第14話ラスタン襲撃編③

 シャーロットに抱かれて、窓から聖教騎士団が去っていくのを見送る。

 馬に跨ったクロエが振り返り、こちらを見つめた。

 それほど長い時間ではなかったと思う。でも、俺には永遠にさえ感じられるような、あるいは時が止まってしまったかのような出来事だった。彼女のエメラルドグリーンの瞳にすべてを見透かされているような気分になり、俺は不安と焦りを感じた。


 クロエのが口を開き、何か短い言葉を発する。

 ここからでは聞き取れない。

 彼女は笑みを浮かべると、こちらに向かって手を振った。


「ほら、ダーク。クロエ様が手を振ってらっしゃる。誤解が解けて良かった」

 シャーロットが嬉しそうに語りかける。


 誤解が解けたんじゃない。

 きっとクロエは、何らかの確信を得たのだろう。

 強いうえに頭も切れるヤツは本当に面倒くさい。

 しかし、退屈はしない。


 俺はとびっきりの笑顔で「にゃんにゃん」と連呼しながら、クロエに向かって手を振った。




 カリオスが孤児院を訪れたのは、クロエたちが去って2日後のことだった。皆が寝静まった夜中、カリオスは俺のベッドの前で報告を始めた。

 

「リュウ様の指示通り、オスタリア女王はハイランド王国に、モンスター討伐を依頼しました。成功の暁にはハイランドの結婚申し込みを受諾するという交換条件です」

「順調でなにより。これで当面のエサと装備品回収には困らないな」


 国境で違法採掘を行っていたアイゼル王国は、5回目の派兵を最後に動きを見せなくなった。そこでオスタリア女王、ヘルミナ・アデライトにモンスター討伐を依頼させた。結婚話をちらつかせると、ハイランド王国はいとも簡単に動いた。4日後に1個連隊5千の兵士を派兵することが決定した。


「しかし、大丈夫でしょうか? 大国を相手に戦争というのは、いささか目立ちすぎるのでは?」

「ああ、聖教騎士団はこっちに引き付けておくさ。と言っても、俺はなんもできないから実行役は任せるけど」

「ハッ、承知しました」

 カリオスが拳を胸に当て敬礼する。

「他に問題は?」

「2点ございます。1つはゴブリン、トロールの繁殖に使う人間が不足しております。あと1つは、リュウ様に従属させる魔族への説得が難航しております」

「繁殖用の人間はこの国、リンデイで確保して構わない。なるべく小さな村を襲ってくれ。必ずゴブリン、トロールに襲わせて、生き残りがいないようにしてくれよ。事が済み次第、速やかにオスタリアへ帰還すること」

「了解いたしました」

 問題が1つ解決し、カリオスはホッとした表情で答えた。

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死刑囚転生~異世界征服の野望を抱く~ パイ吉 @paikiti

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