第9話 小さな妹弟とマリアンヌ

翌日、私が目を覚ますと、日はとっくに高いところまで昇っていた。

ふわふわの真っ白なお布団に、お姫様のような天蓋付きベッド。薄いピンクの布がカーテンのように掛かっている。

お茶の出来る可愛いテーブルに椅子まであって、うちのリビング・ダイニングを合わせてよりもずっと広い。急な客人だったにも関わらず、心こめて迎えてくれたことがわかる。


昨夜、私の訪問が決まってすぐ、レイは私達が着く前に伝令を走らせてくれていたのだ。夕食はさすがに終わっていた時刻だったので、それでもお茶とサンドイッチを用意してくれていた。レイは仕事があるとかで、夕食に姿は見せなかったけど。


代わりに、最初お迎えに出てきてくれていた執事さん、セバスチャンがお相手してくれた。

黒い執事服をビシッと格好良く着こなしてる初老の彼は、セバスチャンってお名前も執事らしい、なんて内心喜んでいると、さらに「どうぞセバスとお呼びください」なんて胸に手を当てて言うもんだから、もっとテンションがあがってしまった。


私はふわふわの布団から降りて、窓辺に寄る。昨日はよくわからなかったけど、ここは町のはずれに建っている屋敷で、遠くに白亜のお城も見える。


これから二週間ほど、どうやって過ごそう……。


昨日はお客様って言ってくれてたけど、二週間も何もせず、ただ泊めていただくだけでは申し訳ない。それも本来なら聖女様を召喚したかったのに、私が邪魔をして来てしまったし。やっぱりタダで宿泊と食事付きは申し訳なさすぎる。


うん、何か仕事をさせてもらおう……


そう考えてたところ、トントン、とドアをノックする音がする。

わ、どうしよっ!まだ借りたネグリジェのままだ。

とりあえず返事よね。

「は、はい!」

「ミツキ様、お目覚めですか?お着替えのお手伝いに参りました」

ん?お手伝いって、自分で着れますけど?

不思議に思いながら、どうぞ、と言ってみると、私の担当をしてくれるというメアリが失礼します、と入ってきた。


私より年下で18歳と若い気さくな女の子だ。お蔭で緊張することもなく、気軽に話も出来た。

「おはようございます、ミツキ様。よく眠れましたか?」

「はい、お蔭様でぐっすり」

それは、よかったです!と言いながら、目覚めにお茶を一杯入れてくれる。

「あの、レイは?」

「いつも通り早くに起きて、お仕事に行かれました」

「え?そうなの?」

「はい。ご主人様が、ミツキ様は今朝は疲れているだろうから起こさないように、とのことでしたので」

「そう、なんだ」

レイにお願いしたいことがあったのに、残念。


「ところでミツキ様、ドレスですが」

「ん?ドレス?」

私の着てきた服のことかな。

「あ、そう言えば私が着てきた服、どこかな」

「それならお洗濯させていただいてますが」

「ええっ!?」

あれ1枚しかないんだけど!


私がショックを受けていると、メアリがお着替えはこちらに、とクローゼットを開けると、そこにはドレスが数枚掛かっていた。あまりに急だったので、マリアンヌさんが貸してくださったとのことだった。

どれも新しく見えるようなきれいめで、フリルたっぷりのものやピンクなど可愛らしいものが多かった。


その中からシンプルラインな淡い水色のシフォンのドレスに決めた。あまりフリルたっぷりや膨らんだ形のいかにもドレスってものは、きっと衣装に着られちゃって自分には似合わないなと思って遠慮した。


「わあミツキ様。黒い髪にとてもよくお似合いですよ」

「ありがとう」

「ちょっと胸元が大きめですけど、大丈夫です!」


ああ!そこ、気になってたから言わないで。


苦笑しながら、私はメアリに連れられて食堂へと向かった。


「あ、ミツキ!」

食堂へ入ると、小さな妹弟とマリアンヌさんが席について、すでに朝食を食べているところだった。

「おはようございます」

「うふふ、おはよう」

「あの、マリアンヌさん。ドレス、貸してくださりありがとうございます」

「いいえ、ほんとは新しいものをお仕立てすべきなのに、昨夜は間に合わなくてごめんなさい。ミツキの服では、この国では目立ってしまうからとレイが言うものですから」

あ、そうなんだ。彼が気にしてくれたんだ。

彼が服装とか気にしてくれることが意外だった。昨夜のサンドイッチとか、今朝も起こさないようにメアリに伝えてたこととか、一見ぶっきらぼうで無愛想にも見えるけど、ほんとは気遣いのできる繊細な人なのかも。…知れない。


「ねえミツキ!今日はお庭を案内してあげるね」

弟のキースが今朝も可愛く声を掛けてくれる。

「じゃあ、私は屋敷の中を案内するわね」

キースの姉のアリシアが同じく声を掛けてくれる。


「二人とも、あまりミツキを困らせてはだめよ」

紅茶を飲んでいたマリアンヌが困ったように眉を下げて言う。

「あ、いえ。嬉しいです。私、一人っ子だったので、こうして二人が誘ってくれると、可愛い妹と弟ができたみたいで。楽しいですから」

「そう?そう言ってもらえたら嬉しいわ。私も妹が出来たみたいで嬉しいのよ。ね、一緒に街へお買い物にも行きましょうね」

ニコニコと人懐っこく笑ったところは、やっぱりこの三人はよく似ている。

昨日はレイとマリアンヌの親密な感じに混乱していたけど、アリシア達二人の子供達はレイのことお兄さまと呼んでいた。

ということは、年の離れた兄弟。レイはこのランドルフ家の当主だと言っていた。でも、マリアンヌはこの屋敷の女主人。

ってどういうことなんだろう?


私は美味しい朝食をいただき、子どもたちは朝の勉強へと部屋へ戻ったので、広い食堂には私とマリアンヌだけになった。

マリアンヌが場所を庭へ移して、食後のティータイムはどうかと誘ってくれたので、有り難くお誘いを受けることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る