18.本気

 千恵ちゃんは小学生ギャルである。


 〝可愛いは正義〟を座右の銘とし、いついかなる時も〝可愛い〟を徹底したその姿は、わたしにとって、心の底から尊敬の念を禁じ得ない。


 前に千恵ちゃんは言った。


『あたしは可愛くないからさ。だから、可愛くなることにしたんだ』


 と。


 大人顔負けのその達観した考え方にわたしは驚いたものである。


「見て見て。ガーリーホワイトのネイルにしてみたんだー」


 わたしはお洒落のことには無頓着だが、女の子のことはとにかく褒めれば良いと聞いているので、千恵ちゃんの爪も『いいね! いいね!』と何となくでベタ褒めすることした。


「でしょー? あたしもお気に入りなんだー!」


 わたしの適当な褒め言葉で気を良くした千恵ちゃんは、照れくさそうに満足そうな笑みを浮かべる。


 千恵ちゃんにバレたら、殺されそうだが、女の子って単純だ。


「新しい口紅も買ったんだけどさ、これはどう思う?」


 薄い桃色の口紅の上に透明リップグロスを重ねているようで、千恵ちゃんの唇はちゅるんとなっている。


「エロ――じゃなくて、可愛いね!」


 うっかり本音が出そうになってしまったが、何とか誤魔化せて安堵の息を漏らす。


「あたし、ナチュラルメイクが好きなんだ。鶴にもリップメイクをしてあげようか?」

「え」


 わたしは軽く後ずさる。


「え、じゃなくて。ほら、やってあげるから、こっちに来なさいよ」

「で、でも、わたしが似合うと思えないし……」

「いいからいいから。そういうのいいから」


 言った方がいいのかな……。


 ありえない話だけど、もしかして千恵ちゃんは〝あれ〟に気付いてない?


「リップメイクはねー」


 心臓がドキドキとやかましい。


 千恵ちゃんが楽しそうに説明しながら、わたしにリップメイクを施してくれたが、〝間接キス〟のことは最後まで黙っていた。


(……言えないよ)


 〝わたしが〝本気〟だなんて〟

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