルマスは第一層でドロテアさんを発見したわけだ。

 正確には三十年ちょい前だろう。

 で、リップルもそれと近い頃にアーランを襲ったエルダードラゴンを撃退している。


 三十年前のアーランは激動の時期だったんじゃないか。

 あの安楽椅子冒険者、その事を絶対に語らないからなあ。


 僕の目で、第一層を見て回るしかあるまい。

 すぐに許可が出た。

 入場料として、少しばかりお金を支払う。


 これが積もり積もって兵士たちのお給料になるらしい。


 ぷらぷらと遺跡第一層を歩く。

 天井は明るい。

 魔法の輝きが降り注ぐ、屋内のような感じ……と思って、天井を見て驚いた。


 上が吹き抜けのような見た目になっていて、太陽の輝きみたいなものが降り注いでいる。

 なんだこりゃあ。

 街の下に、もう一つの世界があったのだ。


「これは凄いなあ……」


 天井を見上げ、キョロキョロしながら、太いメイン通路を歩いていく。

 道はあちこちに枝分かれし、それぞれの内部が畑になっているようだ。

 覗いてみると、畑は上下二層に分かれていた。


 なんと、上層の畑の床がまた太陽になっている。

 なんだこりゃあ。


「こんにちはーちょっと聞いていいです?」


「ああ、観光客さん。どうぞどうぞ」


 農夫らしき人が、そう言いながら手でコインのカタチを作ってきた。

 お金を握らせる僕。

 金は人間関係の潤滑油ですからね。


 「これはね、アーランの偉い賢者様が調べたところによると、頭上にある太陽をこの遺跡は感知していて、それを幻にしてこっちに映し出してるらしいんだよ。で、そんなことをする魔力がどこから出てるかと言うと……。この中やアーランで生活してる人間から少しずつ吸い取っているんだと。はあー、上手く出来てるよな」


「なるほどなあ……!」


 そりゃあ、この中で畑作が盛んになるはずだ。

 この間、芋泥棒と戦った畑はここよりも古い由来の場所らしい。 

 だが、この遺跡が開拓されて以降、アーランの畑は全て遺跡第一層に展開されているとか。


「僕は不思議な場所に住んでいたんだな……」


 感心しながら、僕はサトウキビ畑を目指して歩みを進めるのだった。





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