第41話 弱くてニューゲーム

状況開始ステータス・オープン!」

状況開始ステータス・オープン。」


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-テレパスリンケージ接続成功

-疑似コアユニット正常起動

-クオリア同調率:89.3%

-ステータスチェック:全項目クリア


--レプリカント:HAL-777ラッキーセブン

---メインシステム:探査モードに移行します

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 やはり、いつもの筐体より同調率が低い。

 チューニングにかけられる時間が無かったのでやむを得ないが、体の動きが固く感じる。


『ごめんね、配信で話せない事に付き合わせちゃって。』

『どういたしまして。パパっと終わらせちゃお。』


 私とイヴ、お嬢様とボルヘス様は、現在協会支部から借り受けた探査用筐体でボーパール・ダンジョンのエントランスを降下している。


 納品トロッコは使用不可だった。

 ガス漏れを防ぐために目張りされている上、どうも奥の方の線路に原因不明の不具合が発生しているらしい。


 私とイヴの仮宿は、いずれも中量フレームで、脚部は順関節タイプしか無かった。

 私は重さが、イヴは足回りが、いつもとは異なる条件だ。


 そして何より内装パーツが酷い。

 なんだこのハナクソみたいな出力のジェネレーター。

 魔力センサーだけは妙に高性能だけど、地元企業の製品か?


 流石に事が事なので、今回は身バレ回避の為に配信は無しだ。

 一応ボルヘス様が社長に確認を取ったとの事だが、あのお方自身これを配信に載せられるとは、最初から思っていなかっただろう。


「…いささか動きづらいな。イヴ殿は何か不自由はありませんか?」

「問題ない。貴機との協働はやりやすい。」


 いや、流石に脚の向きが違うのは協働相手でどうにかなる問題ではないと思うが。

 とは言えイヴの戦術は狙撃が中心だ。

 ひょっとすると、機動力の変化による影響が私よりは小さいのかも知れない。


『着底した。ヒーちゃん、前衛お願い。』

『あいよー。ハル、巡航ブーストで原速前進。浮きすぎないようにね。』


 ボーパールの浅層部分はハイデラバード以上に天井が低いため、深度100辺りまでは飛ばずに徒歩と滑走で移動する事になる。

 お嬢様のブースト捌きの見せ所だ。


 私は腕部固定式の実体シールドと実体ヒートブレード、イヴは狙撃用のジェネレーター直結式投術杖ブラスターを構えて慎重に進んだ。

 前時代的な装備だが、致し方ない。


「前方に敵影1。備えよ。」

「んん?私のレーダーには何も映っていませんが…」


 いや、ほんとに。

 マジでなんも見えない。

 自分が何か見落としてるのかと思いきや、イヴは狙撃用のスコープを覗き込んでいる。

 

 どうやら借りた筐体の索敵性能が低すぎて、目視確認の方が早くなってしまったらしい。

 うっそだろおい。


『やりっっっ辛!ハル、白兵戦。飛び道具がないから、シールド起点でね。』

「承知いたしました。」


 レフトショルダーユニット起動。

…ん?

 あ、そうだ!シールドは肩じゃなくて、左腕部固定式だった!

 あーもう!めんどくさい!


 あわてて左腕を突き出し、勢いよく突進して来た緑色の塊を弾き返す。

 四足歩行のシルエットは犬のようだが、頭部が花の蕾になっている奇怪な生き物だ。

 これが生体ガーディアンか?


『バーゲストタイプだね。弱いけど、長引くと強力な攻撃を仕掛けてくるから手早く倒して。』


 バーゲストと言うのか。

 なんだか分からんが、頭部の花を開かせてはまずい気がする。

 この体の魔力センサーがアラートを出しているのか。

 

 無駄にデカくて重い実体シールドを構えながら、敵の空振りを誘う。

 ええい!視界が遮られて見づらい!


「てけり・り」


 来た!

 鋭い爪の一撃をシールドで防ぐ。

 爪はケラチン質でなく石灰質なのか、思いのほか硬質な感触だった。


 シールドは扱いづらいが、物理的な重さのおかげで防御性能は存外悪くない。

 悲しい良かった探しだ。


 硬い板に前足を打ち付け、動きが止まったバーゲストの首筋に、右手のヒートブレードを叩き込む。

 こうやって交互に出番を回しながら戦っていると、まるでボードゲームでもしているような気分になる。


…って、あれ?


「てけり・り?」

「へっ?斬れない!?」


 いや、厳密には斬れていないわけでない。

 刃と敵の接触面から湯気があがり、表皮組織を破壊できている感触はある。


 あるが、そこまでだ。

 あまりにも威力が足りていない。

 ひょっとして、ジェネレーター出力が低すぎて、仕様通りの威力が出ていないのか?


『それもあるけど、実体ブレードだから温度が上がりきるまでにラグがあるの!イヴ、チャージ終わった?』

「は、いつでも。」


 は?なにそれ、ふざけてる

 電磁クローが一瞬で温まるから、すっかり同じ感覚でいたが、ブレードってそうなのか。


 ボルヘス様が言外に私の出番の終わりを告げたので、バーゲストを蹴って体幹を崩しつつ、イヴの射線上から離れる。


 一拍遅れて、イヴの持つブラスターから超低温の風が吹き出した。

 風はバーゲストを呑み込み、瞬く間に凍結させて行く。


『ヒーちゃん!花の部分を叩き落として!』

『わかった!頭の代わりに付いてるやつね!』

 

 パルスブースト起動!

 うーん、遅い!

 我ながらあくびが出そうなスットロい速度で、硬直した敵機…もとい、敵性生命体に詰め寄り、ヒート改め湯たんぽブレードで凍った首を叩き折る。


『んがーっ!クソがッ!なんなんこの筐体!?誰が組んだの!?イライラして頭痒くなって来たんだけど!!!』


 お嬢様も吠え狂っておられる。

 気持ちは分かりますけど、多分それ通信越しに、この体を組んだ人たちにも聞こえてます。


 まあ、手際はともかく敵は排除完了だ。

 地面に落ちて砕けた花の中には、小さな透き通った黄金色の球体が収まっていた。

 なんじゃこりゃ?私たちのコアみたいな物か?


 『ハルちゃん、イヴ、お疲れ様。その玉には触らないで。あたしが想像してる通りの物なら、魔力機構に悪影響が出る可能性がある。』


 えっ、なにそれこわい。

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