夢よ、散る花の如く

はーさん

第1話 すべての始まり

 『誰か……』


 女性の声が聞こえる、


 『誰か、たすけて……』


 切なく祈る声、


 『誰でもいい……この世界を、』


 …………


 『世界を、』



 救って!




 パッとアネモネは起き上がる、


 なんかとてつもない恐ろしい夢を見た気がする。


 首をふるふると振って、息を整える。


 窓の外を見るとまだ太陽の光も届いていない深夜のようだ。

 こんな時間に起きても仕方ないから、再び暖かい布団に潜る。


 

 この世界はみんな6歳になると、

 神殿に行き、自分が得られたスキルを確認するのだ。


 それは神の像に謎の文字で浮かび、本人にしか読めないらしいが、

 アネモネは緊張のあまり、最初の夢という字しか読めなかった。


 三文字だったのが覚えていたから、みんなからきっと[夢予知]だろう!

 と言われたので、偉大なスキルを得られたと喜んだのも束の間だった。



 横たわりながら、アネモネは自分の手を眺める、

 そしてため息をつく。


 最初はみんなから期待されてた、

 こんな小さな村から予知者が現れたのだから。


 しかし実際アネモネが予知したものはというと、


 今日商人がやってきて、誰かさんがこんな服を買った……とか、

 そこの家の花瓶が朝に風に揺られ、落ちて砕ける……とか、

 あっちの農家のあの鶏が卵を産む……とか、

 誰かさんの息子が転んで怪我をする……とか、


 本当に大したことのない予知だった、

 あまりにも日常的なもので次第に村人たちは彼女に失望をし、関わることはなかった。



 ……でも不思議なことに、

 彼女が予知したものは、例え事前にその予知を伝えても'必ず'実現するのだ。


 そんなことを考えながら目を閉じた。




 眩しい光が瞼越しに感じて、目を開ける。


 「……今日は予知はなし。」


 変な夢見た気がするが、それもすでに内容が薄れ忘れつつあった。


 誰もいない家の中をボーッと数分だけ眺めて、そっと布団をめくり立ち上がる。


 「うーん、いい天気……!」


 窓から見える空は青空、


 「今日も頑張ろう!」


 私は静かに気合いを入れる、

 ……昨日や一昨日、そのさらに前のように。


 朝ごはんを作り、

 

 「贅沢は出来ないから、今日も目玉焼きかな……」


 呟きながら、フライパンに卵を叩き割って入れる。


 「ふふ、今日こそ綺麗な両面焼きを作るんだ!」


 慎重に木べらを入れ、そして……


 「ふんっ!」


 と卵をひっくり返しその様子を見守る、


 「卵黄漏れてない……上手くいったかも!」


 チラッと卵黄の方を見ると綺麗に焼けてる様子だった。


 「よし!食べよう!」


 パンに乗せた目玉焼きに塩コショウを撒き、黙々と食べる。

 誰もいない食卓を見て少しだけ気分が落ち込む。


 「……畑に行こう。」


 私が住んでる村は本当に小さな村だった、

 ほとんどの人は農業や牧場などをして生計をたててる。


 親も、家族もいない一人身の私は自分の畑を持つことはなく、

 近くに住む老夫婦の畑の手伝いをしていた。



 「おじいさん、おはようございます!」

 「おぉ……アネモネか、おはよう。」


 すでに畑で作業してるおじいさんを見て慌てて準備をする。


 「そんなに慌てなくていいぞ。」

 「いいえ!おじいさんに無理させられませんので!」

 「うふふ、いいのよ~おじいさんは畑が生き甲斐なのだから~」

 「おばあちゃん……でもおじいさんまた腰をやったらどうします?」


 収穫した野菜を洗いながらおばあちゃんは笑う、


 「それならそれでおじいさんの自業自得なのだから、気にしなくていいのよ~」


 おほほほっとおばあちゃんは笑うが、どこにも安心する要素がないから準備する手を加速させる。


 雑草を抜き、水をやり、収穫できる野菜を収穫していく。


 案外それらの作業をしていくと時間は過ぎるもので、

 すでに太陽は溶けた蝋のような色合いとなり、夕飯の香りが帰路を促す時間となっていた。


 「今日もありがとうね、アネモネ~」

 「いえいえ!こちらこそ野菜ありがとうございます!」


 頭を下げ、

 そして今日の給料と野菜を抱え家へと向かう、

 村人たちは私を見ることもなく避けて歩いていく、


 ……なぜなら私は予知しても、その運命から避けることの出来ない気味の悪い予知者だからだ。


 「(それなら聞かない方がいい、当たり前の結論だ。)」


 疲れからすぐに野菜などを地下室に置き、お風呂に入り、

 そしてベッドにもぐる。


 「(…………私は、なんで生まれてきたのだろう、)」


 ゆっくりと目元が熱くなるのを、天井を眺めて落ち着かせる。


「(スキルでやっとみんなの役にたてると思ったのに、結局こうだ……)」


 村のはみ出し者であることは変わらない。


 どうして……


 どうして……


 私はこうも、使えないのだろう……


 いつの間に眠ったのだろうか、いつものように夢を見る。

 ……はずだった。



 『あなた、あなた……』

 

 女性の声が聞こえる、


 「……私のことを、呼んでるの?」

 『ふふ……あなた以外に誰がいると言うの?』


 何重もベールの被った女性が可笑しそうに笑う。


 『……あたしはヨミエル、あなたはアネモネでしょう?』

 「どうして私の名前を……」

 『ふふふ、不思議なことではないわ?あたしはあなたの助言者よ。』


 思わず首を傾げる。


 「(助言者……?)」

 『あなたにアドバイスをするのだわ、……夢の予知あんまり出来てないのでしょう?』

 「……!なんで考えてることを?!というより、なぜその悩みも……」


 ベールで隠れていようが、その裏で笑ってるのがわかる。


 『そりゃ、あたしはあなたの助言者だからよ?』

 「助言者ってそんなに凄いものなの?」


 正直とても疑わしいものだった、


 『ふふふ、疑ってても構わないわ?でもその小さな脳ミソでよく考えてみて、みんなの役にたたないままでいいの?』

 「……!」


 私が息を飲んだのを見守ってから彼女、ヨミエルは続ける。


 『アネモネ、いいかい?』


 ……なぜか彼女が緊張してるように思えた、



 『旅に出るのよ、世界を……救う旅をね。』

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夢よ、散る花の如く はーさん @Fran9875

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