第4話 だるま花嫁様と風習


翌日。

俺はいろいろと気持ち悪さを感じながら爺ちゃんの部屋に向かった。


「よくきたな、シュウヤ。質問にはもちろん答えよう」

「昨日言ってた、だるま花嫁様ってなに?」

「身代わりとか、人柱ってやつさ」


そう言うと爺ちゃんは語り始めた。


「幸せというのは誰かの犠牲で成り立っているという話を聞いたことがないか?」

「まぁ」

「我々はあの考えを本当のことだと信じている。そこで逆説的に考えた。誰かを不幸にすれば自分たちは幸せになれるのではないか、と」


(ゲスいなぁ、考え方)


「だが、誰かを不幸にすると言っても他の人間ではかわいそうだ。だから我々は作ったんだよ。不幸にしていい存在を。それがあの人形だるま花嫁様ってわけさ。人形にはなにをしても許される。これがこの【厄祓い】のすべてだ」


「……へぇ」


聞いてるのがなんだか悲しくなってきた。


大体のことは分かってきた。


要するに人形を不幸にすれば、自分たちが幸せになれると考えてるわけだ。


「思い込みもいいところだな」


俺はそう呟くと爺ちゃんに言った。


「初めから知ってたら関わらなかったのに」

「許せよ、シュウヤ。この儀式を行うにあたって必要な事があってな。本当のことを知らない人間に婿役をやらせる必要があったのだ」


「悪趣味も過ぎるよ」


そう言うと爺ちゃんに続けて聞くことにした。


「最後一週間人形に名前を付けてた理由は?」

「名前を呼び続ければ人形には神が宿ると信じられていたからだ。実際に今までのだるま花嫁様も意思があった。今回みたいに、な」

「なるほどね」


俺は爺ちゃんに背を向けて言った。


「悪趣味過ぎるよ。正直言って胸糞だ」


こうして俺のひと夏のホラー体験が終わった。



それから時間が流れて高校生になった俺は昔のことを思い出しながら、母親に連れられてあの山奥の家に向かっていた。


「おう、シュウヤ。久しぶり」


爺ちゃんが出迎えてくれた。


俺は本題だけ話すことにした。


「彩花を引取りに来たよ。治してくれたんだろ?」

「もちろん。あの時のように治したよ」


爺ちゃんもかなり歳なようでいつ死んでもおかしくないとの話だったので俺は前もって爺ちゃんに頼んでた。


彩花を治してくれって。


いつか引取りにいくからって。それで代わりに供養するからって。


それで今日引取りに来た。


正直いうと俺は一目見た時から彩花に心を奪われていたんだと思う。


あの時からあの子の顔が染み付いて離れない。


それほどまでに造形は素晴らしく、見ていて飽きない容姿だった。


家の中にある蔵に向かうと、あの時のように彩花が椅子に座っていた。


もちろん、体は動かない。


でもそれでいい。

人形だから。


「んじゃ、この子連れていくよ」

「気をつけてな」


俺は爺ちゃんにそう言われて彩花を連れていくことにした。


彩花を後部座席に連れて俺も乗り込むと母さんは車を動かそうとした時だった。


車の振動だろうか?


彩花の手が動いて俺の手に当たった。


「びびったぁ〜」


そう思って彩花の方を向くと彩花がこっちを見ていた。


そして、首を傾げて、口を開閉させた。


「待ってたよシュウヤくん10年くらい。迎えに来てくれてありがとう♡」


俺と母さんと爺ちゃんと顔を合わせて、そして同時に叫んだ。


「「「はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ?!!!!!」」」


それから彩花は爺ちゃんを見て中指立ててた。


「お前はとっとと寿命で安らかに死んでね☆」





☆おわり☆




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