第24話 合格のお祝い
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「おうーい、こっちだこっちー!」
翌日18時。
私とライムスは三駅先の繁華街までやってきたよ。
駅を降りてから位置情報に従って歩くこと数分。
スクランブル交差点に差し掛かったタイミングで聞き覚えのある声が飛んできた。
私はライムスを連れて、二人のほうに駆けていく。
「伊賀さーん、リボンちゃーん!」
今日の伊賀さんは半袖の革ジャンにジーパン、さらにはサングラスという格好で、モヒカンヘアーと相まってどことなく世紀末感を醸し出していた。
うん、やっぱり伊賀さんは厳ついね。
試練の時に加勢してくれたから優しい人だって分かるけど、これが初めましてだったら、ちょっと避けちゃうかもしれないね……。
リボンちゃんはツインテールが可愛いね。
衣装はオーバーサイズのスウェットとチェック柄のスカートという組み合わせで、可愛らしさを強調した出で立ちがとても良く似合っているよ。
対する私は、例のごとくの白シャツとジーパン。
他にも服はあるんだけど、どうしてもこの組み合わせが一番落ち着くんだよねぇ。
「こんばんは、お姉さん。お姉さんのペット、スライムなんだね。ふふ、かわいい子」
『ぴゆぅっ!』
ライムスが元気いっぱいに挨拶すると、リボンちゃんに抱かれて丸くなっていたイタチのモンスターが身を乗り出して。
『キキッ!』
『ぴゆぴゆ』
『チーッ!』
『ぴーっ!』
「リボンちゃんはカマイタチをペットにしてるんだね。ふふ、イタチモンスターももふもふしてて可愛いよねぇ」
カマイタチはもふもふの尻尾が可愛いモンスターだよ。
でも見た目に惑わされたらいけないね。
ダンジョンに出現するカマイタチは素早さもあるし、噛みつき攻撃や引っ掻き攻撃も強い。それに、たまに毒状態にされちゃうしね。
そして一番の必殺技が中級魔法のウィンド・カッター。
尻尾を振って、風の刃を飛ばす魔法だよ。
風属性攻撃は目に見えないものが多くて、避けるのが難しいと言われているから、苦戦する探索者も多いんだ。
「もふもふに、ぷよぷよ。そして――」
「俺のペットモンスターはコイツ、コドモドラだ!」
「伊賀さんすごいっ! ドラゴン族モンスターをペットにしてるだなんて!」
「私も、最初見た時は、ビックリしちゃった!」
「がわはははっ、どうだ、格好良いだろう!? ま、まだまだひよっこのドラちゃんなもんで、強さはEランクに届くかどうかってとこだがなっ!」
コドモドラはドラゴン族の中では最弱と言われているけれど、そもそもドラゴン族って時点で強いんだよねぇ。
攻撃防御、飛行能力に火炎放射攻撃。
牙も爪も表皮も硬くて頑強。
初心者テイマーにとっては心強い味方と言われているよ。
それだけに、テイムするのにはちょっと苦労するけどね。
『がうがうっ! がおーーっ!!』
『キーッ!』
『ぴゆぅーっ!』
「わわ! なんか、もう仲良くなってる?」
「ふふっ、ライムスってば友達が出来て嬉しそうだよ」
「俺のドラ吉も大喜びだな!」
「カマちょも楽しそう……」
モンスターの顔合わせもほどほどに、私たちは予約していた居酒屋にやってきたよ。
ゴールデンウィーク真っ只中、しかも時刻は18時。
当たり前だけど店内は大盛り上がりで、店員さんたちはあっち行ったりこっち行ったりと忙しそうにしているね。
「三名様でご予約の伊賀様ですね? ペットのモンスターは1時間1000円でお預かりできますが如何なさいますか?」
「俺は預けとくぜ。なんたってドラ吉のヤツ、人の酒を飲みたがるからな。しかも酔っぱらったら火を吐くこともあるし、大変なんだ」
「カマちょも預けとく。お肉が出てきたら、がっついちゃうの」
「ライムスはどうする? 私と一緒に来る? それとも友達と遊ぶ?」
私が聞くと、ライムスはぷゆ~と横に伸びたよ。
これは悩んでるときの仕草だね。
私と一緒に来たいっていう気持ちと、新しいお友達と一緒に遊びたいっていう気持ちがぶつかり合ってるみたいだね。
『きゅぴーっ!』
「そっかそっか、分かったよ」
ライムスは新しいお友達と遊びたいみたいだね。
ま、私とはいつでも一緒にいられるもんね。
「それじゃ、ライムスも預けます」
「畏まりました。ではペットのモンスター3匹、責任をもってお預かりいたします」
3匹を預けた後、私たちは店員さんに案内されてボックス席にやって来たよ。
注文はもちろん生ビール!
それと、伊賀さんのオススメで焼き鳥(タレ)も3つ注文したよ。
「ここの焼き鳥は肉が大きくて人気らしいぞ。しかも超柔らかくてアツアツだってな! ビールのお供としちゃサイコーだと思わねえか? ま、肉がデカすぎてすぐに腹いっぱいになっちまうらしいけどな!」
「うう、楽しみ!」
「私も楽しみですっ! ていうか全商品300円ってすごい安いですよね。ビックリしちゃいましたよ」
「あまり値段気にしなくていいの、助かっちゃう」
「美味い安いだけじゃねぇ。メニューが届くのも早いらしいぞ!」
そんなふうに話していると、本当にすぐにメニューがやって来たよ。
「そんじゃま、試練合格をお祝いして――」
「「「乾杯!!」」」
まずはビールを一口!
うーん、やっぱりサイコーだねっ!
勝利の美酒っていうとちょっと違うかもしれないけど、試練に受かって飲むお酒ってこんなに美味しいんだね。
そして焼き鳥だけど、思ってた以上に大きくてビックリしちゃったよ。
これ、一口で食べれるかな?
「いただきまーす。はむっ!」
うっ、うんまぁ~~~っ!!
伊賀さんが言ってた通り、いや、それ以上かも?
柔らかいお肉が口の中でとろけて、油と旨味がじゅわぁ~と広がっていくのが分かる。
火の通り加減もパーフェクト!
アツアツのお肉とシャキシャキのネギは相性抜群で、あっという間に一本平らげちゃったよ。
「あー、サイコーに美味ぇ~! どうだい嬢ちゃんたち。堪らねぇだろ?」
「うん。ホントに、サイコーだよ!」
「こんなに美味しいお店があったなんて、もっと早く知りたかったくらいです。美味しすぎて常連さんになっちゃうかも?」
「がわははははっ! 喜んでもらえて嬉しいぜ。苦労して探した甲斐があったってなもんよ!」
一皿食べ終えると、私はさらに追加で二皿注文したよ。
それにしてもホントに美味しいね、このお肉。
こんなに美味しいのを知っちゃったら他のお肉じゃ満足できなくなっちゃうかも?
それからも私たちは談笑を交えながら食事を楽しんだ。
#
家に帰ってくると、私は手短にシャワーを済ませて床に就いた。
ゴールデンウィークは残り2日。
明日明後日はダンジョン配信だね。
「また明日からお掃除だよ。頑張ろうね、ライムス」
私が声を掛けると、ライムスは返事とも寝息ともつかない小声を漏らした。
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