第40話 恐怖!ダンジョンゾンビの怪!

 話をまとめるとこうだ。

 先史時代の化学工場跡であるボーパール・ダンジョンは、2000年前の大崩壊より以前に操業を停止していた形跡があり、その本来の機能は既に死んでいるはずだった。


 しかし、つい昨日この工場は突如として稼働を再開し、既に配管の破損箇所から有害なガスが漏れ始めているのだと言う。


 このまま放置していては住民に深刻な健康被害が及びかねないため、早急な生産ラインの停止が望まれるが、そのための知識や技術を持った者が、職員にも利用登録者にも居ないのだ。


「って事らしいんだけど、ヴィオちゃんどう思う?」


 流石にこうなっては顔見せどころではない。

 居ても立ってもいられなくなったお嬢様は、車内から念話通信を繋いで、この手のバイオケミカルに造詣の深い、ボルヘス様に意見を求めていた。


『ボーパールかぁ。確かあそこって先史時代末期の錬金薬プラントだったんだよね。壊れたんじゃなく、停止されてたわけだから、なにかの拍子に再起動しちゃう可能性はゼロじゃないと思う。』


 ボーパール・ダンジョン。

 調べてみると色々と特殊な場所のようだ。


 原料の調達から製品の製造まで、すべてが自動化されたプラントである点は他のダンジョンと同じなのだが、その原料の合成手段として、なんと施設内で魔法生物を培養し、それを用いていたらしい。


 その魔法生物は植物と動物の特性を併せ持っており、生まれ育ったダンジョンに対して縄張り意識を持つ事から、今日ではガーディアンの一種と見なされている。

 俗に言う生体ガーディアンと言うやつだ。


『多分だけど、人の手が入った時点で施設本体の機能は復旧してたんじゃないかな?主原料を生産するガーディアンが大量に間引かれて持ち出されてたから、今の今まで稼働を再開できずにいただけで。』


 それで、原料の蓄積が閾値を越えた瞬間、爆発的に反応が進んだと?

 なんとまあ厄介な、まるでダンジョンのゾンビだ。


 ボルヘス様の見解でも、この状況を打破するには、施設を安全に停止させるための電気工学と、ガーディアンに対処するための生命工学、両方の知識が必要になるとの事だった。


 B級までの探索者しか居ないこのボーパールでそれらを揃える為には、作業者とは別に各分野の専門家を招く必要があるため、どう急いでも2・3日ははかかってしまうだろう。


 その間に周辺住民の生命や財産が脅かされない保証はどこにもない。


「…そっか、流石に見て見ぬフリってわけには行かないよね。」

『ヒーちゃん潜るの?あたしは今日の配信もう終わったから、付き合えるよ。』


…まあ、やはりそうなるか。

 電子工学と生命工学、それぞれの知識を持った腕利きの探索者が1人ずつ、偶然にもここに居合わせている。


 長旅でお疲れのお嬢様にこれ以上のご無理を重ねて欲しくはないのだが、やめろと言って聞くお方ではない。

 これも巡り合わせと言うものだろうか。


「悪いね、ヴィオちゃん。そっちに引越したら何か奢るよ。」

『おー、言ったな?おいしい焼肉屋さん知ってるから、楽しみに待ってるよ〜』


 さて、やると決めた以上はサッサと取り掛かろう。

 早速、ダンジョン探索者協会ボーパール支部に連絡をとり、緊急ダンジョンアタックの提案と、探査用筐体の貸し出し申請をせねば。


 ああ、あとホテルにも連絡が必要だな。

 チェックインが遅くなるかもしれない。


 こちとら現在進行形で、地獄のデスマーチの真っ最中だと言うのに、まったく忙しい忙しい。


「気をつけてね、ハル。いつもの体と違うから、動きにくいと思うけど、頑張って。」


 お任せ下さい、お嬢様。

 ちょうど折よく、慣れない体を20時間ばかり転がしている最中です。

 まあ、なんとか上手くやりますよ。

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