第3節 ラフィラの亡霊

3ー1

第3節 ラフィラの亡霊



AM 0:00 すすきの


 強力な霊気を抑えることで、ラフィラの解体現場に足を踏み込む。内装は、大分壊されており、中には入りずらいので、工事用の足場を使って屋上を目指す。

 工事用の目隠しをしている為、外からは私が不法侵入していることは見えないのだろう。だが、あれは見逃すことはないだろう。

 視線を感じ、後ろを振り向く。私は、視線を感じたところに向かって、小杖タクトを携えて歩く。

 すると、私の体が勝手に動き出し、ラフィラの中に入る。どうやら、奴の念力ちからによって、体が勝手に動かされたそうだ。


「思ったよりも、強い力だ。これじゃ、並の魔術師じゃ簡単に憑かれるな」


 私の体は、自分の意思とは違う方向に歩く。

 だが、黙って操られるだけの私ではない。私は小杖タクトを自分の影に向けて魔術を放つ。すると、私の体は影に縛られ動くことすらできず、粘力によって体が動くことすら出来なくなった。

 だが、それでも念力は私を引っ張り続ける。私は、見えない何かに向けて、魔術を放つ。


「邪魔だ!」っと私が火の玉を放つと、強い念力は消滅していった。


「はぁ……。はぁ……。思った以上の念力ちからだな。まさか、影を縛る魔術を自分に向けて使うことになるなんてな」


 私は、左腕を見る。強い念力によって、引っ張られた痕が、強く残る。

 左腕の強い痛みを感じながら、縛っていた影を解き、そのまま進み行く。進むにつれ、霊の力がますます増していく。

 どうやら、私は招かねざる客人らしい。そのため、霊による拒否反応を、強く感じるのだ。

 エレベーターが動かないので、まだ取り壊されていない非常階段から3階に登る。電気が止まってるのもあり、私は火の玉をランタンに代わりにして道を照らす。

 すると、火の玉の炎の照らし具合が、強弱が激しくなる。どうやら、私を取り巻く霊が、離れたり憑依しようとしているようだ。


「鬱陶しいな。だが、ここまで強いなんてな」


 私は、5階まで上がる。すると、2階とは比べ物にならないほどの念力を感じる。その為か、私でさえ足がくらみ出す。

 その間でも、霊は私の体を取り憑こうとするが、その度に私はそれを追い払う。

 そうしながら進んでいくと、先ほどより強い念力を感じる。


「――――――――っ!!」


 先ほどより強い念力によって、左腕が捩れる。それに伴い、私の左腕が雑巾のように捩れてしまった。

 流石の私も、この痛みには耐えれず、思わず大声を上げる。

 そして、とっさにそこから垂れ落ちる血を使い、血の剣を形成し、見えないところに放出する。

 だが、相手は霊体。生体から出る血では、太刀打ちなんてできる訳がない。


「まずいな……。グラムが使えなんじゃ、奴らをどうにも出来ないな」


 左腕が使え物にならない以上、私が使えるのは右腕のティルフィングとなる。だが、ティルフィングのみでは、正直心許ない。

 私は、グラムの封印形態をジャケットから帯に変える。そして、それを左腕の巻きつけ、応急処置を行なった。

 右腕のティルフィングを展開し、辺りを見渡す。すると、目の前には虚な顔をして浮遊する霊が、私の眼前に現れた。


「――――――――――!!」


 私は、とっさにその場から離れる。どうやら、奴が私を殺しにかかってきたのだ。

 私は、ティルフィングを振りかざす。だが、謎の障壁によって跳ね返されてしまった。

 その衝撃は凄まじく、私の体は壁に大きく叩きつけられた。

 よれけながら、なんとか平常心を保つ。すると、今度は右足を捩り出す。そして、左腕同様、雑巾のように右足も捻られた。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


 あまりにもの激痛に耐えれず、再び悲鳴を上げる。私が立つ隙も与えに、今度は右足も捻り出そうとする。


「この……! 図にのるな!!」


 私は、捻りの元に向けて、ティルフィングを刺す。すると、霊の腕は消え去り、同時に違和感を感じる。

 やはりというべきか、霊には魔力の反応があった。


「このままじゃ、私が不利になる。悔しいが、『仮面の魔女ジャンヌ』とこへ、向かわないと」


 私は、あっけなく退散を決める。だが、あの霊はただでは返してくれそうにないらしい。

 非常階段まで逃げると、私は、捩れてしまった右足を見る。もう使えんにならないのは、誰からの目でもわかる。

 どうするか考えたが、私は右足を切ることに決めた。

 血の剣を作り、刃を熱した状態で右膝の付け根の辺りに置く。そして、固唾を飲み、意を決して右膝を斬る。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! はぁ……。はぁ……。流石に、自分の体を切断をするなんて、正気じゃないな……」


 私は、右手で切断した箇所に触れる。あまりの熱さに、意識が飛びそうになるが、なんとか耐える。

 そして、ティルフィングを杖代わりにし、階段を降りる。

 だが、再び引っ張られる感触を感じる。4階に入られた私は、満身創痍の中、あの亡霊と対峙する。

 さっきの攻撃といい、この建物ラフィラはあれの箱庭のようだ。

 念力の攻撃が私に襲いかかる。私は埃を触媒にし、火の玉を作り迎撃する。だが、念力に負け私はまた跳ね返される。

 その衝撃によって、私はもう動けなくなった。どうやら、左足を折られたそうだ。大分やられたらしく、肉から骨が飛び出てしまったようだ。

 そして、それを見かけた亡霊は、私に取り憑くとする。


『うふふふふふ……。あなたも、こっちに……』


「そうかい。だが残念だ。お前に自殺ころされるほど、私もやわじゃない……」


 私は、とっさに血の剣を自身の胸に、それも心臓部に向けて刺す。

 それを見た亡霊は、私から離れていった。


(やっぱり、自殺は、いいもんじゃないな……)


 胸部から、血が溢れてくる。次第に私の意識も遠ざかっていく。


(すまないな……。明日香……。ヘマ、こいちまった……)


 私の意識は、完全に消える。そして、私の体は完全に死を迎えるのだった。




――――――――――――――――――――



2時間後 ラフィラ廃墟


「だから言ったのに。あれの言う通りにしろって」


 あいつの帰りが遅く、不審に感じてラフィラに入る。血痕を見かけたので、まさかと思ったが、やはりあいつは死んでいた。

 左腕は捩れ、右足も欠損している。おそらく、自分で切断したんだろう。

 馬鹿のことだ。そうならずとも、よかったのに。おまけに、左足も激しく折れたみたいだ。


「ウィズ。こいつ、入れる?」


『大丈夫だけど、いいの?』


「ほっといても、あれが来るでしょう? でも、手間だろうし持っていくさ」


『アルは薄情だね。本当は、この人に片をつけさせようと持ってるくせに』


「ウィズにはわかってたか。まぁ、起きてからラスティアに怒られてもらうつもりだし」


 私は、あいつの遺体は亜空間にしまう。そして、一目散にラフィラから離れた。

 今日もまた、サイレンがすすきのの街に響く。あいつが、止めれなかった証拠だ。そして、雑居ビルに到着する。

 4階のボタンを押し、エスカレーターで目的の場所に着く。

 その奥にある、胡散臭いドアの前に着く。


「開けなくていいよ。あんたの顔見たくないし」


『珍しいわね。あなたが来るなんて。私も同じよ。あなたの顔なんて、見ようと思わない訳だし』


「あいつがいなきゃ、とっくに殺してたよ。あんたはあいつの友人な訳だし」


『物分かりが良くて助かるわ。それで? なんの用かしら?』


 私は、亜空間からあいつの遺体を、あれの居る場所に召喚する。


「それ、手当してよ。それが出来るの、あんただけでしょ?」


『自分の友人に頼まなかったのね。あれなら、私に頼まなくたって良いでしょうに』


「リリムの奴がやると思う? それに、私が行かなくても行ってたんだ。手間が省けた物だから、感謝しなよ」


『まぁ、それは感謝するわ。後はそれだけ? 用がないならとっとと失せなさいな』


「あんたのそう言うところ、ほんと気に入らない。まぁ、それだけなのも事実だし、お暇させてもらうよ」


 あれは、私が置いたあいつの遺体は手当する。それをドア越しで見た私は、このビルを後にする。

 亜空間から、ハンバーガーを出し、それを食べる。

 こうして、遠くで自殺したと思われる遺体を処理をする人達を横目に、私は邸に帰るのだった。

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