第8話 地獄には段階がある4

「だがお前がいなければ莉緒様の御心は乱れなかったのではないか、という疑念は晴れていない。どう説明する?」

「……サードパーティ装備によるトイプチ死亡事故の事は?」

「知っている」


 サードパーティ装備によるトイプチ死亡事故。それはトイプチの卵が見つかって、「トイ・ダンジョン」の主力がトイプチに切り替わりつつあった時に起こった、事故という名の事件だ。

 当時はトイプチの装備も出てきたばかりで、ドローンに積み込まれていた武装を流用した物が多かった。それでも、種類は少ないが手ごろな価格で故障率が低い大企業のもの、種類が多く細かい所まで手が届くが高価格な工場のものと、選べる程度の幅はあった。

 ただその頃はまだドローンによる探索もそれなりの人数がいて、その中の一部はトイプチの事を「ドローンの敵」と認識していたらしい。だからパーツを使って装備を作り、市販されているものに限りなく寄せて販売し……探索中に暴発。その時一緒に探索していた他のトイプチを巻き込んで死亡させた。


「あの事故に例えるのであれば、俺は購入者。そちらの莉緒様は死亡動画を目にした方。販売者が夏毟達3名」

「……なるほど。菅池、どうだ」

「かなり事実に近い秀逸な例えかと」


 トイプチは「トイ・ダンジョン」から出て来るものだからか、たとえ死んでもグロくはならない。内部に出てくる敵、ゲームのモンスターのような相手と一緒で、ダメージエフェクトが出て消えるだけだ。

 ただ、トイプチはまぁ可愛い。そして「トイ・ダンジョン」の探索の主力でもある。再びトイプチの卵を手に入れたところで同じトイプチが戻ってくる訳でも無いし、何より、心情的なダメージが大きい。

 だから当時は大変な騒ぎになった。……だからたぶん、これもきっと過激派のやらかしって言うべきなんだろうな。ドローン探索派の。


「だが津和克英。貴様もドローン探索派と聞いたが?」

「トイプチが可愛いという事に異論はないです。というかそもそも、他の人が大事にしている何かに攻撃しちゃダメでしょう」

「あー……っと、津和。「大人」でたぶん一番厄介な奴、こっちでも調べたんだが、話していいか?」

「……せめて敵にならず余計な事をしないなら」


 いやダメだろ。と答えると、後ろに控えてた菅池が俺に聞いてきた。いや有能か。……でもないな。何故なら毎日俺の帰り道に出没するし、昨日はトイプチの卵を差し出す事になったからな。ちょっと様子を見ればすぐわかるか。


「桑原さん。この津和は、ファンボル所属藻久にトイプチの卵を恐喝されています」

「……何? いや、自分の口で説明して見ろ」

「高校入学の時に探索資格を取りました。その説明に来たのがギルド「ファンタジーボーリング」所属の春園清香で、探索資格を取る為に真剣に受講していたら、それを春園清香への熱意と捉えられてストーカーされています」

「恐喝の部分が無いが?」

「藻久の頭の中にある理屈が分からないので説明できません。証言としては、トイプチを持っていると俺が春園清香に近づく、それは許せない、だからトイプチの卵を持つ事が許せない、よって全て差し出せ。と言っていましたが」


 流石にそれは想定外だったのか、腕組みをして仁王立ちのままちょっと顔を引きつらせる5人組。……いや、お前らのやろうとしたことも大概だからな? とは思ったが言わない。


「ただ、トイプチの卵には模様がありますよね?」

「あるな」

「あれにちょっと模様を追加して、よほどトイプチの卵に詳しく無ければ分からない程度に模様を変えたんです。その模様を変えた卵が春園清香の配信で「ファンからの贈り物」と紹介されていたので、たぶん俺から持って行ったのは「贈り物」になっているのかと」

「えっ何それ知らない」

「菅池、どういう事だ」

「いやぁ……一応こう、色々軽く調べて、藻久が津和にトイプチの卵を出させてる現場は確認したんですが、その卵の行方までは時間が足りなかったので」


 てことは、こいつやっぱ昨日俺の後をつけてきてたな。そのままマンションまでついて来てたら大家からの暴言も聞いている筈だ。まぁそれは別にいいんだけど。

 ただそれ、ストーカーだからな? 近所に頼んで防犯カメラの映像出してもらえば、俺はお前を訴えて勝てるぞ?

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