第9話 堪能

「そのステータスに刻まれた文字は神界しんかいのもの。であれば、貴方様が神の遣いであることに間違いはございません」


 司祭は長々とマックが神の遣いであることを力説してくれたが、側に居た彼以外の者たちはどうも飲み込めないようで。


「ええっと……僕は子どもですよ?」

「いいえ、間違いないのです」


 頑なに「普通ではない」を連呼する司祭。


「もし彼が本当に神の遣いだとして、教会としては放っておけないのではないか?」


 彼はよくぞ聞いてくれたと言うふうに手を叩くと「マクドウェル殿は神聖な存在であるから教会としては庇護下に置かなければならない」と教会での暮らしを勧めた。


「それは嫌です」

「なんとっ!!」


 二つ返事で断ったマック。

 それもそのはず。彼が中央都市に来た理由は実父の護送と、あとは観光が目的なのである。

 教会に入ってしまえばこれからの人生で苦労することはないが、自由は保証されない。そのことを説明したものの、司祭は「どうしても」と食い下がった。


「観光でしたら自由にしていただいて構いませんし、遠出も可能です」

「観光行くにもお付きの人が着いてくるんでしょ?」

「それは、まぁ……」


 神の遣いといえども、一〇歳の子どもにこうも悟られては何も言うことはできない。教会に入るのはあくまでもの立場であり、強制力は無いのだから。


「分かりました。ご意識は硬いようですので今回は諦めると致します。ですが、もしお気持ちが変わるようなことがあれば――」

「(変わら)ないです!」


 こういう事はあやふやにしておいてはならず、彼のようにきっぱりと断ることが大切だ。

 司祭はがっくりと肩を落とし、検閲所を後にした。


「とんだ災難だったね、マクドウェルくううぅん」

「あわわっ!」


 あわわ? 

 たわわの間違いではないのか。


 そんなこんなで足止めを食らっていたマックだったが、ようやくそれも解決し、大門おおもんをくぐることができた。


「ここが中央……母さんが見た景色か」


 村とは似ても似つかない大きな建物群と、陽が落ちた後にも目を引く煌びやかな装飾の数々。かつて若かりし頃に母が見た景色と同じものだったのだろうか。


「おぉい! こっちだ」


 声の方を見ると、イザベルと村から同行した騎士が大門の向こう側で手を振っていた。

 彼女らは時間が無いということで先にハリヴの身柄受け渡しを終え、マックが戻ってくるのを待っていたらしい。


「すみません、遅くなっちゃって」

「災難だったね。太尉殿から詳細は聞いている」

「とにかく、何事もなくて良かった」


 騎士の二人も心配してくれていたようだ。


「腹減ってるだろ? この二人が飯が美味いい宿屋を紹介してくれたから、さっさと行こうぜ」

「うん!」


 その宿屋は大門から少し離れた繁華街の近くにあった。近くといっても喧騒や変な輩がいるわけではなく、夜になれば騒音防止の結界が自動的に張られ、眠りを妨げる心配もない。


「いっただきまーす!」


 半日近く飲まず食わずだったので、マックの手は止まることを知らない。あっという間に出された食事を平らげた。


「美味しかったぁ」

「美味かったなぁ」

「ああ、ここの食事は絶品なんだよ」


「……ってか、お前らいつまでいんの?」

「「え?」」


 何故か頬を赤らめる屈強な騎士が二名。

 彼らは明らかに緊張しながら、


「いやぁ、イザベルさんと呑みたいなって」

「そ、そうさ。旅の疲れもあるだろうし、マクドウェル君は眠たいだろうしね」


 とイザベルを誘った。

 確かにイザベルは男勝りな性格とはいえ、容姿は整っているし、スタイルもかなり良い。だが、を幼いマックが分かるはずもなく――。


「じゃあ僕も一緒にいるよ! まだお酒は飲めないけどね」


 ギロリと睨まれるマック。

 一〇歳の子どもに何を「察しろ」という目を向けているのか。

 ポカンとするマックを見て、イザベルは彼らからの誘いを丁重にお断りした。


「「そ、そうだよな」」


 ハモる二人。


「悪いな。また機会があれば誘ってくれ」

「「はい……」」


 彼らもまたがっくりと肩を落とすと「じゃ、じゃあまたな」と言って夜の街へ消えて行った。


 まだまだ街を見たいマックだったが、もう夜も遅いので今日のところは就寝とあい成った。

 ところが――。


「なんで、同じ部屋?」

「いいじゃないか。アタシはお前みたいに小遣い貰ってるわけじゃないからな」


 イザベルは「削減だ、削減だ」と言い放つと、マックの前で着替え始めた。

 あの騎士たちには悪いが――なんて気持ちはマックには無い。


 絶対に無いさ……たぶん、ね。


「じゃ、また明日。おやすみー」

「お、おやすみなさいっ!」


 布団で自分を覆うようにして被ると、二人はフカフカのベッドで静かに眠った。


◇◇◇◇◇


「うん? ここは……」


 見たこともない天井。

 それはどこまで続き、まるで巨大な真っ白い板が空に浮かんでいるようだった。


「ほっほっほっ」


 どこからか声が聞こえる。

 男の人?

 でも、聞いたことのない声だ。


「ワシはここじゃよ。マクドウェル」

 

 振り向くと白鬚しろひげをモッサリと蓄えた老人がこちらに笑いかけている。


 なんで僕の名前を……っていうか、ここはどこ?


「ここは下界と神界の狭間じゃ」


 えっ、僕死んじゃったの!?


「安心せい生きておるよ。お前さんに会いたくて呼んだのじゃ」


 あなたは、もしかして神様?


「その通りじゃが、この世界の神ではなく、別の世界『地球』と呼ばれる世界の神なのじゃ」


 別の世界の……

 どうして僕に会いに来たの、ですか?


「敬語は不要じゃ。

 どうしてか、それはお前さんにに間違いがあっての。その修正に来たのだ」


 あっ、もしかして今日僕が検閲所で司祭様に言われていた『神の遣いである証拠』のこと?!


「そうじゃ、そうじゃ。迷惑をかけてすまなかったのう」


 別に良いけど、確か司祭様は「神界の言葉」とか言ってたような。


「ふむ。それは少し違うのう。

 それは『日本語』と言ってな、ワシの世界にある言葉のひとつなのじゃ」


 ニッポンゴ……そんなのがあるんだ。

 

「お前さんのステータスを一緒に見てみようか」


*****


名前:マクドウェル・ブライウッド

年齢:10

レベル:2

腕力:20

器用:14

頑丈:21

俊敏:23

魔力:19

知力:29

運:32(+96500000)

【特異魔法】テイマー

【テイムモンスター】キングスライム(王様)、魔族「デーモン」(シャウス・アルドガルド)、スライム(ウェル、他三〇体)

【超特異魔法】生物係いきものがかり

【神の遣い】■■■■■


*****


 ナニ、コレ……


「改めて見ると、絶句じゃの」


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