第3話 新生活は地獄で3
放課後になって早々のカツアゲと、毎日帰り道で待ち伏せているストーカー。それで疲れた俺はどうにか1人暮らしの部屋に帰り着いた訳だ。
明日と明後日は、学校でのカツアゲはない。何故なら未成年が宝石を換金できるのは、1週間に1個までだからだ。「トイ・ダンジョン」を攻略してないのに宝石を持っているのはおかしいからな。その辺はちゃんと考えられるらしい。
じゃあ探索に行かなくていいかというと、そんな事はない。制服を着替えてすぐ「トイ・ダンジョン公園」に向かって、攻略する為の資格証を提示して、人気のない隅に口を開けている「トイ・ダンジョン」の前に座り込んだ。
「今日も頼むぜ、相棒」
その場でドローンを組み立ててコントローラーを握り、攻略開始だ。取り付けたカメラの映像を見ながらドローンを操作して、マジックアームやネイルガンを使って、中で邪魔をしてくる敵……トイモンスターを倒して最奥を目指す。
大体の攻略者は、小型カメラをつけたトイプチに指示を出して終わりだ。その間はのんびりゲームをしたり動画編集をしたりすればいい。だが俺は、こうやって自分の手でドローンを操作して攻略していく、この時間がなかなか好きだった。
ゲームみたいなもんだ。ランダムステージを手持ち武装でどうやって攻略していくか。ある程度の法則と攻略法は分かってても、毎回違う構造だとわくわくする。
『6時になりました。「トイ・ダンジョン公園」では、未成年の攻略は6時までとなっております。未成年の方は速やかに帰宅して下さい。繰り返します。6時になりました――』
で、そんな風に楽しくも限界まで素早く攻略して、一番小さい「トイ・ダンジョン」を何とか最奥まで攻略し、お宝を持って帰ったところでそんなアナウンスが響いた。
手に入ったのは……トイプチの卵だ。これはちゃんと監視カメラに見えるように保冷材の入ったクーラーバッグを開けて、その中に入れておく。明日はストーカーに渡す為に、保冷剤と一緒に持って行かないとな……。
で、素直に帰る。ここでゴネると最悪資格剝奪だからな。あちこちからカツアゲされるとはいえ、探索できなくなるのは嫌だが勝つ。……まぁ資格剥奪になったら、カツアゲで済まないかもしれないんだが。
「おかえり。今日の成果は?」
「トイプチの卵が1つだけです」
「なんだいシケてるねぇ」
……ちなみに、食い気味に聞いておきながら、俺が目的の物を持っていないと知った途端に唾を吐きかけてくる勢いのこのおばさんは、このマンションのオーナーである。
宝石を代表として、トイプチの卵や不思議な道具が出てくる「トイ・ダンジョン」だが、その中に薬がある。なかなか出ない貴重品なのだが、これがなんと、飲むと大変肌艶が良くなるものらしい。
中には難病に効く薬、大体はシロップみたいな液体だからポーションと呼ばれているものもあるらしいんだが、それが出たら即「トイ・ダンジョン公園」を管理している人がやって来て、どこかへ連れ去られるそうだ。実際は貴重品過ぎて、国が買い上げているだろうが。
「いいかい。あんたの部屋の家賃を10倍に上げる事なんて造作もないんだからね。1ヵ月に1個ポーションを渡すのなら今の家賃で据え置いてやるだけだからね。前のポーションからもう5日経ってるよ。忘れんじゃないよ」
「うす」
「あぁ心配だねぇ。ぼんやりしていて時代遅れの機械なんぞで攻略して、大事なアタシのポーションが割れちゃったらどうするんだろうねぇ。早く何でもいいから畜生を持てばいいのにねぇ」
あーあ、あーあとこれ見よがしにため息を吐きながら文句の雨をぶっかけてくる大家だが、トイプチの卵をカツアゲされる事については相談している。その時は、自分で何とかしな男だろ、と、アタシを偉い人との争いに巻き込むんじゃないよ、と言われた。
だというのにトイプチがいない事に対する文句は言うし、そもそもポーションの効果は半年は続く。同じポーションを山ほど飲んでも効果は変わらないし、いくら肌艶が良くなっても性根が悪ければ一緒だろ。
ちなみに一応法律関係は勉強して、家賃を理由なく10倍に上げるのは不法で訴えれば勝てるというのも分かっている。……が、ポーションを賄賂とされると詰むのは俺だ。
ほんと、何でこんな問題しかない物件に一目惚れしたかな、入試の時の俺。
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