治安維持隊結成秘話 上

当時、ワシは絶望していた。


忘れもしない。


第5次世界大戦。


宣戦布告もなく空襲を受けた。


妻は死に、残されたのは息子一人。


言葉通り、伝家の宝刀をもって、


ワシは戦った。


大戦中だというのに貿易は止まらず、


おかげで貨物船に乗り込み密航することができた。


着いた先は空襲を行った敵国だった。


ワシはそのままその国の首脳のもとまで行った。


当時は能力なんてものはなかった。


弾丸の嵐。そんな中をワシは進んだ。


その時は気にしなかったが、本来、弾丸は貫通するものらしい。


邪魔をするものはすべて叩き切った。


門番も、特殊合金で作られた扉も、首脳から差し向けられた刺客も全て。


最後には首脳も切った。切り殺した。


ヘリコプターで逃げられたが、刀を振るった。


不思議なことに届かないはずなのに、


当たっていないはずなのに手ごたえがあった。


無事、復讐を果たし、帰国した。


だが、帰ったら息子はいなかった。


不幸はそれだけにとどまらず、


ワシが戦っている様子が世界中に拡散してしまったようで、


世界各国から刺客が送られた。


切って、赴いて、切って


そんなことを繰り返していくうちに、


世界から国は消えた。


一つに統合されたのだ。


途中でワシのように不思議な力を使う者もおった。


火炎を操るだの、時を止めるだの、不死身だの


とにかく大勢の有象無象どもの相手を相手をした。


火炎ごと真っ二つにした。


時止めも攻撃の瞬間を気配で察知して叩き切った。


相手が能力を解除するまで切り続けた。


そんなワシを人は英雄と呼んだ。


ワシはただ虚しかった。


いらない名声だけが積もっていって、


大切な家族を守れなかった自分を滑稽に思った。


肉体は老けてくれず。


時間だけが過ぎていった。


ワシは町をさまよっていた。


すると何やら西洋風の服装の女がやってきて耳元でつぶやいた。


「いいアプローチね。参考にするわ。」


振り返ってもそこに女はいなかった。


それからまた何か月後のある日


ワシが散歩しているときだった。


少年がワシから財布を盗んでいったのだ。


正直くれてやってもよかった。


だが、何か運命のようなものを感じたのだ。


周りに人がいないことを確認し


「ふー。」


息を吐いて腰を落とし、腰に腕を引きつけ


「はぁ!!」


正拳突きを放つ。を込めて。


ワシは確かに放った。少年に命中するはずだった。


しかし気が付けばワシの正拳突きは外れていて。


「悪いなおっちゃん。あばよ。」


その日は逃げられた。


それからも何度か少年に出会った。


それで確信に至った。


「少年、お前も何か不思議なを持っているな。」


「だったらなんだよ。」


少年は素直に答えてくれた。


「なら一つ提案がある。」


「条件次第で聴いてやる。」


「ワシと一緒に来ないか?」


これがワシ以外知らない、治安維持隊隊員_くれない れんとの出会いだった。

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