第18話 久しぶりの再開

サキ『レン、会いたい』


レン『そういうのいいから』


 水萌みなもさんとのお料理教室をした次の日。


 土曜日のバイトが終わったタイミングでレンにメッセージを送った。


 一応昨日の段階で今日出かけるかどうかは聞いていて、バイトが終わったら連絡するように言われていた。


サキ『返信早かったからスマホの前で待機してたんだろ? 可愛いな』


レン『うっさい。たまたまスマホ使ってただけだよ』


サキ『照れんな。ちなみに俺はレンに早く連絡したいからバイト終わって着替えもしないで連絡してる』


レン『あっそ』


 こういう時はとても生の声を聞きたくなる。


 文字だけではレンが照れてるのかわからないから。


サキ『すぐ集合する?』


レン『四時にこの前のゲーセンで』


サキ『わかった。久しぶりのデートを楽しみにしてる』


レン『久しぶりってほどでもないだろ』


サキ『デートって認めてくれるんだ』


レン『黙ればか』


 その後、着替えながら送ったメッセージは全部既読スルーされた。


 だけど適当に時間を置いてから送っているのに、即『既読』の文字がつくのがレンらしくて可愛らしかった。




「待った?」


「オレも今来たとこ」


「デートっぽい。完璧」


 一度家に帰った俺は、レンとの待ち合わせ場所であるゲームセンターに十分前に到着した。


 だけどそこにはパーカーのフードを被りながら、スマホで前髪の確認をしているレンがいた。


 なので五分ぐらいその可愛いレンを眺めていた。


「ほんとは何分前に着いてた?」


「だから少し前だっての」


「十分以上を少しって言うのはそれだけ俺と会うのが楽しみだったってことでいい?」


「何を根拠にそんなこと」


「盗撮ってさ、本人に見せたら盗撮にならないかな?」


 俺はそう言って先ほど撮った髪をいじる可愛いレンの写真を見せる。


「消せ」


「認めるってことでいいかな?」


「とりあえず消せ」


「じゃあ代わりの写真を撮らせてもらうから」


「撮らせないし、とにかく消せ」


 レンはスマホを奪おうとはしないけど、とにかく顔を赤くして上目遣いで体を震わせながら「消せ」を言い続ける。


 ちょっと『可愛い』を詰め込み過ぎな気もするけど、いつものことだったので「ごちそうさま」と言ってその画像を消した。


「宝物にしようと思ったのに」


「うるさい。お前だってオレがサキの恥ずかしい写真を持ってたら嫌だろ?」


「レンになら別にいいかな。誰かに見せびらかしたりしないだろうし、たとえしてもなんか俺を自慢してくれてるみたいで嬉しい」


「馬鹿にしてるかもだぞ?」


「レンはそんなことしないだろ?」


 レンは人を小馬鹿にしたり、からかったりしようとするけど、根が真面目過ぎて人が不幸になるかもしれないことが絶対にできない。


 少しでも相手が悲しもうものなら本気で謝ってくるぐらいだ。


 そんなレンが俺の恥ずかしい写真を誰かに見せびらかすなんてことは絶対にないと言い切れる。


「それにレンは俺の写真を独り占めしたいタイプだろ?」


「そんなこと……ないし」


「おい、その間は期待しちゃうだろ」


「うるさい。お前にはオレ以外にも可愛いお友達がいるみたいだけど、オレにはサキしか……」


 そろそろ『可愛い』が過ぎるのでレンの頭を撫でて落ち着くことにした。


「やめろや」


「レンが可愛いのが悪い。お前らはなんでそう俺に『可愛いお友達』がいるのに突っかかるんだよ」


 水萌さんもだけど、会ったことがない俺のもう一人の友達を話の掛け合いに出す。


「いっそ会ってみる? 多分すぐ仲良くなれるけど」


「なんか妻に愛人を紹介してるみたいだな」


「レンは独占欲強いな」


「誰が妻だ!」


 それならレンは自分を愛人だと思っているのだろうか。


 それはそれでどうなのだろうか。


「まあ、あっちは独占欲強いんだけど」


「そこが可愛いって?」


「大切に思ってくれてるわけだからな。ちなみに友達って森谷もりや 水萌さんなんだよね」


「森谷 水萌?」


 水萌さんにはもう一人の友達の名前を「レン」とだけ教えていたけど、レンには何も教えていなかった。


 特に教える必要もないし、レンも聞こうとはしなかったから教えることもなかったかもだけど、なんとなく秘密にしてるのも嫌だった。


 レンと俺達は同じ学校らしい(学校では会ったことがないから本当かは知らない)ので、有名人の水萌さんのことは知ってるだろう。


 だからこそ、俺のようなモブBみたいな奴と、メインヒロインのような水萌さんが友達なんて、それこそラノベの世界だけのようだけど、事実だから仕方ない。


 案の定なのか、レンの顔は不思議そうになっている。


「信じられない?」


「いや、知り合いに同じ名前の人がいるから偶然の一致に驚いてる」


「レンって俺と同じ学校なんだよな?」


「そうだな。制服同じだったし」


「高一?」


「今更なに?」


 レンのことを疑うわけではないけど、同じ学校で同級生なのに『森谷 水萌』という名前を聞いたのに反応が薄い。


 確かにレンなら噂話とかに興味を示さなそうだけど、それでも水萌さんの名前ぐらいは嫌でも耳に入るはずだ。


 俺がそうだったように。


「金髪碧眼の水萌さんをほんとに知らない?」


「オレがそういうの知ってると思うの?」


「水萌さんはそういうレベルじゃないんだよ。俺が知ってたぐらいだぞ?」


「クラス一緒なんじゃなかったか?」


「そうだけど」


「サキも他クラスだったら知らないだろうよ」


 そういうものなのだろうか。


 俺と水萌さんは同じクラスだから、教室内で毎日囲まれている水萌さんを見ている。


 それを横目で「大変だな」と思っているから、他クラスの人よりは知っていて当然だけど。


「まあレンが言うならそうなのかな」


「オレに対する絶対の信頼をありがとう。そもそもまだ入学から一ヶ月ちょっとでクラスの奴すら覚えてないのに、他クラスの奴なんかわかるわけないだろ」


「それもそうか。俺だって水萌さんとレンしか知らないし、他クラスにレンみたいな可愛い子がいるのだって知らなかったわけだしな」


 水萌さんが可愛いのは周知の事実だとして、レンも負けないくらいには可愛いはずだ。


 比べるわけではないけど、レンだって強気な態度が減って近寄り難さが無くなれば引く手あまたになる。


 まあそれだとレンの良さも同時に減って、しかも俺との時間も減るから嫌なのだけど。


「まあいつか会わせるよ。レンも友達欲しがってるみたいだし」


「別にそんなことはない」


「俺がいるから?」


「今のところはそうだな。サキがいてくれれば満足」


「急に素直になるな。照れる」


 多分無意識なのだろうけど、レンの真面目が発動して素直になられると普通に照れる。


 なんだか無性に頭を撫でてやりたくなる。


 まあ俺以上に、自分の発言に顔を赤くして照れてくれる子がいるから俺は素に戻れるのだけど。


「自分で言って照れるな。可愛すぎて頭撫でるぞ?」


「ほんとにやめろ。それよりこれ」


 レンはそう言ってパーカーのポケットから一枚の封筒を取り出した。


「ラブレター?」


「誰がラブレターを銀行の封筒に入れんだよ。軍資金」


 封筒の中には福澤さんが一枚入っていた。


「とりあえずな。いきなりたくさん渡されても困るだろうし」


「マジだったんだ。そこまでして俺とデートしたいって、俺のこと好きすぎない?」


「デートではないけど、サキとこうして会えるのは結構助かってるよ」


「だからそういうのやめろって。俺は最近自分が男子高校生になってるのが悩みなんだから」


 レンが素直になるとドキッとしてしまう。


 それだけで恋愛感情を持てるほどピュアでもないけど、でもそれは俺が知らないだけで、本当は既に……の可能性だってあるわけで。


「別にサキがオレに告白してもちゃんと断ってわるから大丈夫だぞ」


「それは助かるけど、その後もこうしてデートしてくれる?」


「デートじゃないし、弱々しくなるな。なんか……いいや」


 続きが気になるけど、なんとなく水萌さんと同じことを言いそうなのでやめる。


 俺は決して可愛くない。


「まあいいや。それは一ヶ月分ってことにするから、来月また渡す。無くなっても渡すけど」


「ちゃんと使った分はカウントして、俺が一回でも負けたらその月の分を全額返済でいいか?」


「その日だけでいい。どうせ毎日返してもらうことになるんだから」


「月にしとけばいいのに。まあ素直に受け取るか。俺のお金だけだとレンと一緒にいられる時間が減りそうだし」


 ずっとレンと一緒にいたい俺だけど、さすがに毎週ゲームセンターにやって来ていたらバイト代が先に尽きる。


 他のことをすればいいのだろうけど、今のところは思いつかないし。


「それならオレも気兼ねなくサキと遊べるからな」


「あ、でも俺が働けるようになったら全額返すから。これは絶対」


 これだけは譲る気はない。


 今はレンと一緒にいたいから仕方なく受け取るけど、レンとの時間を貰えるだけで嬉しいのに、お金まで貰ったのではいつか後悔する。


「別にいいのに。まあそれでサキの気持ちが晴れるなら受け取るけど」


「うん。大人になっても一緒にいたいし」


「……そうだな」


 一瞬レンの表情が曇ったけど、すぐにいつもの可愛い無表情に戻った。


 そして話し込んでしまったけど、ここはまだゲームセンターの中ではなく、入口なので中に入ることにした。


 あの表情がなんだったのか気になるけど、多分気にして俺が負けでもしたらレンに、また胸ぐらを掴まれるから気持ちを切り替えることにした。


 レンとの時間を最大限に楽しむ為に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る