第16話 小部屋 3

「お察しの通り、映像に出ていた男は、ここ最近のあなたをモデルに作られたキャラクターです。ご自身の危険運転と、飲食店での振る舞いを、他者の視点から見ていただきましたが、いかがでしたか」


「それよりも、このヘルメットは取ってくれないのか」

「ええ、それは、嘘発見器も兼ねているので、もう少しそのままにしておいてください」

嘘発見器と聞いて、財満は嫌そうな顔をした。


「それで、どうでしたか」

「……確かに、客観的に見れば、少しやり過ぎたかもしれない。今、思い出したけど、車の件はレストランに行く途中のことだったかな。あれの原因は向こうにもあるんです。交差点でもう少し待ってオレの車を先に行かせてくれたら、何の問題もなかったわけだし、レストランでは事前に料理の説明があれば、ああはならなかった。カフェでも言い方はきつかったかもしれないが、フードロスの観点から見れば、考え方自体は間違っていない。もう少し、みんながちゃんと他人のことを考えて動けば、オレだってあんな振る舞いはしなかったと思いますよ」


「なるほど。あなたの言い分はよく分かりました」

売布宮は財満の話を聞きながら、手元の情報端末の画面に目を向けた。情報端末では、なにかをリアルタイムで計測しているようで、表示された数値が頻繁に上下している。おそらく、測定された脳の活動状況を解析しているのだろう。


「あなたの発言や脳から測定した更生スコアは、どうやら基準値を大きく超えているようですね」

「どういうことですか」

「残念ですが、あなたはこれから更生所に入り、ざっと十年ほどそこで生活してもらいます」

「なんでだよ」

「法律で決められているからです」

「ふざけるな。絶対そんなところ行かないからな。帰らせてもらうぞ」

「それはできません」


財満は部屋の外に出ようとしたが、売布宮が手でそれを制止する。激高した財満は、売布宮の手を払いのけようとしたが、簡単に組み伏せられて床に膝をついた。売布宮は中肉中背だが、意外に腕っ節が強い。


「いてぇ」

財満の苦悶の声が合図になり、ドアの外で待機していたらしい男たちが入ってきて、両脇から財満を抱えて立たせた。


「更生所は外出できない点を除けば、比較的自由で、そんなに悪いところでもありません。住めば都と言いますし、慣れれば不自由しないでしょう。さあ、まずは入所の手続きを始めましょうか」

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