渡る世間はダンジョンばかり

第37話 部屋とV活と私

『消毒!消毒!こん消毒ッ!モグライブ4期生、とーめんたーずの火炙り担当!炎城えんじょうホムラであります!諸君、松明は持ったな?』


:持ったどー!

:焼き討ちじゃあ!

:秩序のためにー!


 持ったどー!

 あ、失礼。

 私とお嬢様は今、作業のお供に炎城ホムラ様の配信を視聴しております。

 #ホムライブで拡散よろしく。


『えー、次のお便りであります。タンドリーハギスさん、ありがとー。「ホムラちゃんこんにちは」はいこんにちは。「ホムラちゃんは探索中どんな事でテンションが上がりますか…」』


炎城様の配信ネタは、意外にもダンジョン探索以外の比率が大きい。

 まあ、毎度毎度あの調子で獲物を焼き尽くしていたら破産しちゃうからね。

 

 恐らく、配信好きが高じて、稼ぐための探索と見せるための探索を分けてしまったクチなのだろう。

 探索好きが高じて布教のために配信を始めたお嬢様とは対照的だ。


『それでは次のコーナーやって行きましょう。本日はこのダンジョン産ハイパワー輪ゴム何本でスイカを爆発させられるか試してみたいと思いま〜す。』


 で、結局爆発させるんかい!

 そして口調!キャラ崩れてるし!


「くくっwww素のホムラちゃんって本当ギャップが凄いよねwww」

「ええ、まったく。ダンジョン配信での火狂いっぷりからは想像も付きませんね。」


 まあ、お嬢様はウケているので良し。

 その後も、スイカが変形したりヒビ割れたりする度に、炎城様がウホウホと興奮する様子が映し出される。


 この輪ゴムをかけているのもスタッフさんではなく、中身のレディア・ホーエンハイム様ご本人らしいのだが、今にも爆裂しそうなスイカを前に全く腰が引けていない。


 一体どんだけ爆発が好きなんだこの人は。

…あっ!


『おわぁーーーっ!!シャンプーが!シャンプーのボトルがーーー!?』


 わずか20本目にしてスイカが真っ二つに両断され、はめ込まれていた輪ゴムが全て風呂場のあちこちを跳ね回りながら飛び散った。


 そのあまりの威力に、お風呂場に置いてあったシャンプーのボトルが叩き壊されたらしい。

 大惨事だ。


「はっっっやwwwさすがダンジョン産www」

「あらららら、色んな物の破片があちこちに…後片付けの事を考えると、中々に勇気の要る配信ですね。」


 体張ってんなー

 これが配信者の闇か…

 しかし実際問題、同じ事がお嬢様に出来るかと言うと、答えはノーだ。


 今でさえ、ショボい防音ブースからお嬢様の絶叫が漏れまくるせいで、ご近所からの視線は大分冷たい。


 この上さらにお風呂場でスイカを爆発などさせた日には、大家さんによる自宅ダンジョンの攻略が実施される事は避けられないだろう。


「…私もこういう事できる部屋に引っ越した方がいいのかな?」


 ポツリとお嬢様が呟く。

 お嬢様の財産に関わる問題なので、一介の演算ゴーレムの身で無責任な事は言えないが、お嬢様が望まれるのであれば、それもアリなのではなかろうか?


「そうですね。一度ご同業の皆様に相談してみてはいかがでしょう?」


 はい、ザ・無難回答。

 しゃーないやろ。

 だって私お金の権限なんも持ってないから、他に言える事ないんだもん。


「事務所のみんなに?」

「配信ネタのためだけであれば、その都度場所を借りた方が安上がりかと存じます。仮に遠くに移るのでしたら、ハイデラバード協会窓口へのアクセスを捨てる事にもなりますので、それに見合うだけの配信業に対する明確なメリットが必要かと。」


 例えば、頻繁に同期オフコラボを行う予定があるのであれば、4期生同士で近くに集まるのも悪くないだろう。

 もしくは事務所に顔を出しやすいように、首都圏に部屋を借りるのも選択肢のひとつだ。


「うーん、メリットかぁ。色々思い付きはするけど、やっぱりお金の問題がねぇー」

「ま、最終的にはそこですよね。」


 ですよねー

 だから私も当たり障りない事しか言えないんだっつーの!

 まったく、このお嬢様め!

…ん、でもちょっと待てよ?


「と言うか、そもそも会社として補助制度などは無いのですか?一応タレント事務所ですし、防犯の面から考えても、完全放任とは思えないのですが…」


 私がふと沸いた疑問を口にすると、お嬢様はサッと顔色を変えて、キーボードをカタカタやり出した。

 おい、まさか…


「いっけね、大分前に案内来てたの忘れてた⭐︎」


 だからプリントは貰ったらすぐお母さんに見せなさいって、いつも言ってるでしょ!!!!

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