第22話 ピンクのカエル


 エマは。

 わたしの魔力の乱れを無意識に感じたのだろう。


 急に笑顔が消え、うつむいてしまった。


 わたしたちはこれから、無意味に傷つけ合うのだろうか。


 いや、違う。

 以前なら、悪意の理由に興味なんてなかった。


 今のわたしは。

 心も身体も。


 エマを知りたいと思っている。


 エマは。

 ぽつりぽつりと話し始めた。


 「ソフィアちゃん。ごめんね。これといった理由はないんだ。ただ、なんか気に入らなくて……」


 なにそれ。

 理由もないことのために、わたしは何年も右往左往していたのか。


 「アハハ」


 わたしは思わず笑ってしまった。

 エマはビックリしている。


 でも、お腹をかかえるくらいに可笑しい。


 自嘲じちょうしているんじゃない。


 わたしがハチミツを好きなことに理由はない。

 魔法が好きなことにも理由はない。


 甘いとかワクワクするとか。

 理由をつけることはできるけれど。

 結局は、ただ好きなんだよ。


 エマは、ただ、わたしをイヤだと思ってあんなことを言った。可笑しくなってしまうほど単純で曖昧だ。


 それは、他人があえて分類すれば、マウンティングや嫉妬だったのかも知れない。

 

 だけれど、わたしには。

 下心のある明確な悪意よりも、ずっとずっとマシに思えた。


 わたしは、ひとしきり笑うと涙を拭う。

 エマは何が起きているのか分からない顔をしている。


 でも、少なくともわたしは。

 その飾らぬ単純な答えに満足した。



 今度は、エマの手を机につけてもらう。

 そして、エマにさっきの感覚を再現してもらった。


 やはり、この子は魔法の適性がある。


 エマの手に、わたしの手を重ねた。

 一緒に買ったピンクのミサンガが、重なり合ってメビウスの輪のように見えた。


 魔力の脈動が起きる。

 わたしの魔力を上乗せすると詠唱した。

 

 何度も使ってきた魔法。

 だけど、今回は少しだけアレンジを加えて。


 輪唱のように、2人で唱えた。


 「「煌めく星に小さきものよ。血の契りに応じ、ここに顕現せよ。五芒星の従者たち(サモンサーヴァント)」」


 赤と白が重なり合う美しい魔法陣が出現する。


 そして、ピンクの2匹の小さいカエルが召喚された。


 血のにえがないので、数秒で消えてしまったが。

 わたしとエマは目を見合わせて、笑った。




 次の日もエマと学校に行く。

 何も蟠りがなくなったとは言えない。


 だけれど、わたしの気持ちは。

 きっと昨日よりも軽くなっている。


 学校につくと、エマが手を取ってれた。

 今日は普通に入れた。


 教室に入った。

 さっそくスージーと目が合う。


 なんだろ。

 わたしとエマが一緒にいることが気に入らないのかな。不機嫌な顔をしている。


 スージーはエマの方にツカツカと歩いて行く。

 そして、案の定な文句を言った。


 「エマ。あんたなんか調子乗ってるだろ」


 意味が分からない。この人は、転校生(じゃないけど)といるだけで、調子うなぎ登りという解釈になるのか。


 スージーは、エマに掴みかかろうとする。


 「ちょっと」


 わたしはスージーとエマの間に割り込んだ。

 すると、スージーのターゲットがわたしに移る。


 スージーはわたしの髪の毛をつかみ、引っ張り上げた。


 痛いよ。


 これは……。


 わたしのネコミミ闇の力が解放される時が来たのかにゃ?

 物語に出てくる悪者の多くは、こうして悪の道に堕ちるのにゃ。


 わたしが、そんな呑気なことを考えていると……。


 ガラッ。

 

 担任が引き戸を開ける。


 この人、本当にタイミングいいね。

 実は、廊下の外で突入のタイミングを見計らってるのかな。


 「全員。着席!! 今日は特別授業をするぞ」


 スージーは、また舌打ちして席に戻った。


 この人、舌打ちコンテストに出た方がいいのでは? 

 わたしは心の中でをする。


 先生は続ける。


 「王様からの提言でな。不定期だが、この学校でも魔法についての授業を行うことになった」


 王様もう対応してくれたんだ。

 こんなことなら、パパって呼んであげればよかったかな……。


 すると、ローブをきた男の人がすごすごと入ってきた。まだなんの勝負もしていないのに、敗北感が漂っている。

 

 「わたしはエトムといいます。宮廷魔導士団に所属する魔導士です。みなさまの授業の講師をすることになりました」


 エミルさんに会って以来、はじめての魔導士さんだ。


 わたしの胸は高鳴る。

 スージーと掴み合っていたことなど、どうでもよくなってしまった。


 エマは、そんなソフィアの様子を見てため息をつくのだった。

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