第2話 後編

「わぁー。さっちゃん、いつもお見舞い来てくれてありがとー」


さっちゃんは、私の幼馴染みで、ターニングポイントのファンでもある。リーダーのナツを推している。さっちゃんとは同じ高校でクラスは違うけれど、ターニングポイントの話題ができる唯一の友人でもあるので、お互いのクラスを行き来してはいつも盛り上がっていた。

 

「奈美ちゃん、体調は大丈夫?」


「うん。まあまあかな。早くトッキーのライブ行きたいなー」


「あはは。奈美ちゃんまたそれ言ってる」


「なんで笑うのよ。さっちゃんもライブ行きたいって言ってたじゃないのさー」


コンコンッとドアがノックされた。

誰だろう。看護婦さんかな。


「はーい」


一応返事してみると、ガラッとドアを開いた。隣の病室に入院しているおじいちゃんだった。


「あ、こんにちは。どうされましたか? 今、ちょうど友達がお見舞いに来てくれてて」


髪の毛の三分の二が白髪のそのおじいちゃんはやたらと良い姿勢で歩み寄ってきた。皺は深いけれど、昔はいい男だったんだろうな、と想像できるような整った顔立ちをしている。


でも、ちょっとこのおじいちゃんおかしいんだよね。やたらと私に絡んできて、実はちょっと困ってるんだ。


おじいちゃんはさっちゃんと何やら話をしている。この二人って知り合いだったのかな。もしかして、このおじいちゃん、さっちゃんの関係者だったのだろうか。


そのおじいちゃんは、私の大切なトッキーのDVDケースを手にとってじっと見つめている。


「ち…、ちょっと勝手に触らないでください」


私の宝物なんだから。


「ははっ、桜のやつか。懐かしいなー」


おじいちゃんは表情を綻ばせて笑顔になった。真ん中の隣の前歯が一本欠けているのが見えた。


「何言ってるんですか? 返して下さい」

 

おじいちゃんは私の目を覗き込み、一息ついてから言った。


「奈美。これ、オレだから。奈美はそんなにオレのこと好きだったかー」


はっ……? 

何言ってんだ、このジジイは。

大笑いしながら、馴れ馴れしくベッドの端に座ってきやがった。


「ち、ちょっと、何なんですか? さっちゃん、この人こわい。看護師さん呼んできてー」


「お母さん、ごめん。私さっちゃんじゃないよ。それに、この人お父さんじゃん。それに元トッキーだし」


はぁ?? この人達は何言ってるんだ?


窓の外はもう真っ暗だった。


窓ガラスに映った髪が真っ白のおばあちゃんがこっちを見ていた。


「誰……?」






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推しの力は偉大なり 海乃マリー @invisible-world

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