最終話 “アドルフォス=イーター”

 火山が消失し、巨大なクレーターのみが残った。

 アドルはクレーターの中心で膝を付き、黒いたんを吐き捨てる。


「少し、無茶し過ぎたかな……」


――終わった。


 雲すら爆発で晴れた空を見て、アドルは全身の力を抜いた。

 これからなにをするか、なにもわからない。それでもアドルは復讐を果たした一刻の幸福感に酔いしれていた。自分以外の足音を聞くまでは――



「……さすがに、参ったよ」



 上半身の鎧全てを溶かした騎士団長が、地面を踏みしめアドルの後方30メートル先に立っていた。

 アドルは拳を地面に付きたて、膝を抑えながら立ち上がる。


「ここまで追い詰められたのは――兄弟子と本気で喧嘩した時以来だ。

 私の手札はもう空っぽだ。あるのはこの手にある剣と盾のみ……」


「――くそったれ……!」


 仲間を喰って蓄えた魔力はオメスとサーウルスの連戦で尽き欠けている。

 体はボロボロ、本当ならもう立つことすら叶わないほど衰弱している。――それでも彼が立ち上がるのは自分の背を押してくれる仲間が居るからだ。


 ルース。

 ヴァンス。

 セレナ。

 フィルメン。


 四人の手がアドルを支えている。



「受けろ、アドルフォス=イーター」



 サーウルスは〈魔封鏡アイギス〉を空に投げ、そして右手の錆びた剣で盾を斬り裂いた。


「これまで私がこの盾で吸収してきた無限の魔力、その全てを一振りの剣に乗せて振るおう」


 盾に封じてきた魔力が全て放たれ、剣に纏わる。

 錆びた剣は巨大な光剣となり、天にその剣先を突き立てた。


「これは神をも殺す殲滅剣せんめつけん、〈ミストルティン〉。正真正銘、我が最強の剣だ」


 アドルは自分に向けられた破壊の塊を見て、口元を緩ませた。


「……まったく、オレに使うには勿体ない剣だな」


 アドルは自分に“どうする?”と問いかける。


「決まってるよな……」


――“オレにできるのは、今まで喰ったモンを吐き出すことだけだ”


 剛鉄の左腕、その先に竜の顎を作り出し、炎の塊を顎の先に練り始める。

 練り固まった炎のかたまりに剛鉄と粘弾液と風を混ぜ、凝縮させる。剛鉄の左腕は更に変化を遂げ、シルフの羽や竜の翼や人の腕の形をした緑色の液体、剛鉄の棘がえ混ざる。


「いいぞ……いいぞアドルフォスッ!

 そうこなくてはなぁ!!!」


 合成、凝縮を無限回数繰り返し、出来上がったのは底の見えない漆黒の球だった。


合成獣砲ごうせいじゅうほう――〈マグライ〉」


 白く光輝く巨剣。

 禍々しく黒く染まった塊。


 両者は同時に自分の全てを詰め込んだ技を放つ。ぶつかった白と黒は灰色に混ざり、〈ニシリピ樹海〉を消滅させるほどの衝撃を起こした。これは後に〈ニシリピ崩落災ほうらくさい〉と呼ばれ、その原因は一切だれにもわからない災害として処理されることになる。

 






---







「いやー、怖いねぇ~。樹海が丸ごと一つ無くなるなんてよ」

「爆心地の近くには小さな村があったって話だよな」

「村一つで済んだのが奇跡だよ。あとはアレか、王国の騎士団長様か。

 今度王様みずから葬儀を開くらしいぜ。英雄も災害には勝てないか」


 とある港町で新聞を片手に男性二人が会話を交わす。

 二人の横をボロ臭いローブを被った男が通ると、


「おい兄ちゃん! どこに行く気だ? 船はこの時間まだ出てねぇぞ」


 親切心から忠告する漁師の男。声を掛けられた少年は「そうですか」と笑顔で応える。


「一体どこに行く気なんだい?」

「えーっと、決めてないんですよね……」

「決めてない? ――はははっ! 変な奴だな」

「とにかく広くて、冒険しがいのあるところに行きたいんですけど……」

「背中の剣から察するに冒険者か。

――って、えらく錆び切った剣だなぁ。そんなんで魔物を斬れるのかい?」

「いや、こう見えて案外切れ味は良いんですよ」


 漁師の男は顎を撫で、


「それならガルシア大陸がおススメだな。

 砂漠も雪山も火山も樹海もなんでもある……よし! ちょうど俺もあそこに用事あるし、ついでに連れて行ってやるよ!」


「本当ですか。

 ありがとうございます」


「ただ旅行船じゃ無いんでな。乗り心地は保証しねぇよ?」


 ニ十分後、準備を終え、数人の船員と共に少年は港から旅立つ。

 船の甲板から初めて見る海に、涙を堪えて……


「涼しいな……でもちょっとベタつく風だ」


 彼の横に、一人の客が歩み寄る。


「君、ガルシア大陸は初めてか?」


 彼の横に立ったのは白髪の老人。

 少年は老人に尋ねる。


「あなたは……?」

「私の名はバルハ=ゼッタ。

 弟弟子おとうとでしがこの国で悪事を働いていると聞き、討伐に来たのだが……無駄足だったようだ」


 バルハ=ゼッタ。

 そう名乗った男は地面に座り込み、酒瓶に口を付けた。


「ガルシア大陸。

 私が案内しようか?」

「それは嬉しいけど……」

「遠慮する必要はない。

 私も、暇つぶしにガルシア大陸を周りたいと思っていたところだ」

「代金は渡せませんよ。

 今は持ち合わせがないので」

「いいさ。

――代金なら、もう受け取っている」


 少年は「じゃあ……」とフードを上げ、顔を見せる。


「よろしく。

 バルハ=ゼッタさん」


「バルおうと、呼んでくれ」


 朝陽が甲板を照らす。

 少年の左腕は包帯で隠され、背には剣と杖。


 後ろを振り返り忘れ物がないことを確認し、彼は二度目の人生を歩み始めた。五人分の命を積んで――





 ――――――――――

【あとがき】

お疲れ様&ありがとうございました!

これにて、外伝は終幕です。


アドルフォスの今後について知りたい方は是非、『退屈嫌いの封印術師』をご覧ください!


ちなみにこれから『退屈嫌いの封印術師』の見る方はこの規模の戦闘は期待しないでくださいね(笑) アドルフォスvsサーウルスはかなりの頂上決戦なので……。

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パーティメンバーを喰いつくしたら強くなれました。 空松蓮司 @karakarakara

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