20.出してよ

 わたしが真剣な面持ちで小説を書いていると、千恵ちゃんが人差し指を上に向けながら、チョイチョイっと曲げてわたしを呼ぶ。


「どうしたの?」

「鶴の小説にあたしを出して」

「え?」


 一瞬固まったわたしを察したのか、千恵ちゃんは上目遣いでじっとわたしを見つめる。


「ダメ?」


 さらに固まるわたし。


「……ダメならいいや」


 千恵ちゃんは残念そうに下を向いた。


「ダ、ダメじゃないけど!」

「じゃあ、出して」

「に、似たキャラなら……」

「……なんであたしを出したくないの?」


 頬を膨らました千恵ちゃんがわたしに詰め寄ってくる。


「……したくないから」

「え?」

「わたしの小説って、ダークファンタジーでしょ? 千恵ちゃんに酷いことしたくないから……」

「ふーん」


 千恵ちゃんは少し考えたような素振りを見せると、小さく笑いながらこう言った。


「――優しいんだ」


 耳元でボソリと言われ、わたしは顔が赤くなったのを感じた。

 ややあって、ニヤニヤ笑いの千恵ちゃんがわたしの膝の上に転がってくる。


 〝大事にしてくれて、ありがとう〟


 千恵ちゃんはそう言うと、わたしの膝の上でスヤスヤと寝息を立ててしまうのだった。

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