第五話


「足、悪くてさ。来た時ベンチ人いたから。地べたにいっぺん座っちゃったら、もういいかなって。」

「あぁ、そういうこと。ここ空いてるんで座ってください。」


悦子の隣におじさんが座る。

女性はおじさんの隣に立っている。


悦子は10センチほどベンチの端に寄る。二人の方は見ることができない。

俯いて、唇を噛み、何か決心する。


「ねえちゃん、ありがとな」

「全然、大丈夫ですから。」


女性は屈託のない笑顔で言う。







突然、俯き座っていた悦子が顔を真赤にしてバッと立ち上がる。

女性に向かって、立ち上がった勢いとは対象的な、か細い小さな声を振り絞る。


「あ、あの、ここ、ここ座ってください。」


「え?」


「いいんで、私。ここ、座ってください!」


女性は何か言おうとしたが、悦子はさっきまでおじさんが項垂れていた場所の奥にある自動販売機に向かってグングン歩いていく。




小銭を入れて、迷うことなく三ツ矢サイダーのボタンを押す。


別にサイダーなんか飲みたくない。


それでも悦子は、清々しい顔をしている。

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