死人に口なし
1月2日。しずくが死んだ。真っ白なままのとても美しい顔で。彼女の死については、生前から二人で話し合って公開しないことに決めていた。なので火葬やお墓に入るまでの一連の事以外はなるべく私と望先生、そして秘書の方だけで済ませた。それが一段落ついてから、しずくが住んでいた邸宅で偲ぶ会をひっそりと行うことにした。
「私悲しいけど、今回もお正月が助けてくれたみたい」
望先生が言った。お正月に対する思いは、彼女の生い立ちなどが影響しているらしい。先生が思っているからなのか、なんだか私もそんな気がしてきた。
そんな中、ネット上でとある広告を目にする。
「あの矢野しずくが手掛ける「絶対音幹」音楽教室開講。君もスター候補だ!生徒大募集」
「…え?こんなの知らないけど」
「これって小音ちゃんが関係してるわけでは無いの?」
「全然してません、なにこれ」
今まで感じたことのないタイプの「怒りの感情」がこみ上げてくるのが分かる。
私はその広告にある運営元の電話番号に、すぐさま電話をかけた。
「あなた達が絶対音感を習得する術を知っているという根拠はありませんよね?どういうつもりですか?矢野しずくは先日死んだんですよ?」
割と支離滅裂な、まとまりの無い言葉が連続で口をつく。
「そんなこと言われましても。落ち着いてください。どちら様かは知りませんが、矢野しずくさんはご存命ですよ。そちらこそ根拠のない発言はお辞めになったほうが賢明かと…」
矢野しずくが死んだことを発表しなかったがために、言葉を選ばずに貶すなら「ハイエナ」的な「輩」が現れたのだ。また私は2手3手先が見通せていない…。そんな形のない詐欺のような事、今の世の中でここまで大きくなってしまえば「起きるに決まっている」ことなのに。しかもそれが自分の事だけならまだしも、今回はもう死んでいるしずくが残した「功績」に泥を塗ったような気がして、とてもじゃないが冷静ではいられなかった。
「落ち着いて」「小音ちゃん、私の目を見て」
先生がいなかったら、大袈裟ではなく私は「飛んでいた」かもしれない。
そして更に下振れは「振れ」続ける。
神様は私の事なんて知ったこっちゃないらしい。
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