3ー2

PM 7:30 『仮面の魔女』の工房


 目が覚める。目が覚めると、ラフィラではなく、私のよく知るところだった。

 あれから、どれだけの時間が経ったのか、わからない。だが、私は確実に死んだのだ。


「もうお目覚め?」


「『仮面の魔女ジャンヌ』なのか? ここは?」


「私の工房よ。あなた、あれに運ばれて来たのよ。それも、ひどい状態でね」


仮面の魔女ジャンヌ』の言葉に、思い出す。そうだ、私はあの亡霊に追い込まれ、自分で自害したのだ。それも、ひどくやられた状態で。

 しかし、誰が運んできたのかもわからない。私は、試しに聞いてみた。


「誰が私をここに? 君が運んできたのか?」


「いいえ。あなたのところの野良猫よ。全く、少しは躾をしたらどう?」


「明日香が運んだのか? 珍しいこともあるんだな」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私の衣服を用意する。私は、体を起こすと、自分の負傷した箇所が治っているのを見る。


「あなたの身体の認識情報を変えておいたわ。今の肉人形ボディが、あなたの身体よ」


「なるほど。どうりで、ボロボロになったところが、元通りになってるわけか」


「早く着替えなさいな。見せたいものがあるんだから」


 私は、『仮面の魔女ジャンヌ』の用意した着替えを着る。着替え終えると、『仮面の魔女ジャンヌ』のいる所へ向かった。

 到着すると、そこはまるで人形の工房アトリエのようだった。


「それにしても、早すぎないかしら? あの小娘が、『魔女どうほう』になったのが最後のはずよ」


「それを悪かった。そうだな、彼女が『死んだ』ことになってからもう1年か。そんなあっという間だったか」


「何を呑気に言ってるの? これはあくまで、『大罪級の咎人』との戦いのための肉体スペアよ。

 まぁ、あなたにはそう言うわけには行かないでしょ?」


「あぁ、これ以上、あれに勝手される訳には行かない。これ以上、自殺者ひがいしゃを増やす訳には行かない。奴には、あそこから退去してもらわないとな」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私の言葉に疑問を抱く。


「被害者? 彼女たちは自殺したんでしょ? ――――――あなたは、それを?」


「そうだ。彼女たちは、自殺したんじゃない。自殺ころされたんだ。奴の身勝手な我儘でな。本来なら、もうこの世にはいない魂だ。それを魔術を用いて縛られてる。

 彼女たちは、死ぬ前までは正常な人間だったんだ。なのに、奴に誘われる形で、すすきののビルから飛び降りたんだ。

 まるで、雛が育って大きくなって母鳥の元に向かうようにな。だから、この被害者たちは自殺ころさせられたんだ。

 だから、これは『他殺』になるんだ。側から見たら『自殺』にしか見えないが、実際は殺されただけなんだ」


「なるほどね。貴方にしては、随分と良い考察ね。私も同感よ。さっきまでそこに引っかかっていたけど、それで、全て繋がったわ」


「君が引っ掛かるなんて、意外だよ。だけど、何を目的にしているか。そうだな、本来なら、彼女は見たかったんだろう。見えなくなった自分が見る『俯瞰風景』とやらを。でも、意図しない形で、間違った方向に行っている。今頃、誰かに助けを呼んでるだろうな。

 だから私は、助けころしに行かなきゃ行けない。それが、今できることで、最善なことだ」


「そうね。貴方は今もじっとしていられる時間は無い。なら、どうするか。自分1人では出来ないわよ? 貴方のお仲間を使うしかないわ」


仮面の魔女ジャンヌ』の言葉に、ラスティア達の頭が浮かぶ。そうか、それを忘れていたんだと痛感した。

仮面の魔女ジャンヌ』は、見かねたのか、私に紙切れを渡す。


「これは?」


「彼女のいる病室よ。それをあげるから、誰かに見舞いに行かせない。」


「なるほど、全くの赤の他人だって言うのに、病室まで調べて」


「まぁ、良いんでしょうよ。それより、早く行かなさい。下で待ってるわ」


 私は、魔力を感じ、誰かが待っているを知った。それを聞き、私はここを去る。すると、仮面をつけられた人形を見つけた。


「これは?」


「私の傑作よ。貴方を素体にして、作った『虹の魔女あのお方』の人形よ。貴方には何に見えるか知らないけど、私にとっては大切な、主人なのよ。

 貴方が居続ける限り、私は貴方に着いていく。だって、貴方は――――――」


「知ってるさ。4年も前からずっと。でも、私は奴とは違う。だから、君の支えがいるんだ」


「えぇ、貴方は、私の親友。そして、貴方は我が愛おしき『魔女』。だから、貴方が必要としているのなら何でもするわ」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私を後ろから抱きつく。彼女はたまにこうしてくるから、少し面倒に感じる。

 けど、それでも満更でも無いのは私の良心だろうか。

 私は、『仮面の魔女ジャンヌ』から離れる。そして、ここを後にする。


「んじゃ、また頼むよ。『仮面の魔女ジャンヌ』」


「えぇ、それじゃね。アル」


 私は、その声を後ろに、工房を離れる。そして、エスカレーターに乗って下に降りた。

 1階まで降りると、いつもと違う格好をした知り合いが待っていた。


「遅い! あれと何話してたの?」


 髪をツインテールにした明日香が、エントランスで待っていた。どうやら、私を待っていたらしい。


「悪い。少し、立て込んでいたよ」


「嘘。身体が起きたばっかなくせに。それで? 何か話したの?」


「まぁ、ただの雑談さ。君こそ、なんで迎えに来たの?」


 明日香は、ニンマリした顔で私を見る。


「ラスティアが、待ってるよ。それも、怒った顔で」


「はぁ……。わかったよ。すぐに帰ろうか」


 私は、溜息をしながら、歩く。明日香も、私に着いていくように歩く。

 こうして、私は渋々と明日香と共に邸に帰っていくのだった。

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