第15話 飛び降りる

 壁伝いにご主人様のいる場所を目指し始めてから数時間が経った。


「ふう、もうそろそろ暗くなってきましたね」


「そ、その様ね」


「今夜はどうしましょうか」


 実際問題、どうしたらいいかさっぱりだ。 

 お金なんて一銭も持っていないから宿になんて泊まれないし……かといってお嬢様を担いでずっと歩いてきたからもう脚も限界だし……。

 どうしようか。

 

 野宿という手も考えたけど、流石にあの男たちに見つかってしまう。

 本当に困ったな……


 そんな事をフォルゼに伝えると。


「私のアクセサリーを売れば、一泊は出来ると思うわ」


「良いんですか?」


「いいわ。どうせこんな物を持っていても命がなければ意味なんてないんだし」


 確かにそうだ。

 命がなければ富は意味なんてなくなる。

 その点ではフォルゼに賛成する。


「じゃあ、そうしましょうか」


 そして、私たちは手頃な宿を見つけ、中にはいった。

 カウンターには髭を生やした店主がいる。

 近づき、フォルゼのアクセサリーを見せる。


「これで一泊させてもらえないかしら?」


「……お前、訳ありだな」


 チラリ、とこちらを見た店主はそう言い放った。


「訳あり?」


「ああ、そうだ。お前みたいな魔族が高価なアクセサリーを差し出して、一泊泊めさせてくれなんて怪しいだろ?」


 確かにそうだ。

 幼い少女が二人でこんな夜に宿屋にやって来たのだ。

 一方は魔族、一方は傷まみれの貴族の少女。

 当然怪訝に思うだろう。

 

 仕方がない、他の宿を当たるか──


「──まあ、安全は保証しないが、一夜だけなら泊めさせてやる」


 しかし、そう思ったとき、店主がそう言った。

 

 安全は保証しない、いか。

 男たちに追われているのにそれは不味くないか?

 いや、泊めさせて貰えるだけありがたい。

 なにせ私は魔族なのだ。 

 それだけでも好待遇だろう。


「ありがとうござます」


 ふん、と鼻を鳴らした店長は部屋まで案内してくれた。




「ふう、疲れました」


「ごめんなさいね、担がせてしまって」


 一日中歩いた事により赤く腫れた私の脚を見たフォルゼは少し申し訳なさそうな顔をした。


「いや、大丈夫です。疲れたとは言ってもまだ歩けますから」


「そうなのね……その、今日はありがとう」


 顔をかくしながらフォルゼはそう言った。

 

「……どういたしまして?」


「あの時私を見捨てなくて、感謝してるわ」


「それはどうも」


「少し見直したわ、魔族は家畜と同じ存在だって思っていたけど、あなたの背中に乗った時思ったの、温かいなって」


 明後日の方向を向くフォルゼ。

 なんだなんだ、明日は雪でも降るんじゃないのか?

 そう思ってしまうくらいには珍しい事だった。

 あんな差別に塗れた価値観だったフォルゼがこんなこんな簡単に感謝してくれるのか?

 そもそも、ご主人様が異常なのだ。

 魔族なんて見下すのが普通。

 だからこそ、フォルゼがそんな態度を取ったことは意外だった。


「そうですか……」


「うん、だからね、ありがとう」


 そして両者は黙った。

 気まずい時間が過ぎる。


 結局、その空気に耐えられなくなった私は寝る事にした。




「──!──・──!!!」


 怒鳴り声が下から聞こえる。

 ドタドタとした足音も一緒に。


 それを聞いた私はパチリと目を覚まし、起き上がる。


「あ、あいつらが来る──」


 一方のフォルゼは既に起きていたようだ。

 その顔は恐怖に染まっており、酷く歪んでいる。


「おい!そこをどけ!」

「断る!客の安全を確保するのが宿屋の義務だ!」

「うるせえな!あんまり邪魔するならぶっ殺してやるぞ!」


 ガン!


 なにか鈍い音が響いたと同時に、足音がこちらへ近づいてきた。


「これは、不味いですね」


 さて、どうやってここから逃げるか。

 窓から飛び降りる?

 この脚で?

 いやいや、無理無理。

 絶対骨折するに決まっている。

 一人なら行けるかもしれないが、フォルゼを背負ってなんて絶対に無理だ。


 どうしようどうしよう。

 必死に考えた末に、窓に近寄る。

 窓を開け、その枠に体を上げる。


「ごめんなさい──」


「お、置いて行かないで!」


 置いて行かれると思ったのだろう。

 フォルゼは若干涙を流しながら懇願した。

  

 いや、別に置いて行く気なんてないんだけどね。


「いや、そういう事じゃなくてですね……もしかしたら骨折して逃げられなくなるかもしれませんって事」


「……え?」


「別に置いて行きませんよ。ご主人様ならそうしますし」


 そう、ご主人様ならこうする筈。

 だから私も同じ様にする。

 それだけだ。


「ほら、乗っかってください」


 乗っかるように背中を向ける。


「……あなた……いい人ね」


「早く乗っかってください!」


「わ、分かったわ!」


 そして、私たちは窓から飛び降りた。




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【あとがき(割と重要)】


 新作の方が忙しくてこちらの更新は少し遅れてしまいました。

 申し訳ありません……


 新作の方はかなり力を入れていて、プロットも悩みに悩んで書いたものですので、かなり面白いと思います。

 正直、リアルの方でも忙しくなってきてしまったのでこちらの更新が遅れてしまうかもしれません。

 ですが、気長に待って貰えるとありがたいです!


 新作

 ↓

 【闇の暗殺者はお嬢様にTSする様です】

 https://kakuyomu.jp/works/16818093076338170501

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【急募】奴隷を拾ったら前世での魔王だったけど、どうしたらいいですか? 絶対一般厳守マン @mikumiku100

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