残響の体育館

佐原マカ

残響の体育館

 反響する広い空間で。

 言葉を発すると音になって帰って来る。


 静かに佇む空間で。

 朝の集会が嘘みたいになる。


 小中学生の時、仲の良かった友達とは何時の間にか疎遠になってしまった。

 別に仲が悪くなった訳じゃない。

 只、会う機会が減って何と無く距離が出来てしまっただけだ。

 向こうもその事には気づいていてその事実を了承しているのかもしれないけど。

 こうやって関係が薄くなっていくのがなんだか寂しい。


 そんな自分の感情を他人に伝える時は言葉が必要だ。

 だけど言葉に出来ない感情は上手く伝わらない。

 伝えたい感情を言葉に強引に押し込むと、本来の感情から懸け離れてしまう。

 其れが厭で有りの儘を伝えたくて私は何時も比喩を沢山用いて話すから。

 相手の言葉が返ってこない。


 だから私は此処に居る。

 耳を澄ますとぼんやり聞こえる。

 どんなに曖昧な言葉を零しても体育館は丁寧な音で返してくれる。

 この場所での発言は全部私のもので。

 私の為にやっていい場所で。

 私に向けて云うようなもので。

 此処は私の感情の居場所なんだ。

 だから発する言葉に上手さはいらない。

 寧ろ上手じゃない方がいい。

 そんな体育館が好きだ。

 

 チャイムが聞こえる。

 舞台によじ登ってその脇にある扉から外出する。

 扉に木の枝を挟んでおく。

 茂みを掻き分け、砂路を歩いてそっと振り返る。

 所々剥げた赤い屋根の体育館は、私の曖昧な感情は。

 確かに此処にあった。

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残響の体育館 佐原マカ @maka90402

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