意見が合わないアイツ

堕なの。

意見が合わないアイツ

 その日は心の余裕がなかった。バスでくちゃくちゃと音を鳴らしながらガムを食べるおじさんを前にして、不快感と苛立ちを覚えるくらいには。

 心の余裕がない理由はいくつか思い当たる。例えば、いつもより早く起こされて睡眠不足に陥っているだとか、朝の夫婦喧嘩に身を縮こまらせたことだとか。兎に角ストレスが溜まっていた。

「おっはよー」

 能天気な女の声に顔を顰める。あれは私にとって、学校で生じるストレスの、実に八割ほどを占める害悪とも言うべき人間だった。意見がとことん合わないのだ。一応、友達ではあるはずだが。

「おはよう。何か用?」

「うわ、機嫌最悪じゃん」

 けらけらと笑うソイツ、怒りで眉間のシワが険しくなっていく私。正反対の私たちは、新学期には皆が心配するも、時間が経つに連れてクラスの光景の一部となる。

「実は聞きたいことがあってさ、学校と家どっちが好き?」

 おそらく、どこかのグループで話していたら、私の意見も聞きたくなったというところだろう。目の前の顔はワクワクを隠しきれないでいる。

「ちなみに私は学校」

 聞いてもいないのに答える、コイツの話のペースに乗せられる。

「勉強は嫌いだけど、学校は好きなんだよねー」

 それは少し分かる気がする。私からしたら、家より学校の方が安全で心休まる場所だ。いきなり母親が発狂することも、親が殴り合いの喧嘩を始めることもない。夜に大声に起きて、ベッドの中で終わるまで震える必要も無い。

「私も、勉強は嫌いだけど学校は好きだよ」

「ホント?!」

 嬉しそうなコイツを横目に見る。私の理由は似ても似つかないだろうけど、能天気なコイツの顔に、案外悪くないかも、なんて思った。朝の荒んだ心が、少しだけ解消された気がした。

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意見が合わないアイツ 堕なの。 @danano

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