#19 シエル part 2.6 ~vsデビルプラント~
ひかりが戦おうとすると勝手に魔法が発動してしまう。
そのことがわかってからは、私が一人で魔物の相手をしていた。
何も出来なくなってしまったひかりは、せめてこれぐらいはと、松明を持つ係に志願したのでそうしてもらっている。
両手が空いてる方が魔物と戦闘しやすいしね。
私は冒険者になったばかりの頃、この洞窟に来た事がある。
その時の記憶が正しければ、ここは四階層構造だ。
一階ごとの広さはそこまでではない。けれど、地下四階まであるとなると、隅々まで探索するのはなかなか骨が折れる。
今、私たちは地下三階まで進んでいた。
しかし、お守りははまだ見つかっていない。こうなってくると、四階にある可能性が高くなってくる。だけど、そこにはデビルプラントがいる。
倒せない魔物ではないけれど、ひかりも一緒にいる以上、あまり厄介な相手とは戦いたくない。遭遇しないことを祈るばかりだ。
「……あの、あそこ。何かありますよ。もしかして宝箱じゃありませんか?」
ひかりが通路の隅に宝箱を発見した様だった。
一緒に箱の元に近づく。宝石のようなものがちりばめられている豪華なデザインだ。松明の灯りが反射してキラキラと輝いている。
「さすが財宝の洞窟。きっといいものが入っているに違いありません!」
嬉々として開けようとするひかりを、私は慌てて止めた。
「ちょっと待って。ここは何度も探索された洞窟だよ? わかりやすいところにこんなものがあったら、丸ごと持っていかれていてもおかしくないでしょ」
「言われてみればそうですね。それじゃあ、これって」
「罠だろうね。今確認してみる」
【トラップサーチ】の魔法を使って宝箱を調べると、思った通りの反応があった。
「やっぱりだ。これミミックが化けてる。あ、ミミックっていうのは」
「知ってますよ。宝箱に擬態して不用心に開けた冒険者に襲いかかる魔物ですよね」
「そうだよ。そっちの世界にもいたの?」
「まあ、そんな感じです。RPGの定番な魔物でしたよ」
RPG……? よくわからないけど、とりあえずミミックはひかりの世界にもいたということなのだろう。私は頷いた。
「うーん、変な誤解を与えてしまったような気がしてならないんですけど……」
と、前から何かが走ってくる音が聞こえた。
即座に剣を構える。曲がり角からぼんやりとした灯りが現れた。
その正体は、光る杖を持った一人の少女だった。
魔法で杖を松明の代わりにしているのだろう。
「仮面の、シエル。どうして、こんなところに」
呼吸が荒い。どうやら全力疾走してきたみたいだ。
「ああ。この洞窟に落としたお守りを拾ってきてほしいって依頼を受けてね」
私は口調を『仮面のシエル』としてのものに切り替えて返事をした。
「え? もしかして、その依頼主って、グズマって人?」
「その通りだが、あなたは?」
「あれ、シエルがやってくれたんだ……。あ、私はメグ。グズマの妹。お守りを失くした本人だよ」
と、メグは思い出したように首を振る。
「……って、ゆっくりおしゃべりしてる暇はなかった。早くここから脱出しないと。シエル達も来た方がいいよ。危険だから」
ただごとではなさそうな形相で促され、私たちも言われるがままメグに続く。
「で、一体、何があったんだい?」
走りながら、私がそう尋ねた時だった。
後ろから、ガラガラと何かが崩れるような音がした。同時に、ゾクリとする気配も感じる。
「デビルプラントが……」
と、メグが下の階での出来事を語り始めた。
その話を三行でまとめるとこうだった。
一、兄が周りに迷惑をかけないように、自分でお守りを取りに来る。
二、最下層でお守りを発見するが、デビルプラントと遭遇する。
三、自分に勝ち目がないことがわかっているため、逃走することにした。
「……デビルプラントは傷をつけても、すぐに再生しちゃう。でも、その傷口を火で焼けば再生能力を封じられるようになるはずなんだけど、あいつはどういう訳か火がまともに聞かない上に、傷の再生速度も半端なくて」
それはおそらく変異種だろう。詳しい原因は不明だけれど、時々、弱点であるはずの炎に耐性を持つ個体がいるのだ。
だとすると、倒すのは少し骨が折れそうだ。
とはいえ、敵が追ってきている以上、戦うしかないだろう。
「それなら、ここは私が引き受ける。ひかりとメグは先に」
「……すみません、足元から変な音がしませんか?」
異変を最初に察知したのはひかりだった。
ひかりに言われてから、私も床下で何かが動いているような音に気づく。
直後、地面が大きく揺れ、床から無数のツルが私たちの進行方向をふさぐように生えてきた。デビルプラントのツルだ。
「そんな……! ここをふさがれたら、逃げ道が!」
メグが荒い息で叫ぶ。
「落ち着きたまえ。本体は私が倒す。メグはツルの方を頼む」
「……わかった。頑張ってみる」
「あの……わたしは? ここまでわたし、ほとんど何もしていないですし、そろそろ出番ですよね? ね?」
「……ああ。でも、絶対に杖は使っちゃダメだからね」
「了解です。こんなツル、素手で引き千切ってやります……【トランスリリィ】!」
ひかりがルミナス☆リリィに変身し、ツルに向かって駆け出した。
デビルプラントの本体は、私たちのすぐ後ろにまで迫っていた。
棘が生えた何本ものツルでできた体。その中央にある毒々しい青紫色の花びらに覆われた巨大な口からよだれのようなものを垂れ流していて、かなりキモい。
私はまっすぐデビルプラントを見据える。
「さて、さっさと片付けさせてもらうよ。……【電光石火】!」
私は伸びてくるツルを切り落としながら、素早くデビルプラントの懐に潜りこむ。
デビルプラントは口の奥に核があり、そこを壊せば活動を停止するのだ。
「【シャドーバレット】!」
私は、デビルプラントの口内に向けて、魔力の塊を放つ。何本ものツルに防がれたものの、ツルをまとめて破壊できた。
私は【シャドーバレット】と斬撃でデビルプラントの核を狙いながら、少しずつ襲ってくるツルの数を減らしていく。
邪魔なツルを刈りきるまで、もう一息といったところで、
「ひかり!」
と、メグの叫び声が聞こえた。
不安になり、思わずメグたちの方に振り返る。
ひかりがデビルプラントのツタに捕まっていた。
「ごめん! ひかりが私を庇ったせいで!」
メグが絶望的な顔をしていた。
「わかった。すぐに私がどうにかする」
救出しようと、ひかり達の元に駆けようとした時、不意に甘い香りが漂ってきた。
「ん? この匂いは、まず……いっ⁉︎」
突然、体の力が抜けて膝から崩れ落ちてしまった。立とうとしても、体が痺れてうまく立ち上がれない。
ひかり達に視線を送る。メグが私と同じように動けなくなっていた。
何が起きたのかは、理解している。
けれど、対処する間もなく、私の体は自由が効かなくなっていった。
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