第21話 レベル2ダンジョン


「レベル2って言うぐらいだから、たぶんレベル1より難易度は高いんだよね?」


 常世田は、一階のロビーに何もない事を確認しながら皆に問う。


「まあそうだろうなー。俺の予想ではオークとか出てくるんじゃないかと思ってるけど」

「オークって何?」


 服部の予想に千秋が付いていけない。彼女は恋愛ものの小説はよく読むが、ファンタジー系にはうとかった。


「おいおいマジか。今どきオークがわからんて……」

「オークとは何だ?」


 新庄お前もか! と常世田と服部は心の中でツッコんだ。2人は、今日の攻略が終わったら集中講座が必要だと思った。


 これは冗談などではなく、この現代ファンタジーになってしまった世界において、その知識がないのでは話にならない。


「新庄さん、これ真剣な話なんですけど、この攻略終わったら皆んなでアニメ見ません?」

「常世田ナイス。絶対見ないとダメだこれ」


 新庄と千秋は、2人の真剣な表情に、知識がそんなに重要なことなのかと考えを改めた。




 一行が2階に上がると、明らかに元あった扉とは違うファンタジー風の扉が待ち構えていた。4人は慣れたもので、この扉のデザインを覚えている。


「さて、何が出るか」


 服部がそう言うと、新庄が音を立てずに静かに扉を開けた。


「骸骨だ……骸骨が歩いている……」

「それはスケルトンって言うんですよ。何体です?」


 そう言いながら、常世田は自分が見るべきだったと後悔した。


「6体だな」

「! 多いっすね」


 スケルトンは一般的にはアンデッドに分類される不死のモンスターだ。

 服部は、このモンスターについて、聖属性魔法なしでも倒せるタイプか否か、考えていた。


「スケルトンは厄介だぜ。聖属性魔法がなきゃ倒せないタイプだったら、俺らに勝ち目はない」


 そこで新庄が一つの特徴に気付く。


「あの、肋骨の間に見える宝石のようなものは何だ?」

「まじか。どれどれ?」


 服部が扉の隙間から中を覗いた。


 そこには、胸の中心あたりに輝くクリスタルのようなものがあり、ピンと来た服部は皆に告げる。


「あれ、奴らの命の源みたいなものかも。あれを破壊してみようぜ。このアンデッドは倒せるタイプかもしれん」


 スケルトンは木の盾と、鉄の剣を持っていた。しかし、見るからに動きは鈍く、余程でなければ回避できそうだ。


 新庄は情報をまとめ、自分が最初に突撃すること、常世田はそれに合わせて立ち回ること、服部は遠距離攻撃、千秋は回復薬を持たせて温存することとした。



「行くぞ。3、2、1、今!」



 新庄が飛び出す。彼女は1番近くのスケルトンの胸部に強烈なパンチを繰り出した。


ビキィッ!


 スケルトンの肋骨は砕け散り、中央のクリスタルにヒビが入る。


(浅かったか!? もう一撃!)


パリーンッ!


 スケルトンは反撃の間も無く、足元の骨からバラバラと自由落下して行った。


「よし! 行ける!」




 スケルトン達は常世田達に気付き、ゆっくりと動き出した。最初の予想通り、彼らの動きは遅く、剣を振り上げている合間に2、3発は攻撃ができそうだ。


 常世田はドスを出現させて、スケルトンの胸部を突き刺した。


 クリスタルは難なく砕け、骨はバラバラに地面に落ちて行く。


(ファンタジーの知識か……確かに必要かもしれん)


 新庄は、2体目を壊しながら思った。自分だけでは、クリスタルを破壊すれば死ぬなどという発想は持てなかったのだ。そもそもアンデッドという分類が頭になかった。


「わわわ! こっち来ちゃった!」


 その時、服部は千秋に接近するスケルトンを見落としていた。

 急いで目の前のスケルトンを倒し、木の枝を伸ばそうと千秋の方を振り向いた時。



バババババババ!



 千秋は落ち着いてプラズマボールを放った。その距離、大きさは絶妙で、スケルトンの体をちょうど消滅させる威力だった。


 服部はホッとして千秋を励ます。


「さすがだぜ。反物質ってのはアンデッドにも有効なんだな。今後ヤバいやつが出て来たら大暴れしてくれよ?」

「うん。行けそう」



 一行はその部屋を制圧した。



「まあ、刃物を持ってたところと、クリスタルに気付かなきゃ倒せなかったであろうところがレベル2だったかな」

「だな。明日はレベル3かー。何が出てくるかな」

「明日の前に今日やる事を終わらせるぞ」


 服部が既に明日に行ってしまったことを咎めながら、新庄は次の階への階段へ向かった。



――5階。



「オラーーー!」


パリーン!


 常世田が最後のスケルトンにトドメを刺した。今のところピンチに陥ることも無く、楽勝ムードで部屋を制圧していく。


「千秋、大丈夫か?」

「ハア、ハア、ハア」


 千秋は運動が苦手だった。化学の実験ばかりして来た千秋には、スケルトンから距離を取り、皆の動きに合わせて常に前後左右に足を動かすというスポーツのような動作が、自分の体力に見合っていなかったのだ。


 すると、王様がピコピコと千秋の前に立ち、短い手を差し出した。


「これを飲むも」


 王様の手からは、直径10センチほどの水の塊が出現し、それはふよふよと浮遊して千秋の顔の正面に移動した。


「え? 水?」

「純水であるも。ちゃんと飲めるも」


 千秋は喉がカラカラだった。空中に漂う水の塊に口を付けて吸い込むと、よく冷えた王様の優しさが体に染み込んだ。


「ひょっとして魔法か?」


 常世田が王様に問いかける。


「余の得意魔法であるも。木と土は苦手も」


 千秋はしゅんとする王様を抱っこしてお礼を言った。自然と力が入ってギューっとする。


「ふふふ、ありがとう。疲れが吹き飛んだ」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」


 一行は知らなかった。


 アイン・デメス・パゴール11世が、異世界における希少妖精の国『パゴール王国』の国王であることを。

 そこは水の都とも呼ばれる幻の国で、異世界人でもその存在を知るものは少ない。


 そして、王様が終焉魔法『アクア・ドン・デメス』の継承者であることは、本人以外、誰も知らない。


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