ウメと筍
フィステリアタナカ
ウメと筍
俺の名前は
高校二年生の四月のクラス分け発表の日。ふと桜の木の下に目をやると、黒猫がいるのに気がついた。学校で見るなんて珍しいなと思って近づくと、黒猫と目が合い、
『君、君の前世の人達が呼んでいるよ。どこに飛ばされるかわからないけれど行ってみる?』
そんな声が頭の中で響いた。
どこに行くのかわからない。悪魔の罠かもしれないが、愛する人を見つけるヒントがあるかもしれないと思い、黒猫に、
『うん。行くよ』
そう、心の中で言うと、目の前が暗転した。
◇◆
「さっさと仕事をしろ! このバケモノめ!」
そう言われ、村の大人に蹴られる。俺は痛みを堪えて立ち上がり、
武士も来ないような自然豊かな森の村。俺は見た目の醜さから、村の皆から
「お兄ちゃん。大丈夫?」
「ああ、ウメか――大丈夫、心配しないで」
一つ下の幼馴染のウメは、いつも俺を心配してくれる。彼女の心配をよそに、畑に行き、そこで肥料を撒く。
「ついて来なくていいって」
「でも、お兄ちゃん。いつも大変じゃん。ウメも一緒にやりたい」
「こんな仕事したら家に入れてもらえなくなるぞ」
そう、この臭いが体に染みついて、誰も俺を家には入れてくれない。雨の日も嵐の日も。だからいつも仕方無く山の斜面で寝ている。それが俺の日常だ。
ある日の夕方、風で揺れる木々の囁きを聞きながら寝転んでいると、物音がした。音のした方を見ると黒猫がひょこっと現れる。
「お前、どうしたんだ?」
黒猫はこちらに来て、目の前で立ち止まり俺を見る。まるで「こっちに来い」と言わんばかりの雰囲気で、黒猫についていくと、小屋に黒猫は入っていった。「なんだろ?」と思いながら俺も小屋に入ると、
「お前も畑仕事をしたいのか?」
そう言うと、黒猫は小屋から飛び出していった。俺は「せっかくだから
「お兄ちゃん!」
「ウメ」
「何しているの?」
「ああ、これから筍でも取って食べようと思うんだ」
「ウメも行く!」
「わかった。じゃあ、ウメも鍬を持ってきてね。って重すぎるか」
「うん。鍬なんて重くて持てないよ」
「じゃあ、行くか」
ウメと一緒に山の中に入り、筍を取る。
「ふー。川に行って洗おうか。そうだ鍬も」
彼女と一緒に川に行き、筍を川の水ですすぐ。鍬に付いた土も落とし、寝床に戻った。
「はい。ウメ」
「ありがとう」
鍬を使って筍を切り、欠片をウメに渡す。彼女と筍を食べて楽しい時間を過ごしていると、村の方から何やら怪しい音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫。身を隠そう」
髪の毛を振り乱して村の人達を殺している
「ウメ。俺が台になるから木の上に登って」
「えっ、お兄ちゃんは?」
「いいから、早く」
彼女は泣きそうな顔で俺を踏み台にし、木にしがみついた。彼女のお尻を押し上げ、大人の背の高さより高い所に行ってもらった。
「ウメそのまま動かないでいろよ」
俺はウメの登った木から離れて、音を立てないようしばらく歩く。が、どうやら侍に見つかったみたいだ。
(ウメ、ありがとうな。こんな俺にいつも声をかけてくれて)
◇◆
意識を取り戻すと天井が見えた。ベッドの上に横たわっていたみたいで、伸びをするとカーテンが開いた。
「気がついた? 田中君」
「先生。ここは」
「保健室。ホント田中君が気を失って、みんな心配していたんだから。イケメンって罪ね」
先生に言われ、苦笑いをしていると、先生が手紙を渡してきた。
「田中君。これ」
「ラブレター?」
「そうじゃない? 女の子が目覚めたら渡してくださいって言っていたから」
手紙を読んで、保健室の時計を見る。時計を見て放課後だということに気づき、急いでベッドから降りた。
「先生、ありがとう。俺、行くところあるから」
下駄箱で靴を履き替え、急いで体育館裏へ行く。するとそこには鞄を持った女の子がいた。俺は小走りで彼女に近づく。
「ごめん。一時間くらい待たせたよね?」
俺の声を聞いた彼女は、俯いていた顔を上げ、こちらを真っすぐ見つめる。
「あ、あの。田中君! ずっと前から好きでした!」
心地よい声を聞き、ふと視線を下げると、彼女の鞄には筍のストラップが付いていた。
ウメと筍 フィステリアタナカ @info_dhalsim
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