第7話
◇◆◇
足をくじいたデルフィーヌはレックスと帰って来て、せめてもの礼にと彼女の両親から夕食に誘われた。
僕も一緒に夕食に参加したけど、快活な様子でユーモアある話しぶりに、まさに何処に出しても恥ずかしくない……そんな男だった。
食後の団らんも一区切り付き、僕は食器を持って井戸へと向かった。今はこれが僕の仕事になっている。
「……お前、なんで、出て来なかった?」
あれは流石にレックスには気がつかれただろうと思ったけど、こんなに早く確認されるとは思わなかった。
優しげな顔に似合わず、意外と短気なのかもしれない。
デルフィーヌの男の趣味は良いのか悪いのか、よくわからない。まあ、けど彼女が好きな奴ならば、僕はそれに協力するだけなんだけど……。
「デルフィーヌが他に気を取られたら、危なかっただろう? 別に家に帰れば僕は居るんだから、良いところはレックスさんにすべてお任せしただけだよ」
「お前……デルフィーヌの前では、やけに幼い猫被りやがって……一体、何がしたいんだ?」
僕は食器洗いを続けながら、彼の質問に答えた。
「だから、なんだよ。人前で違う性格を使い分けることに、お前に何か関係あるのか? 僕は彼女の前では良い子だろう? デルフィーヌの望むように」
こっそり集めた魔核を使って魔族としての覚醒を既に終わらせた僕は、以前より考えたり理解出来る幅が飛躍的に増えた。人間界で言うデルフィーヌの位置なんかも。
「あの子には、絶対に手を出すな……!」
「お前の恋人でもないのに、やけに彼女を気にするんだな」
僕に煽られて、レックスはわかりやすく顔を赤くした。
……知ってるよ。お前だってデルフィーヌが好きなんだろう? けど、まだ気持ちが育ちきってないから、何も言わないんだ。
それを自覚したなら、もう話は早い。
レックス。デルフィーヌを好きになれよ。そして、告白しろ。あの子はそれを喜ぶだろう。
なるべく……拾ってくれたデルフィーヌの言いつけ通り、僕は良い子になろうとした。
褒められたり喜んで貰ったり、それがどんどん進化していくと、もっとデルフィーヌの笑顔がみたくなった。
つまり、デルフィーヌを、世界で一番に幸せにしたくなった。
多くの本を読んだが、彼女の世代の女の子はレックスのような男に愛されることを望むらしい。近所の人や彼女の両親の証言も聞いた。「あの子は物心つく前から、レックスのことが大好きだからね」と。
人は結婚し愛し愛されることを望むのならば、彼女の好きな人を振り向かせれば良い。
多くの書物に書かれているセオリーによると恋愛のスパイスは、大体ライバルだ。
だから、僕はレックスを挑発し、お前が要らないなら僕が彼女を恋人として貰うと明確に示した。
単純な男の思考は、分かりやすい。強敵と争って、女性を勝ち取りたいと、より自らの中で価値を高めるのだ。
だから、僕はレックスの前でデルフィーヌを好きなことを隠さない。けど、彼女を手に入れたいとは思わない。
僕を汚らしい世界で保護してくれた天使、デルフィーヌは誰よりも尊い。
すべては、デルフィーヌの幸せのために。
……だって、僕は彼女のために、この世界に存在しているんだから。
Fin
なんと、世界を滅ぼすはずの魔王が仲間になりたそうに、こちらを見ています。仲間にしますか?→良い子に出来るなら、私が養ってあげる。 待鳥園子 @machidori
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