第5話 地下に連れ込まれた

 謎のボーイッシュパーカー少女を助けた? 俺は、そのパーカー少女に地下へと連れ込まれた。


 別に危ない場所ではない。


 俺もたまに利用する、ゲームセンターだ。


「なんでゲーセン?」


「オレの息抜きに付き合え。普段からストレス溜まってんのに、今日は変なのに四人も絡まれたからな」


「三人はさっきのだとして、もう一人は誰だ?」


「言わせんな」


 パーカーさ……パーカーが俺の肩に手を置きながら笑顔で言う。


「俺は女だろうと殴る時は殴るぞ?」


「大抵そういうことを言う奴って、『殴る』まで行くのが稀だからそもそも殴らないんだよ」


「うっさい」


 ちょっと腹が立ったのでデコピンだけしておいた。


「暴力男。そんなんじゃ将来結婚しても相手に暴力振るうな」


「今のところ結婚願望ないから安心しろ。それかお前みたいな暴力振るっても平気そうなのと結婚するよ」


「なに、口説いてんの?」


「今ので口説かれてるとか思うならお前の価値観を疑うよ」


 結婚以前に、誰かと付き合うとかを考えてない。


 もっと言えば、俺みたいなめんどくさい男と付き合ってくれる人なんているわけない。


「まあお前の……そういえば名前聞いてなかった」


「名乗る気もなかった」


 俺がそう言うと理不尽な正拳突きをお腹にもらう。


「まったく。そんなんじゃ学校で友達いないだろ」


「いな……くないのか」


 少なくとも昨日まではいなかった。


 だけどちょうど今日『秘密の友達』ができた。


「教えないけど」


「別に興味ないからいいよ。それより名前は? ロリコン?」


「次言ったらその綺麗な顔腫らすぞ」


「やっぱ口説いてんだろ。恥ずいんだよ」


 フードを被っているからわかりにくいが、前を向く一瞬、頬が赤いのが見えた。


「まあどうでもいいけど」


「お前ほんといい性格してんな。それより名前はよ」


「俺は桐崎きりさき 舞翔まいとだよ。呼び方は勝手にしてくれ」


「じゃあサキで」


「いいけど、お前は?」


「なんか突っ込めや」


 またも理不尽に正拳突きをされた。


 別に痛くはないけど、数だけは覚えておく。


「サキでいいの?」


「別になんでもいいって言ったろ? 名字から取ってるし変なとこないだろ」


「女っぽいとかないんだ」


「そういうね。別に呼び方変えたからって性別変わるわけでもなし」


 今の時代、女の子っぽい名前を男に付けるのは普通にある。


 親がどんな気持ちで付けたのかなんて知らないけど、子供の気持ちを考えてあげて欲しい。


 俺は名前がサキでも気にしないだろうけど。


「ふーん。オレは、そうだな……」


「今考えんな。俺だけに個人情報晒させて自分は嘘を言うとかダサいからな?」


「オレの扱いに慣れるの早くないか? わかったよ。オレは恋火れんかだ。名前は嫌いだけど名字はもっと嫌いで口にも出したくないから勘弁」


「じゃあレンで」


 おそらく聞いてはいけないことだろうから深くは聞かないが、レンの表情が悪いのはわかる。


 俺は空気は読まないけど、読めないわけでもない。


「実は良い奴なのか?」


「それはないな。勘違いで俺を美化するなよ?」


「自分で言うなよ。それに美化したところで何も変わらないし」


 それなら助かる。


 勝手に美化して勝手に絶望されても困る。


 水萌さんの悩みの種である。


「それよりここに来た理由は?」


「それ。一発やろうや」


 レンはそう言って格ゲーの筐体きょうたいに手を着く。


「格ゲーね」


「やったことは?」


「何回か。ここってガチな人多いからあんま来ないんだよな」


 クレーンゲームや、プリ機なんかとは一線を引いているこの場所。


 ゲームセンターによく来る人でも、ここには来たことないという人も多いだろう。


「気持ちはわかる。そんなの最初だけなんだけど」


「それな。何事も最初さえ乗り切れば特に気にはならない」


 さすがに対面や隣にガチそうな人が居る時は避けるけど、たまにふらっとやることはある。


「レンは上級者?」


「まあ結構やり込んではいる。初心者をいたぶれるぐらいには」


 レンがニマニマしながら俺を見る。


 これは確信犯の顔だ。


「お前初心者フルボッコにしたろ」


「そんな酷いことしてないさ。一戦譲っていい気持ちのところをノーダメで完封した」


「最低」


「褒め言葉」


 初めてでそんな体験したら、二度と格ゲーに触れないか、逆に燃えるかのどっちかだけど、なんとなく二度とやらなそうな気がした。


「そういうことする奴がいるからここには人が寄り付かないんだよ。そしてそれはゲーセン全体に及んで、最終的にはゲーセンが閉まる」


「それはガチで困るな。でも俺強ムーブして対面来たんだぞ? ボッコにしたいだろ」


「それならセーフだな」


 そういうことなら仕方ない。


 俺でもそうする。


「負けた時の言い訳が『今日は体育で疲れてる』だから」


「それなら遊んでないでさっさと帰れ」


「ほんとそれ」


 それがただの学生だったから良かったけど、さっきの三人組みたいな奴らだったらキレて手を出してきてもおかしくない。


 それを考えるとレンと対応は少し怖い。


「それよりやろう」


「ん。負けた方が、とかある?」


「そうだな、相手の言ったものを取るってのは?」


 レンがクレーンゲームの方を指さして言う。


「取れるまでってか」


「散財させてやる」


「そのまま返すよ」


 俺はゲームセンターによく来るが、全体的に得意とかではない。


 クレーンゲームは取っても家に置き場所がないから取れても困るし


「ボッコにする」


「ふーん、随分と普通なキャラを」


「サキは逆にクセありすぎだな」


 レンが選んだのはこのゲームにおいての主人公にあたるキャラクターだ。


 バランスが良くて初心者でも扱いやすいが、その分動きが研究され尽くされていて、上級者同士だとあまり使われない。


 逆に俺の選んだキャラクターは扱いづらいけど、決まれば強いというクセの強いキャラクターだ。こちらは扱いづらすぎて使われることがあまりない。


「上手い人はコンマの溜めで反応するみたいだけど、サキはそこまでじゃないだろ?」


「さあね。俺のは一回ハマればそれで勝ちだし」


「できんの?」


「さあね」


 この時点で勝負は始まっている。


 ゲームは何も操っているキャラクターだけが戦うわけではない。


 こうした番外戦術もゲームの醍醐味だ。


「あんまりガッカリさせんなよ」


「だからそのまま返すよ」


 そうして三本勝負の一回目が始まり、俺はレンに一発も攻撃を当てられずに終わった。


「弱すぎだろ。わざと負けることもできなかったけど?」


「そう言われてもねぇ」


「まったく。散財の準備はしとけよ」


「お手柔らかに」


 そうして始まった二回戦と


 どちらも俺が一発も攻撃を受けずに終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る