花崎つつじの備忘録

花崎つつじ

「夢の番人の招待状」(部活原稿)

 ようこそ、◯高文芸部へ。私は鈴原牡丹。よろしく。

さっそくだけど、新入生説明会といこうか。座っ…あーまぁまぁ、そう固くならないで。気軽に牡丹センパイって呼んで!

飴いる?あぁいらない?えっ甘いもの苦手?そう…じゃぁ食べちゃうね

…◯高文芸部はね、けっこうゆるいのよ。毎週金曜、みんなで三題噺とかリレー小説とか、創作に役立ちそうなゲームしたりする。夏になったら顧問がコンテストのチラシくれるくらいで、部活全体で何か目指すものが決まってたりはしないよ。まぁー強いて言うなら、豊かな創作ライフを、かな〜。

 あー、興味なさそう...

あぁちがうちがうちがう怒ってない、怒ってないよほんとに!

なんかさー、声が低いのと目付きのせいで不機嫌に見えるらしいけど、私意外とおちゃめでうるさいよ。自分で言うのもなんだけど。あはは!

 あー…スンマセン。じゃぁ本題に、入ろうか。

ご存知とは思うけど、私たち文芸部はあの扉の中でみんなの夢を守る役目をずっと担ってきたんだ。ずっとって言っても、ここ20年くらいの話だけどねー。

そう、今の君には見えているね?教室の後ろのあの青い扉。みんなすずめの戸締まりみたいって言うんだけど、君は言わなかったね...えっすずめ知らない?!まじ?!今度一緒に見よ!!金ロー録画したから!うちおいでよ!!あぁそれはきまづいよねごめん

えーと...あの扉の話よね、うーん...そうだなぁ…なんて言おうかなぁ…

 いや、とにかく話した方が早いね。


 扉の向こう、物語の世界。その一角のある街に、金持ちになることを夢見る男がいた。男は、人の夢を売る商人だった。男はこちら側の住人に目をつけ、夢の中に土足で入り込み、夢の核を持ち去る。夢を見れない、物語の国の住人に高値で売り捌いた。男は金持ちになる夢を叶えた。少し仕事をすれば大量の金が手に入る生活に男は取り憑かれ、夢を刈り取っては売る生活を何年も続けた。

 夢の核を奪われた人は皆例外なく悪夢に苛まれる。無理やり夢を奪い取られ、脳に空白ができてしまうため、バグが生じ、悪夢に怯え、不眠になり、そして…。

 でも、男の生活にもやがて終わりが来る。物語の世界で金の亡者と呼ばれ嫌われた男は顧客に刺し殺された。男は嘆いた。甘美な夢が離れていくその感覚に吐き気を催した。

 強い感情で、男は怨霊になった。

怨霊は二つの世界に呪いを残した。片方には、『夢依存』という病を、もう片方には、夢の核を自ら落としてしまう呪いを。

 そうして、商人がいなくなった後も、二つの世界の間には深い深い怨恨が残り続けた…。


 二つの世界を繋ぐ、青い扉。それは、夢を見続け、夢に魅入られた物語好きの人にしか見えない魔法の扉。扉が閉じきるまで、呪いが消えるまで。夢を落っことした不幸な人のために、己が愛する世界のために。正義のヒーローが立ち上がるのは時間の問題だった。


 …そんなこんなで、訳知りのセンセイ達は皆口を揃えて私たち文芸部員を【夢の番人】と呼ぶ。あなたの担任も知ってると思うよ?あぁいや、まぁ、知らんけど。

あの先は物語の世界、甘い夢を渇望する人々が住んでる。

扉に魅入られた私たち文芸部員の役割は、あの世界で新しい物語を代価に夢を買い戻してこの世界に戻すこと。

 さてと

 扉の先はどうなってるか、知りたくない?

そうだよね!ワクワクするよね!物語好きとしては放っておけないよね!!

いいねその顔、青春って感じ。初々しくて、私も初心に帰れる。懐かしいな...

…じゃ、早速行こうか。ルーズリーフは私があげるよ。

お気に入りのペンはある?私はね〜、この万年筆。先輩から受け継いだんだ〜かっこいいっしょ。

お、それ?…待て、結構いいボールペンじゃん!カラーめっちゃかわちい!!

親友と?へぇ〜オソロなんだ!エモ。

 なるほどね

 君はその子を助けたいんだねぇ。

おっ、当たり?へっへっへ、顔に書いてあるよ〜?

しかしここの存在を聞き付けて友達のために入学するなんて大した度胸だ。愛情?ふふ、分かるよ。

え?だーいじょうぶ!怖くないよ!

って言っても最初はなんだって全部怖いよね。

手繋ご。私は頼りない先輩だけど、まぁマシっしょ。ゆったり、新しいクラスの話でもしながら行こう?今日来てない私の同期の話もさせてほしいし、あ、今までの冒険のことも!

 

 急ぐ必要はない。物語の世界はいつでも、私たちのために開かれているんだから。

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