【架空の日記】話しかけんな、ブス

タライ

【架空の日記】話しかけんな、ブス

話しかけんな、ブス


学校に、岩みたいな顔した女の子がいる。今日、僕はその子にブスって言ってしまった。話しかけんな、ブスって。


ほとんどの男子が彼女に意地悪をしていて、ブスとか菌とか言っている。傍から見るといじめなんだけど、女の子たちからも距離を置かれていて友達がいないっぽいその子は、みんなのいじわるな気持ちに気付いるはずなのに、無視されるよりは嬉しそうだった。


でも今日の僕のブスと、みんなのブスは多分違う。





その子はいつも図書室にいる。教室よりも過ごしやすいのは僕も同意だ。エアコンが聞いていて涼しいし、いつから敷かれているのかわからない色褪せたカーペットに寝っ転がってだべっているのが心地良い。しかも、図書館の先生は優しいしひいきしてくれるから良いことしかない。


だからその子もいるんだけど、自分が傷つけられるのをわかっていながら、僕たちの集団に話しかけてきたり、側によってきたりする。喋ることがなくなったら、誰かがその子にちょっかいを出して、その子も嬉しそうにリアクションしたり、いじったやつを一発殴ろうとして追いかけっ子が始まったり。それを見ているのは楽しい。


心が痛いような気もするけど、何よりもみんな楽しそうだからだ。その子もいないことにされるよりはマシみたいだし、散々いじられてきたからか、その子のいじられ方が上手で意外と笑えるから。ちょっと寂しい関係だけど、辛くない逞しさがあるならそれでいいと思った。





みんなが部活に行く放課後、図書室は静かだ。僕は、家に帰る前に読書をしたり、図書館の先生とお喋りしに行ってる。その子は、家族にいろいろあるみたいでたまに来たり、すぐ帰ったりする準レギュラーだ。


別に特別仲良くしたいわけでもないけど、無視したり、いじりたいわけでもないから話しかけられたら会話する。最近読んだ本や、読んでおいたほうが良い本なんかをよく尋ねられて、答えてるけど、一切手に取っている様子はない。


図書館の先生は「あんたは優しくて良いね〜、好きになっちゃうんじゃない?」とニヤニヤしていて、これだからおばさんは嫌だなとちょっと思う。というか先生のせいだ。


今日はすごく暑かった。珍しく放課後の図書室は混んでいて、僕はみんなとだべっていた。そしたら、準レギュラーがやってきていつものように僕に「今日はなによんでんの?」と聞いてきた。クラスメイトの前だから、僕は本の表紙だけをサッと見せて、やり過ごそうとした。


でも、「いつもみたいに紹介しないの? 寂しそうだよ〜」とおばさんがちょっかい出してきた。キモかった。死ねって思った。みんなの注目が僕に集まって、先生のニヤニヤ顔が頭に浮かんできて、「どんな話なの?」とその子に言われた時、「話しかけんな、ブス」って口から出ていた。


久しぶりに大きな声を出したから、変な声だったと思うし、汗かいていたし、とにかく恥ずかしかった。


その子は見たことない顔してた。いつもは、笑って嬉しそうにするくせに。僕の悪口の時だけ違う顔してた。少し間があって、みんないつも通りの空気になっていたけど、僕とその子は違う。もう昨日みたいには戻れないと思う。

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