第二十五話『親友との学校生活』

舞宵の家の前で舞宵が出てくるのを待つ。


仲直りしてから早数日。


ちょっと前までは何を話してご機嫌を取ろうかとか考えてたけど、もうそんなことを気にする必要はない。

ずっと朝は憂鬱だったけど、今は晴れやかな気持ちで舞宵と会うことができるようになった。


そして今日の天気も晴れ。

素晴らしい朝ね。


「咲希ちゃんお待たせ~」

「おはよう舞宵」

「うん、おはよう!」


朝から元気に挨拶してくる舞宵。


小学校からずっと見慣れてる光景のはずなのに、たった1ヵ月ほど見なかっただけでなぜか新鮮味を感じてしまう。

これも関係が変わったからなんだろうか。


「そういえばあのクマは大事にしてくれてる?」

「ええ、もちろんよ。ベッドにおいて、寝るときは抱き枕代わりにしているわ」


良い感じにフィットするのか寝心地もいい気がするのよね。

起きた時も抱いたままだし、きっと私に合ってるんだと思う。


流石舞宵、いいセンスだわ。


「抱き枕かー。咲希ちゃん抱く力強いからぬいぐるみ痛がってないといいけど……」

「そんなつぶれるような力で抱いていないわよ」


時々なぜかぬいぐるみの瞳が潤んでいるようにも見えるけど……まあそんなことあるわけないし気のせいでしょう。


「そうそう、今日は部活の日だよ!」


舞宵の言う通り、今日は月に一、二回の料理部活動の日。

食材が必要になる関係でそんなに頻繁にはできずそのスケジュールになっているとのこと。


たくさんあっても太るだけだからそのぐらいでちょうどいいけどね。


「咲希ちゃんの作るお菓子楽しみにしてるよ」

「自分でおいしいの作るといいわ」

「えー私が作るとなんか焦げちゃうし」

「砂糖とかを適当に入れすぎなのよ……」


舞宵ったらろくに確認しないで入れるんだもの。

折角のレシピが全く意味を成してないわ。


「えーでもみんな測ってないし」

「それは慣れてるからよ」


ああいう人たちは目分量で大体わかるんでしょうし。

出来ないうちは丁寧にやらないと上達しようがないんだけど。


そう舞宵に告げるが、舞宵は既に両手を耳にあてている。


「咲希ちゃんの小言はききませーん。ほらほらおいていっちゃうよー」

「はいはい」


こういうところは全然変わらないんだから。


苦笑いを浮かべつつ、こちらを振り返る舞宵を追いかけた。





======





「白石さんおはよー」

「おはよー」

「おはよう」


学校に着き、靴箱や廊下、教室等でみんなと挨拶を交わす。


当然舞宵にも挨拶してくれるんだけど――



「佐倉さんもおはよー」

「ひゃ! お、おひゃようございましゅ……」

「あ、あはは……」



――結局はあの調子。


挨拶してくれた方が気まずくなってるってどういうことなのよ。

藤本孝平という友達ができてもその辺りはなかなか変わらないものね。


まだまだ道は険しそうと微妙な顔をしていると、クラスメイトの男子が近づいてきた。


「白石おはよう!」

「……おはよう」


目線だけ向けて挨拶を返す、ただそれだけ。

その男は少しだけその場に立ち止まり、そして席へ戻っていった。



「おい、性懲りもなく白石に声かけてるのかよ」

「ちょっとぐらいニコリとかしてくれてもいいのにな。男子と話すときはいっつも仏頂面」

「まーずっと声かけてたらワンチャンあるかもじゃん?」



挨拶してきた男が他と話している声が聞こえてくる。

その内容に内心でため息を漏らした。



全く……下心がバレバレなのよ。

どうせ少しでもニコリとしたらいけるとか思われるわけでしょ?

それがわかってる相手にそんなまともな対応するわけないじゃない。


卑しい男どもめ。



「ねぇ、白石さん。今日の数学なんだけど――」


クラスの女子に話しかけられたため、少し黒くなっていた思考を振り払う。

そのクラスメイトと話をしながらSHRまで過ごした。




************




昼休み。

天気がいいので校庭で弁当を食べることになったのだが、舞宵が開けた弁当の中身を見てギョッとしてしまう。


「ね、ねぇ、舞宵。気のせいか最近弁当の量がどんどん増えていない?」


ご飯の量もおかずの量も先週よりも目に見えて多い。

これを女の子の弁当で通すのはきついものがある。


「最近すごいお腹減るんだよね。前はストレスかと思ってたんだけどねー」

「……」


こっち覗き込むのやめて。


「でも咲希ちゃんと仲直りしてからも食べる量変わらないから成長期ってことだと思う!」

「運動もしてないのに消費エネルギーが増えてるのね」

「きっと体が成長しようと頑張ってるんだよ! 見ててよね、もうちょっとしたら咲希ちゃんみたいにだいなまいとぼでーになってるから」

「ダイナマイトボディっていつの言葉よ……」


舞宵がそういう体になるには身長も胸も二回りは成長しないとダメそう。

中々現実味がなさそうな気がするなぁ。


「というか、私みたいってやめてよ。私全然巨乳とかじゃないんだから」


ペタペタと自分のに手を当てる。


うん、至って年相応の普通のサイズ……のはず。

変に思われるからスタイルがいいって言ってほしい。

まあ走るのに邪魔そうだし、別に大きくなくていいんけど。


しかし、舞宵が成長期かぁ。


「一気に横に広がらないといいけど」

「へへん、私食べても太らないもーん」

「それ、絶対他の女の子に言わないでよね」


自慢顔をしている舞宵を見て口をへの字にする。


ただえさえあまり友好的な関係築けてないのに、そんなこと言ったら反感買って嫌われるからね。


「咲希ちゃんもそう思われてるんじゃないの? すごい細いんだし」

「まあそこらの男達はそう思ってるんでしょうけどね……裏での努力を少しは察してほしいわ」


何もしないで今の私を維持してると思ってるのならかなり心外なのよね。

お母さん達のアドバイスに従って日々頑張ってるんだから。


「運動とかの成果ってことだもんね」

「そういうこと。舞宵もちょっとは動くことね。太らないと言っても人並みにはぷにぷになんだから」

「私としては咲希ちゃん細すぎだし、これぐらいが健康的だからいいの――ちょ、つまむなぁ!」




しばらく舞宵のお腹周りで遊んだ。


ふぅ、良いストレス発散になったわ。


「はぁ、はぁ、やっとやめてくれた……」


満足げにしている私の隣で舞宵は息を荒げさせている。


「食後のいい運動になったわね」

「いやこれ一歩違ったら拷問だからね……?」


えー折角いい感じにぷにぷにしてるのに。

私のストレス解消手段として定期的にやらせてほしいなぁ。


「あ、そうそう運動と言えば」

「うん?」

「藤本君が言ってたんだけど、あっちの学校今日から体育祭の練習が始まったんだって」

「ふーん」


うん、全然興味ない。

そんなの思い出さなくていいわよ。


「急にテンション下がるんだから……って、伝えたいのは藤本君のことじゃなくて、その体育祭で藤本君の親友さんがリレーの学年代表に選ばれたんだって」

「え、親友さん? リレーの代表?」


突然話題に出てきた存在に体が強張ったのを自覚したが、何とか表に出さないよう努める。


「そうそう。その親友さん足がすごい速いんだって。なんだか咲希ちゃんみたいだなって思っちゃったよ」

「ふ、ふーん。そんな偶然があるのね」

「すごいよねぇ」


あいつ足速いんだ、ふーん。

いやまあ全然興味ないけど。


てかあいつあの言動といいリレーといい、やってることが根暗な見た目に合わなさすぎでしょ。

ほんと変な男。


「あい――コホン。その親友さんは陸上部なのかしら?」

「いや、部活はやってないみたいだし、今まで陸上やってたとかでもないみたい。元から速いんだって」

「へ、へぇー」


陸上やってるわけでもないのに代表に選ばれるぐらい速いですって?

あいつ生意気ね。


「咲希ちゃんとどっちが速いんだろうね」

「といっても私がやってたのは中学の時だし。最近は本格的なトレーニングしてないから」

「そっかー。その親友さんにはぜひリレーで活躍してほしいよね」

「ふん、大人数の前で転んで無様な姿を見せないといいけどね」

「なんか男嫌いとはまた違う何かを感じる気がする」

「き、気のせいよ」


しまったつい本音が。

にしてもあいつ、まさか私より速いとかないでしょうね。


……速かったらムカつくから練習しよう。

それでマウント取られたら我慢ならないわ。

さぞかんに障る物言いをしてくるんでしょう。


「というかきっと咲希ちゃんも体育祭でリレー走ることになるよね」

「どうかしら。クラス対抗とかなら走ることになるかもだけど」

「選ばれるよ! あ、でも最近トレーニングしてないんだっけ」

「そうね。……じゃあ選ばれたときのために少しはトレーニングしておこうかしら。あくまで体育祭のためにね!」

「う、うん、気合入ってるね……その時はいっぱい応援するからね!」

「ええ、お願いね」


あいつには絶対に負けないんだから。


あーあ、せっかく舞宵のおかげで晴れたストレスがあいつのせいでまた沸々と。

早く放課後にならないかな。

確か今日はお菓子作るって言ってたし。


こんな時は甘いものを食べるに限るわ。



はーイチゴ食べたいなぁ。




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