第28話 応援


 黒い悪魔は信じられない反射神経でニコとシヴァの攻撃をいなしていた。

 ニコが上段回し蹴りを繰り出せば左腕で防ぎ、シヴァが同時に放ったローキックは足で防御する。


 その合間に悪魔が放つパンチは、周囲の空気を巻き込んで風切り音を轟かせながらニコの頭部を掠めた。


「グフフフフ! 僕まだ本気じゃないんだけど!?」


 悪魔の挑発にニコのこめかみが軋む。


 ニコは激しい攻防の中、一瞬シヴァにアイコンタクトを図った。シヴァもそれに気付き、ニコが右手に煙を発生させたのを見て、反射的に屈んだ。


 それはニコの『剣撃』をかわす動作であり、直後、ニコの右手には『白い刀』が現れ、寸分の無駄もない早業で悪魔の首を刈り取るべく横薙ぎが放たれる。


 悪魔は一瞬の出来事に反応が遅れた。それはニコを甘く見ていた代償でもあり、その白刃が只事ではない『神の息吹』を纏っていることに気付くのが遅かったのだ。



ヒュパーン!



 その太刀筋は確かに悪魔の頭部を掠めた。悪魔も、気付くのが遅れたとは言え、なんとか首を引っ込めることに成功し、直撃を避けたのだった。


 しかし、奴の右側の角の先端が宙を舞った。


 悪魔は戦慄した。


 その剣撃の『跡』は、空間ごと切り裂かれて、その切れ目から『宇宙』のようなものが見えたのだ。そして切れ目はすぐに閉じる。


「なんだいそれ……ふざけるのも大概にしろよ?」


 笑みが引きる悪魔を尻目に、そこからニコの猛烈な剣技が炸裂する。


 悪魔はニコの剣撃をかわしながら、急遽その手に黒く禍々しい剣を出現させると、その白刃を弾くべく剣を振った。



シュパーン!



 悪魔の黒い剣は真っ二つに斬れた。悪魔は凍りついたような表情で後方に飛び退くも、その逞しい胸筋に一筋の斬り傷を負った。


 悪魔の表情が鬼の形相に変わる。


「グオオオオオオオ!」


 悪魔がえると、その周囲の空気が紫色に染まり、渦を巻いて部屋の壁や天井を破壊し始めた。


「くっ! 常世田ー! 脱出しろー!」

「ちょっ! 今それどころじゃないって!」


 常世田は服部と熾烈な肉弾戦を繰り広げており、体を煙に変えて服部の猛攻を凌いでいた。




(ぬう! 万事休すか!?)


 ニコが建物の崩壊を悟った時!




ドガーーーッ!


「ぶふぉっ!」




 悪魔の後頭部に巨大な十字架が振り下ろされた。


 ニコにはまるでスローモーションのように間抜けな体勢で前に倒れる悪魔の姿が映った。


 そして悪魔の背後には、巨大な十字架を振り下ろす男性の姿が。


 その男性は床にうつ伏せになった悪魔に馬乗りになり、その後頭部を乱暴に掴んで、ドッカンドッカンと何度も床に叩きつけながら叫んだ。


「天地の創造主! 全能の父である神を信じます! 父のひとり子! 私たちの主イエス・キリストを信じます! 主は聖霊によって宿り――」


 悪魔はその力を以てしても振り解けない後頭部の手により、鼻血を出しながら何度も床とキスする。


「グッ! グヘッ! この! 雑なやり方! てめえ! クロフォードだな!?」


 馬乗りになった男は、髪はボサボサで、ボロボロのローブを腕まくりし、首や耳、腕には十字架のデザインのアクセサリーを身に付けている。


 彼は明らかにキリスト教を思わせる『祈り』を叫び、誰もが知る『アーメン』を悪魔に向かって怒鳴りつけた。


 その様はとても『神父』には見えなかったが、悪魔の苦しそうな痙攣と呻き声により、確かに効果があることが見てとれた。


 そして『神父』は悪魔の後頭部に向かってさらに叫ぶ。


「ベリアーーール!」


 この『名指し』に悪魔はギョッとした。


 神父は悪魔の耳元で囁く。



「あなたを、ゆるします」



 すると、悪魔は全身を強張らせて手足をバタバタさせながら悲鳴を上げた。



「ウギャーーーーー!」



 悪魔『ベリアル』は、全身から煙を吹き出し、苦しみもがきながらクロフォードと呼ばれた男の拘束を振り切って、常世田たちの頭上を飛び、窓を突き破って空へ消えて行った。


「チッ! 逃したか」


 クロフォード神父は、悪魔の使徒につかつかと歩み寄ると、その背中から使徒を羽交締はがいじめにし、祈り始めた。


 使徒は悪魔が逃げた時点で戦うことなどどうでもよくなり、ただただ、他人を『魅了』して楽しんでいた。


「栄光は父と子と聖霊に。初めのように今もいつも世々に。アーメン」


 クロフォードが祈ると、使徒は虚ろだった表情を一変させ、苦しみ出した。


「ぶふっ! うぐぐぐ!」


 使徒はそのまま床に倒れ込み、意識を失った。


 服部の目が元に戻る。常世田はパンチの勢いを止められず、服部の頬を思いっきり殴ってしまった。


「ぶふぉお!」

「あ……ごめん……」



バタバタバタバタバタバタ



 新庄が到着したのは、戦闘が終わってからのことだった。新庄を乗せたヘリコプターは、建物の屋上に着陸し、何人もの部隊が現場に駆けつけた。


「む? 遅かったか?」

「あー、さっき終わったとこです」


 千秋も目を覚まし、一行は店のドリンクバーを勝手に使って喉を潤していた。


「おーすーしーたーべーたーいー」


 ミーシャが別に腹ペコでもない腹を押さえて寿司を要求する。

 その隣では、新庄を自衛隊のリーダーと見て、クロフォード神父が挨拶をしていた。


「マイケル・クロフォードです。自衛隊ですか?」

「新庄です。失礼ですが、ここで何を?」


 常世田は一部始終を新庄に話した。また、クロフォード神父がバチカンから来た悪魔祓いエクソシストであること、その実力についても説明した。


「そうでしたか。ご助力感謝致します。それにしても日本語がお上手ですね」

「ああ、悪魔祓いはその土地の言語でないと効果を示しません。我々は主要国の言語をマスターしています」


 それは神や悪魔にも同じことが言えた。彼らの力の根源は『畏れ』であり、その土地の民の畏怖が彼らの力を増幅させるのだ。

 よって、シヴァも日本に来ると決まってから日本語をマスターした。神にかかれば他国語を学ぶことなど造作もないことだった。


 クロフォード神父は、巨大な十字架を背負って去って行った。ベリアルを追うのだと彼は言う。

 常世田は、その十字架めちゃくちゃ目立つだろ。と言いたかったが、言葉を飲み込んだ。


 ベリアルの使徒の男性は、目隠しをした上で自衛隊が拘束した。彼が持っていた12枚のメダルも没収。自衛隊がチームに分配することとした。




第一章 契約者と攻略者、そして自衛隊





次回、第二章 日いづる国の本気



***



あとがきのようなもの


いつも読んでくださり、ありがとうございます。

作者のあんぽんタソです。


品質向上のため、少し物語のストックを溜める期間を設けたいと思います。

毎日楽しみにして下さってる方には申し訳ございませんが、次話は1週間ぐらいお待ちください。


何卒、よろしくお願い申し上げます。

引き続き、応援やご意見など頂けましたら嬉しいです。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スモーキング・シンドローム〜タバコを吸うほど強くなるヘビースモーカーのダンジョン攻略〜 あんぽんタソ @anpontaso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画