第22話 相手が悪かったな


――レベル2ダンジョン。9階。



「300万円と回復薬だけかー」


 常世田達はこのダンジョンの宝部屋で、2つの宝箱を開けていた。


「毎回おかしなものが出て来ても困る。それと、回復薬を侮るな。いざという時の切り札だ」


 新庄は王様を見遣りながらそう言って、回復薬を千秋に持たせた。300万円は皆で相談し、自衛隊が預かることとなった。



――最上階。



 常世田は気合を入れてベレッタを出現させた。どんなボスが出てくるかわからないが、最初は遠距離攻撃で様子を見たいという狙いだ。


 千秋は身に付けていたリターンリングと、回復薬を常世田に渡して激励する。


「頑張って。しゃがみ強パンチに気をつけて」

「んふっ。まあ、冗談言えるようになってよかったよ」


 常世田にも恐怖心はある。何しろ、何が出てくるのかわからないのだ。間違ってダル〇ムが出て来たら目も当てられない。


 常世田はベレッタの初弾を装填し、扉に手を掛けた。


「うし。行って来ます」


 皆は常世田の背中を叩いたり、激励の言葉をかけて彼を送り出した。



 常世田が扉を開く。


 彼は唖然とした。


 レベル1ダンジョンと比べて、5倍はある部屋の広さだったのだ。



「メチャクチャ広い。どうなってんだこれ」


 常世田が皆に聞こえるように言うと、そっと扉を閉めた。中に入ると、その異質さがよくわかる。窓はなく、天井は呆れるほど高かった。


 部屋の中央の祭壇は、レベル1ダンジョンと同じ大きさだ。常世田は、それを見て少し安心した。あれ以上大きなボスは出てこないだろうと思えたからだ。


 祭壇のクリスタルが輝き出す。


 それと同時に、この部屋のボスの輪郭が少しずつ明らかになっていった。


 常世田はできるだけ距離を取って、何が現れるのか注意深く観察した。



 それは翼の生えた動物だった。



 全体的に茶色い毛並みと、くちばしのある頭部、そしてライオンと思われる尻尾の下半身があらわになる。全長は5、6メートル。


(グリフォン!)


 常世田はベレッタの射程ギリギリまで接近して銃を構える。それと同時に50センチほど浮遊した。相手は翼の生えた飛行動物だ。空中戦になることが予想された。


「キョエーーーーーー!!!」


 グリフォンは実体化すると同時に飛び立った。それは常世田の予想を遥かに上回るスピードで、常世田は一瞬、敵の姿を見失った。


「くそっ! はえーな! これじゃ当たんねーだろ!」


 常世田は自分も空中に飛び出し、出来る限り速く移動した。

 それは功を奏し、グリフォンの突進を運良くかわすというファインプレーに繋がった。


 常世田は右に左に飛び回りながら、過去にプレイしたモン〇ターハンターを思い出していた。



 必ず隙はある。


 相手も自分を狙って移動しているのだ。


 攻撃する瞬間は手の届く範囲に現れる。


 行動パターンを読め。


 視野を広く。



「キョエーーーー!!!」


「後ろかよっ!」



 常世田は素早く身をひるがえし、振り向きざまベレッタを連射した。


パァンパァンパァンパァンパァン!


 グリフォンは見たこともないスピードで撃ち出される弾丸をかわし切れず、1発だけ前足の付け根に被弾した。


「ギョワーーー!」


 常世田に向かって一直線に飛んできていたグリフォンは、その痛みによって急旋回し、常世田から離れた地面に着陸した。


 グリフォンにも恐怖心はあるのだろう。床に立った状態で傷口を舐めている。


 常世田はこの瞬間がチャンスと見て、ベレッタの射程範囲にグリフォンを捉えるべく急接近する。

 グリフォンもまた、常世田の銃撃を恐れて上空へ飛び立った。


 攻守交代である。


「逃さねーぞ! 待てコラーーー!」


 それは広い部屋で繰り広げられるドッグファイトだった。常世田は自分でも気づかない内に、猛烈なスピードでグリフォンを追いかけていた。


(右か!? 左か!?)


 グリフォンは下へ捻り返るように旋回。常世田は歯を食いしばってその動きに追従した。今まで経験したことのない『G』が彼の脳に襲いかかる。


(うぐぐぐ! もう少し! もう少し接近すれば撃てる!)


「キョエーーーー!!!」


 それは『どうやって飛んでいるか』という点の違いだった。常世田は未知のチカラ――言うなれば想像力という名の『精神力』で飛んでいる。対して、グリフォンは翼を羽ばたかせて『筋力』で飛んでいた。



 グリフォンの息が上がる。


 常世田はその瞬間を見逃さなかった。



パァンパァンパァンパァンパァン!



「ギョワーーー!」


 グリフォンはお尻と右翼に被弾し、錐揉きりもみしながら床に転がって行った。


 大チャンス到来に常世田の心臓が高鳴る。常世田はここぞと冷静にグリフォンに詰め寄った。


 地面に着地し、精密射撃の姿勢を取ると、グリフォンは苦しそうに鳴きながら常世田を視界に捉えた。


「キョエーーー!!!」


 それは常世田にとって予想外の攻撃だった。グリフォンが大きく口を開けると、その正面に直径1メートルほどの火球が現れたのだ。


 直後、火球は常世田に向かって高速で飛び出した。


 しかし、グリフォンにとっては誤算だった。


 まさか『燃えない』人間がいるとは思わなかったのだ。


 常世田は炎に包まれながら、確実に狙いを定めた。


パァンパァンパァンパァンパァン!


 どこに当たったか確認する間も無く、常世田は空になった弾倉を新しいものに素早く取り替えた。


パァンパァンパァンパァンパァン!


「ギュ……ギョワ……」


 さらに詰め寄ると、そこには胸や足、翼に複数の弾を被弾したグリフォンが倒れていた。


 グリフォンは苦しそうに息を乱し、常世田が銃を構えて手の届く距離まで接近してくるのを見つめていた。その凶悪な武器が、自分の頭部を狙っていることにも気付いていた。


「降参しろ。命まではとらねー」


 常世田が鋭い目つきでグリフォンを睨むと、グリフォンもまた、常世田の目を見て『勝ち目はない』と悟った。


「ギ、ギュギュウ……」


 グリフォンの体は少しずつ透けていき、光の粒子と共に消えて行った。


「おーめーでーとーございまーーーす!」

「出やがったな! テメー! 脱糞だー無効にしろやゴルァーーー!」


 常世田がシラヌイに掴み掛かろうとするが、シラヌイは余裕の表情でヒラヒラとかわした。そのドタバタを聞きつけて、新庄たちが部屋に入る。


 こうして、レベル2ダンジョンは攻略され、常世田はメダルとスキルブックをシラヌイから受け取った。


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