第20話「トラスト・ラスト/九相童話の吸魂狐」

「——EXスキルカード、発動。

 月光なき暗闇を纏う剣士よ、時空の潮流をその身に浴びて、今こそ遠未来の夜を照らせ!


 ——『Evolution』——


 来て! 『デザイアブレイド-アサルト・タキオン』——!!」


 ——昏き混沌の劇場に風穴を空けて、鉄の翼と超強化軽量金属の鎧をその身に纏い、遠い未来のサムライが——剣と共に舞い降りる。


 人とも機械ともつかぬその姿は、いずれ人類が外宇宙に旅立つことを意味しているのか。

 私にはまだ見当もつかない。けれど——


 ——けれど。その剣は確かに、私のために構えられている。なら私は、その力を信じるのみだ。


 この闘争儀式を終わらせるために。


 ◇


ターンプレイヤー:月峰カザネ

手札:2枚

控え:破壊状態4体/残り枠0

場:『デザイアブレイド-アサルトタキオン』

   AP3000


プレイヤー:穂村カレン

手札:5枚

控え:破壊状態3体/残り枠1

場:『九相童話ナインテールズ レアルタヌア・キマイ=ラヌエ』

   AP5555→4555


 ◇


「——って! ギャハハハハハハハ! 鳴物入りって感じなのにAP3000かよウケるーーー!! そんなんじゃアタシのキマイ=ラヌエは超えられないっつーの! 負けて死ね!」


 カレンの煽りに共鳴するかのように咆哮する正体不明の浮遊肉塊。どこから声が出ているのかさえ不明瞭なそれは、見ているだけでメンタルに来る。


 ——可及的速やかに、叩く!


「アサルト・タキオンの召喚時効果発動! その機動力を活かした急襲によって、相手の不意を突いてタキオンのAP分の時空流を斬撃として射出する!」

「ハァ!?? 飛ぶ斬撃ってなんなのよーーー!?」


 即座に行われる高機動立体攻撃。これによって強制的な時の加速がキマイ=ラヌエに発生し、その正体不明の肉塊が風化していく!


『キマイ=ラヌエ』

 AP4555 → 1555


「チィ——!」

「すかさずバトル!

 この瞬間、アサルト・タキオンの特殊効果を発動!」

「ハァ!? まだあんのォ!??」


 アサルト・タキオンの背部ブースターが勢いを増し、両翼も謎の未来技術による推進エネルギーフィールドを発生させる。これによりアサルト・タキオンは爆発的な加速と運動性を得る!


「アサルト・タキオンは戦闘時、複数の能力から1つを選択して発動できる! 今回私が選ぶのは——追加攻撃権の獲得! これでタキオンはこのターン、2回攻撃が可能となる!!

 『タキオン・タイムレス・アサルト』——!」


「————!!」


 二振りの刀を構え、高速斬撃を開始するアサルト・タキオン。その一太刀により、キマイ=ラヌエは崩壊する!

 そして——


「キマイ=ラヌエ、撃破!

 後続センチネルが来ようとそいつも倒す。——もっとも、9種全部出た今、同名カードでもない限りこれ以上の召喚は見込めないけど!」

「——……ッ!」


 ——デッキの中身は、札闘士の心象そのもの。あの九相童話というカテゴリはおそらく、「9」という数字にこだわっている。アブソーブセンチネルはあくまでもそれらの合体にすぎず、彼女の精神としてはあの9体で完成していると考えられる。

 加えて、あれだけドローしたにも関わらず、未だに同名カードが1枚も召喚されていないことも鑑みるに——

 あのデッキには、もうセンチネルが存在しない。


 それでも念入りに攻撃権追加を選んだ。なぜって、カレンの目がまだ諦めていなかったからだ。

 余裕があるとまでは言えないにせよ、あれはまだ、打つ手がある顔!


 そしてその直感は、現実となる。


「——させないのよ! スキルカード『その栞は杭のようにテール・アゲイン、パラダイス・リゲインド』発動!

 これにより、キマイ=ラヌエの破壊を無効にして、直前の状態で復元するのだわ!」


 舞い戻る浮遊肉塊。混沌劇場は再演されようとしている。でもだからこその追撃よ!


「それでもAPは1555! 追撃よタキオン!

 『タイムレス・アサルト・アゲイン』——!!」


 再びの超高速斬撃。二刀流の超戦闘を前に、今度こそ混沌の巨星は地に堕ちた。爆風を正面から受け止めて尚、アサルト・タキオンは無傷だった。


「……今度こそ、これで終わりよ」


 ガラ空きになったカレンのフィールド。今まさに、タキオンがそこへ突き進もうとしている。

 ——その最中、


「……だよ……まだ、こんなもんじゃないのよ……。

 ——アタシのデッキは、まだ終わってないのだわ!!」


 カレンの前に、再びキマイ=ラヌエが出現する。だがそのAPは、ついに0となっていた。


「スキルカード『アビス・サルベージ』を発動したのだわ。浸蝕結界展開中のみ発動できるこのカードによって、戦闘破壊されたキマイ=ラヌエを戦線復帰させるのよ……! これで、このターンは凌いだわ!」

「——っ、ターン、エンド」


 倒しきれなかった。新たな切り札を用いても尚、削りきれない。——あの子は強い。その実力は本物だ。だってのに、だってのに、なんで、なんで——


「——カレン。なんであなたは札伐闘技フダディエイトに参加したの? それだけの才能があったら、こんな儀式に頼らなくたって、何者にでも——」


 なれたんじゃないか——そう言いかけて、カレンの表情が怒りと憎しみに染まっていることに気づく。


「——なれたらなァ……なれたらこうはなってねェんだよッ!

 才能だけじゃ、掴めねェんだよ! 持ってるお前がさァ……アタシを語るんじゃねェ……!!」

「————」


 失言だった。そう思った時、それはもう——後悔するには遅い。

 今のはきっと断絶だった。この戦いの中で、カレンと対話できるチャンスが、失われていくのを感じる。


「アタシのターン、ドロー」


 ——カレンの表情が氷のように冷え切っていき、そして、


「今このフィールドには、先輩のフィールドも含めて9

 アタシは今——これら全てをする。


 『アビス・カオス・マギア』起動——

 ——九つの物語、九つの魂が絡み合い、溶け合い、今まさにアンソロジーを超えたマイソロジーが産み落とされる——

 九尾の狐よ、今その『童話/尾テールズ』を、魂を穿つ弾丸に変え——アタシを勝利に導いて!


 九極統合ナインテールズ・アブソーブ


 来たれ、『九相童話の吸魂狐ナインテールズ・ナインソロジー・フォックス』——!!」



 

 劇場すら呑み込んで、九相童話は新たな形へ編纂される。


 ——それは九つの尾を持つ妖狐。ではなく。

 ——それは全ての色を混ぜ合わせた末の漆黒。

 ——それは、彼女の抱く混沌そのものだとでも言うのか?


 かくして、それは産み落とされた。


 闇よりも昏い漆黒のセンチネル。


 九相童話の果ての果てがここに顕現した。


 ◇


九相童話の吸魂狐ナインテールズ・ナインソロジー・フォックス

AP9999


種別:アブソーブセンチネル

召喚条件:『九相童話ナインテールズ』センチネル×9


【永続効果】

・このセンチネルは、APを1000減らすことで場を離れない。

・このセンチネルが9回戦闘した後、場に残っていた場合、このカードの使用者はゲームに勝利する。


 ◇


 芸都ドームなど目じゃない巨躯がその姿を現し、そして、その膨大さが見掛け倒しでないことを、開示テキストがありありと示していた。


「——特殊な勝利条件を追加するセンチネル!」


「……そう。そのとおりよ先輩。

 アタシは負けない。アタシは勝つの。アタシは、アタシを引き入れた社長もいずれは倒すし、アタシを導いてくれた先生も踏み台にする。

 だから、今ここで負けるわけにもいかないのよ。

 保険だとか秘策だとか、そういうの以前に——アタシは、持ってる奴らに負けたくないんだよ」


「カレン、あなたは——」

「話は終わりよ先輩。アタシは勝つ。そういう心構えだから。だからデッキも応えてくれる。

 『アビス・ドロー』を発動。手札を全て捨て札にして、その枚数+1枚をドローする。

 アタシは3枚捨てて——4枚ドロー……!」


 彼女の想いに呼応してか、ドローカードが昏く灯る。彼女の心の変革によって、おそらくデッキが再構築されている。となれば、今彼女は必殺のカードを引き込んだと考えるのが妥当——!


「——先輩。アタシは、お前たち全てを喰らい尽くす。

 『九相童話の吸魂狐ナインテールズ・ナインソロジー・フォックス』を対象に、スキルカード『九相銃/ナインテールズ・リボルバー』を発動。

 これは、1回の戦闘におけるAPを任意の数に分割する代わりに、攻撃回数を同じだけ増加させるカード」


 ——攻撃の分割効果!

 となれば、あのセンチネルのAP9999を9で割れば1111。私のタキオンのAPには及ばなくなるけれど、ナインソロジー・フォックスはAPを1000減らすことでバトルエリアに留まる——。


 それが、9


「——これって、」

「ええ。アタシの勝ちよ」


 そして、九尾一つ一つから必滅の熱線が発射された。


------------

次回、『タイムレス・シューティングスター/ブレイズサレナ』

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