第2話

暫くの間は、いつも通り気に入らない門派を滅ぼしたり、邪魔をしてきた邪龍門の奴らを蹴散らしたりして過ごした。


邪龍門は、深淵の月陽派(正統派の者の言う魔教)のライバル的な存在で、いつも深淵の邪魔をする生けすかない奴らだ。


しかし、邪龍門の教主の力は、深淵と同格の為、なかなか手出しが難しいのだ。


極魔の境地に、到達してからというもの、血にぬれた毎日に、いささか飽きてきた。

不思議な、記憶を追体験したせいだろうか?


深淵は、悩んだ末、変装して四大正家に名を連ねる青雲派に潜り込んでみることにした。


正派の奴らは、大嫌いだが、宗主との二重生活も面白そうだ。

なにより、奴らの情報を手に入れる事も出来る。


深淵は、一度物事を決めてしまえば、迷うことなく行動する男だ。

すぐに、部下で影武者でもある君英明(くんえいめい)を呼びつけた。


深淵の計画を聞いた君英明は、驚いたものの、この主がいつも唐突な行動を起こすのに慣れていた。

また、絶対に考えを変えない頑固者だとも知っていたので、素直に主の命令に従った。


深淵と君英明は、見た目は違うものの、背格好も良く似ており、声も似せる事ができた。

いつも、深淵が彼を影武者として使っているのはその為だ。

顔を隠せば、深淵と見分けがつかない。


面倒を部下に押し付けた、深淵は意気揚々と月陽派のある山を下り、青雲派に潜り込むべく青雲派のお膝元、鎮輪ちんりんの町に潜り込んだ。


そして、弟子の募集時期になると、実力を認められ、見事弟子入りする事に成功した。


魔巧は、封印していたので、一から正派の武功を学び、めきめきと頭角を表していった。

青雲派の弟子に化けているときは、白碧安の平凡で優しい性格を真似してみた。

意外な事に、妙にしっくりきて、さほど苦労なく弟子として溶け込む事ができた。


それから、数十年深淵は青雲派の一員として活躍した。

青雲派として得た情報を使い、魔教の被害を最小限に抑えたり、勢力を拡大したりと、宗主としての仕事にも余念がなかった。


今のところ、怪しまれる事なく、二重生活を楽しんでいる。

白碧安の記憶は、きっと自分の前世の記憶なのだろうと、気付いてからは、徐々に人格の境目がなくなり、スイッチを切り替えるように、残忍な魔教の宗主と優しい青雲派の弟子の自分を切り替える事が出来るようになった。



さらに、時は立ち、深淵は幽青剣ゆうせいけんと呼ばれるようになった。

彼の剣光は青く輝き、太刀筋の読めない剣技はさながら幽霊のようで、相手を惑わすからだ。

もちろん、魔教での彼の太刀筋は、まったく別物で、もっと獰猛なものだが、深淵は2つの剣を上手く使い分けていた。


深淵は、青雲派では、境地を偽り絶頂の境地に達したように見せかけた。

そして、その頃に遊歴の旅に出ることにした。

そろそろ、二重生活にも飽きて、新しい刺激が欲しくなったのだ。


諸国を巡り歩き、正義を重んじるふりをして、色々な人々を助けた。

その間に、魔尊として、敵対する宗派を滅ぼしたりもしていたのだから、面の皮が厚すぎる。


ある時、貧しい村を訪れた。

そこは、少し前に魔教の襲撃にあい、若い男は死に、子供や女、年寄りは、ひどい怪我をしたり、病に掛かったりしていた。

深淵は、少なくてもそんな村を滅ぼすように、部下に命令した事はなかった。

まったく、心当たりはなかったが、たいして気に止めなかった。

何時ものように、良い仙師のふりをして、村人のケガを治療したり、食料を分け与えたりしていると、一人の少年に出会った。


彼の両親は、二人とも魔教を名乗る者のに殺され、幼い弟は、病で死んでしまったばかりだった。

深淵は、その深い恨みのこもった目をみて、彼の事を気に入った。


そして、少年を弟子にする事にした。


まさか、自分のその選択が、運命を大きく変える事になるとは、思いもよらなかった。



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悪役魔尊様、前世の記憶を思い出す。 青色絵の具 @Mana2023

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