2ー2

AM 7:00 如月邸


「――――さん!」


 誰かの声が聞こえ、目を覚ます。そして、何かを避ける音も聞こえる。察するに、大量の書物がどかされる音だ。


「――――ぇさん!」


 どこかで聞き覚えのある声だ。閉じたきりの瞼を、ゆっくりと開ける。すると、ぼんやりとしてるが、身に覚えしかない人物が、困り顔をしながら私を見下ろしていた。


「姉さん! 起きてください!!」


「あれ? ラスティア? どうしたの?」


「どうしたのじゃないよ! ベッドで寝てってあれほど言ってるでしょう!!」


 ラスティアの怒号が響き渡る。どうやら、書物を読み漁っているうちに寝てしまったようだ。

 やれやれと思っているのか、ラスティアは書物を片付けている。すると、ふとある書物を見つけ、私はそれを読む。

 書物の中身は、どうやら呪術に関する事を記しているようだ。


「呪術? 魔術に似たやつか?」


「姉さん。また魔術書読んで……。そんなに今回の事件、難航してるの?」


「どうもね。引っかかるところが多くてね。それの答えを出すのに、苦労してるのさ」


「珍しいね。それと昨日、魔術院向こうから連絡があったよ」


 ラスティアが、本を片付けながら私に話す。どうやら、私が『仮面の魔女ジャンヌ』の所に行ってる間に魔術院から電話があったそうだ。


「何の連絡だった?」


「セシリアからの連絡。電話が出来るうちに、連絡をよこせだって」


「はいはい。この後からでもしておくよ」


 私は、すぐに事務所に降り、デスクになる古電話に手をかける。古いダイアルを回し、セシリア宛に電話をかける。

 国際電話に接続する音が響く。その後に、電話から誰かが出る音がする。


『もしもし〜。あらぁ、アルじゃないの〜』


 電話越しから、セシリアが応答する。どうやら、出来上がってるようだ。そういえば、向こうロンドンはまだ23時だった。


「出来上がってるな。それほど、外では飲めないことに嫌気がさしてるのか?」


『そうなのよ〜。こっちはロックダウンで外出できないのよ〜。そっちはいいわね。ロックダウンなんてなくて』


「どこも変わらんだろう。どうでもいい理由で、規制をかけられてんだ。どうあれ、時期に嫌気がさすに決まってるさ」


『それもそうね〜』


 セシリアは、酔っ払いながら、電話をする。出来上がってるみたいだし、また折り返すことにしようか。

 そう思ってると、セシリアはあることを話し出す。


『そういえば、例の事件はどう?』


 セシリアは、唐突に今私が調べてる事件について、話し出す。


「何の話だい?」


『とぼけても無駄よ。その件については、魔術院こっちでも有名になってるんだから』


「なら、隠し事は無しだな。すでに5件、被害が出てる。それに、容疑者は人外ではないようだ」


『人外ねぇ〜。通りで、すすきのあの辺の『魔素マナ』が濃いと言うわけね。それなら、あなたが苦戦するのも納得ね』


「そうだね。こっちも、何が引っかかってるのかがまだ分かってないんだ」


『意外ね。それなら、良い事を教えましょうか?』


 セシリアは、意味深なことを話し出す。どうやら、何かを知っているみたいだ。


『『雛鳥は、母鳥を求めて飛び立つ。雛鳥を産み止めるには、母鳥を狩るしかない。』議長あのお子様の言い分よ』


「――――分かった。肝に免じておくって伝えておいて」


 そういい、私は電話を切る。その言葉を聞き、『仮面の魔女ジャンヌ』の言っていたことを思い出す。


『みにくいアヒルの子には気をつけなさい』


 その言葉と、リリィの言葉が当てはまる。私は、それが合致していることに、腕を顔に当てながら背もたれにもたれる。

 すると、誰かがコーヒーを置いてくれたようだ。


「何ふけってんの? はい、コーヒー」


「ありがとう。って明日香か。帰ってきてたの?」


「ついさっきね。それより、夜中すすきのに行って来たよ」


「すすきの? 珍しいね。君が真夜中に街を出歩くなんてね」


 明日香は、呆れながら私に言う。


「何を言ってるのさ。例の事件現場に行って来ただけさ」


「何を見てきた?」


「これで5件だよ。今度は、第三グリーンビル。それも、一通りの多い道路で発見された。それに、あのデパートの霊も日に日に強くなってきてるよ」


「やっぱり、あれが母鳥元凶か?」


 明日香は、事務所のドアに寄りかかる。彼女も彼女なりに、調べていたようだ。


「そうだね。それに、また50m先だ。前回の件よりもさらに先になってる」


「次の自殺者が出るのも、150m先か?」


「そうだろうね。でも、次は夕方6時だ。明日までに何かしらの手を打たないと、あれが強くなっていくよ」


「分かってる。だが、あの街だ。特定できるのは、至難の技さ」


 明日香は、ハンバーガーをだし、それを食べる。どうやら、腹が減ってるようだ。

 しかし、明日香の言い分も分かる。悲劇を繰り返さないためには、この手も考えないといけないのだから。


「まぁ、どうするかは君に任せるよ」


「呑気なことだな。それこそ、君が言い出したことだろ?」


 明日香は、事務所から出ていく。そして、最後に助言を言う。


「最後に、あいつからの伝言。『動くなら早くしろ』ってさ」


 そう言い残し、上に上がっていく明日香。それを見送った私は、昨日使った地図を広げる。円を書き、5件目の自殺を書き記す。

 こうして、私は次の現場の候補地を探るのだった。

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