第二十四話『お呼びがかかる』

組長の解散宣言の後、周りの生徒がどうしようかと話し合い始める。


「代表、誰になるだろうね」

「まあ陸上部だろ。短距離専門が七人いたら即決まりだな」


いくら体育祭楽しむって言っても勝ちに行くことに変わりはないからな。

専門がいるのならその人達が走るのは当然だろう。


ただ、そんなに話がうまく進むこともない。


「そんなにいるのかな?」

「ウチのクラスには……確か一人か。足りなさそうか?」


人数自体は結構いるのに案外いないもんだな。

まあ部活強制ってわけでもないし、運動部人口自体がそんなに多くないのかね。


「それに短距離とは限らないもんね。色々種目あるんだし」

「いくら陸上部所属でも、砲丸投げとか棒高跳びの選手が足まで速いとは限らないか」


むしろ走りに必要のない筋肉が多くて遅そうだ。

動いても体を痛めたりはしなさそうだけども。


「それでも俺よりは速いだろうけどね」

「孝平はまず運動をしようぜ」

「い、いやぁ俺はその場から動かずに動物の世話とかしてるのがあってるよ」

「動物と一緒に走るとかないのかよ。ほら、犬とか走るじゃん」

「そんなアグレッシブな子は別の人に任せたいなぁ」

「……」


頑なに運動をしたくないという様子の孝平を情けなく思ってしまう。

なんでその辺りはインドアなのかねぇ。


「少しは動けよな」

「俺のことはよくて! 真人だよ真人」

「お、おう……オレが何だって――」

「ちょっといいか?」

「ん? ああ、クラスの陸上部の」


話をぶった切るように大声を出した孝平に驚いていると、誰かが話しかけてくる。

その姿には見覚えがあり、クラスメイトということが分かった。


「山口君だよ真人」


孝平が耳元でこそっと教えてくる。


や、流石にわかってるぞ?

確かこの人が短距離やってる陸部だったよな。


「他の陸上部と話してたんだけど、流石に短距離で七人埋まらなくてな」

「やっぱ埋まらないんだ」

「そうなんだよ。で、陸上部以外で足が速い人いないかってなったんだけど、確か橘って足速かったよな」

「まあ遅い方では――」

「真人はめっちゃ足速いよ!」


オレではなく孝平が自信満々に答える。


「おい孝平」

「今誤魔化そうとしてたでしょ。真人は速いの! 全く、何言ってんだか」

「だよな。体力テストの時すげぇびっくりしたし」


体力テスト……50m走のことだよな。

あれ、どのぐらいだったっけ。

いいタイム出て喜んだ記憶はあるんだが。


「絶対その顔何秒か覚えてないね。6.64秒だよ! 中学の時よりも速くなってて驚いたって話したじゃん!」

「あー」

「いやほんと速いな!?」


そんな感じだったと頷く俺の前で山口が目を見開く。


「なんで陸上部入ってないんだよ」

「まあ事情があって」

「……まあいいや。とりあえずそんだけ速いんだしリレーの代表選手になってほしい」


マジか。

とりあえず断る理由はないので頷く。


「わかった、いいよ」

「サンキュー! メンバーが全員決まったらこれからのことを決めよう」


そう言って山口は別の場所へと移動していった。


「また選ばれたね」

「だなぁ。高校ではないと思ってた」

「中学ずっとリレーやってたくせに、謙虚なんだから」

「あれはクラス対抗や部活対抗だったからな。規模が違う」


専門でもないオレが学年単位のリレーに選ばれるとか思わんだろ普通。


「まあ俺は真人なら選ばれるかもって思ってたよ」

「オレは思ってなかったなぁ。選ばれたからには精一杯走るけども」

「頑張ってね!」



◇◇◇◇



他の学年の方を見ると、向こうはまだ話し合いをしており時間がかかりそうな様子だ。


そういえばとプリントを取り出す。


「孝平、今回の種目見たか?」


改めて内容を確認する。



『当日スケジュール』

午前の部

・応援合戦

・100m走(全学年男女別)

・妨害あり玉入れ(一年生)

・UFO(三年生)

・部活行進&部活対抗リレー

・教員競技


午後の部

・保護者競技

・〇×クイズ(全学年)

・大ムカデ競争(全学年)

・騎馬戦(二年生男女別)

・学年対抗リレー(全学年選抜)



オレとしては一番最初に応援合戦ってのは意外な順番だ。

基本的にこういうのは昼食後にあるイメージだった。


「もちろん見たよ。〇×クイズとか意外だよね」

「頭の運動もしようぜってことだろうか」

「お、なるほど。流石真人うまいねぇ~」

「……フッ」


そんなつもりは全くなかったが、褒められたのでとりあえず胸を張っておく。


「ぐえっ」


とはいえ顔がウザかったので軽いデコピンはしておいた。


「それも気になるが、この大ムカデ競争とUFOってヤツ。全然聞いたことないんだけど孝平知ってるか?」

「ああ、知ってるよ」


マジか、中学の時こんなのなかったけどな。


「よく知ってるな」

「アニメの体育祭とかでやってたんだよね」

「へぇ」


そんなのもアニメで知れるのか。

最近は分野も多岐にわたっていて、ためになる知識が詰まったアニメもあるらしい。


読書と同じように娯楽と知識が同時に満たされるのならすごいよな。

まあ見ようと思って見れるものでもないし、たまに孝平に見せてもらうぐらいでいいんだけど。


「んで、どんな感じなんだ?」

「えっと確か、ムカデ競争は名前通りって感じで、大人数で列を作って、みんなの足を紐で結んで、その状態で他と競争してたね」


なるほど、繋がってる足が多いからムカデか。


「オレが見たのは五人ぐらいだったけど、大ってことは人数はもっと多そうだね」

「大人数ねぇ」


――待てよ?

確かムカデって漢字で書くと百足だが、まさか五十人で並んだりはしないよな……?


いやそんなのただの軍隊だし、流石にないわな。

こけた時の被害すごそうだし。


「UFOの方は口だけだとちょっと説明しにくいんだけど……」


そう言って孝平はジェスチャーを交えて説明してくれる。




「――つまり、数人が背を向け合って輪を作り、その背中の上に大玉転がしとかで使うボールを乗せる。その状態のままスタートからゴールまで移動、ってのを最後まで繰り返すって感じか」

「そんな感じ」


微妙に理解に時間がかかったが、何とか自分の言葉にまとめることができた。

名前は一癖あるが、内容は結構シンプルだな。


「ちなみに落としたらその場でやり直しらしいよ」

「へぇ、流石にその場なのか」

「最初からじゃずっと進めないところ出てきそうだしねー」


確かにそのルールだと進行にも影響出てきそうか。

たかが体育祭でそこを厳しくすることもないだろうし。


案外やり直し前提で猛ダッシュした方が効率よかったりするかもな。


「サンキュ、どんな種目かわかったわ」

「へへ、どういたしまして」

「でもちょっと残念だったな。知らない種目がないのは孝平としては新鮮味が薄くて微妙なんじゃないか?」

「いやいや、そんなことはないよ。知ってるって言ってもやったことあるわけじゃないし、内容次第じゃいくらでも変わってくると思うしねー」


そういえば玉入れも普通のじゃなくて"妨害あり"だもんな。

一捻り二捻り加えられてそう。


「もし全部やったことあるものだったとしても、みんなと一緒にやるのが楽しいんだから。結局はなんでも盛り上がったもん勝ちだからね!」


そう言って孝平は屈託のない笑みを浮かべた。


そりゃ孝平ならそう答えるわな、聞くこと自体が間違いだった。


「体育祭、楽しみだな」

「うんうん。だからこそ、真人はリレー頑張らないとね~」

「周りを盛り下げないようにしないとな」

「真人自身が楽しむのが一番大事だよ!」



しばらく孝平と駄弁っていると集合の合図がかかり、一度黄組で集まってから全体で集合する。



全体では体育祭の大まかな流れや入退場の動きの練習などを軽く行った。

今日はまだ軽いものだったが、今後はどこがズレているという指摘が入るようになるのだろう。


中学時代にあったやり直し地獄を思い出すと今から億劫になるな。




************




全体練習が終わってからは再度各組に分かれ、応援合戦練習の時間となる。

組長が言っていた通り、まずは組長含めた数人の三年生に動きを披露してもらった。




「「「――わぁぁあ!」」」


演目が終わり、黄組全体から自然と拍手が生まれる。


流れる曲に合わせながらの動きや声出しはとてもスムーズで、まさしくお手本と言っていい姿だった。

というか組長の動きのキレがすさまじい。

他の人だって決まった動きをしているだろうに、ああもクオリティに差が出るものとは。

ダンスとかしてる人なんだろうか。


しかし、あれを大勢の前で披露するメンタルがまずすごいよな。

オレはとてもあの立場になりたいとは思えんな……



本日は演目全体の流れを把握するぐらいで練習の時間が終了する。


そして残りの授業をこなし、放課後になったところで山口に話しかけられ、明日の放課後にリレーメンバーの顔合わせを行うと伝えられた。



選ばれた以上は頑張らないとな。




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