第11話 安藤の自室

安藤は、自分にそっくりのアンドロイド、といっても十年も前に作られた代物なので、実際の彼よりはかなり若く見えるアンドロイドのアバターを自室に戻した。アバターが持ち帰ったレストランの食事とカフェインレスコーヒーをダイニングテーブルに広げた。どれも冷めていたので、レンジで温める。


いつもフードストアの惣菜や弁当ばかりなので、久しぶりに食べるまともな食事だ。持ち帰ったコース料理を食べながら、今日の出来事を反芻した。


十年前のオレも、はたから見れば今日の財満のように見えていたのだろうか。あの頃のことを思い出すと後悔や恥ずかしさでいっぱいになる。そんな気持ちでも、レストランの料理はうまかった。


長かった十年間の更生期間も今月末には終わり、はれてこの更生所から出ることができる。もしかすると、自分が出て行ったあとの部屋に財満が入ることになるかもしれない。

改めて十年間を過ごした更生所の部屋を見回す。四〇平米のフローリングの部屋に、備え付けのベッドとトレーニング器具が置かれ、隅には小さいながらもキッチンと窓がある。浴槽とトイレは別になっていて、外出できないという点を除けば、比較的快適な物件だった。


デスクの上には、アバターの操作端末であるヘッドマウントディスプレイ(HMD)が置かれている。HMDを頭に被れば、アバターのカメラに接続されて、アバターの見ている景色が視界いっぱいに映し出される。このHMDには、脳波を読み取る装置やfMRIが内蔵され、それがアバターを制御するための入力インターフェースにもなっている。なので、考えるだけで自分の身体と同じように即座にアバターを動かすことができる。


アバターを操作するのに、特殊な操作技量や専門的な知識は一切不要だが、操作に慣れるまでには三日ほどかかった。けれども今では箸で豆をつまんで別の皿に移すことも難なくできる。なんとなく軍事用の装備かと思っていたが、売布宮が言うように、確かにこれなら四肢が不自由でも問題なく社会活動ができるので、福祉目的で開発されたというのは納得できる。


アバターを自分の身体のように操り、アンドロイドを介して来る日も来る日も食品会社の製造ラインで惣菜を容器に詰める。その十年を思い出す。果たしてオレの中で何が変わったのだろうか。

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