第四十八話 シール vs レイラ その1

 いにしえの闘技場〈カタロス〉。


 ドーム状に広がる空間。中には円形に広がる観客席、中央には正方形のステージ。全て石造りだ。


 陽の光は屋根が遮断しているため、灯りは魔成物のロウソク。丸いガラス細工だ。緑の錬魔石が中心に埋め込まれており、恐らく魔術の要領で火が灯されている。


「おーい! スタートはまだかぁ!?」

「待ちくたびれたぞ!」

「本当に面白い試合が見られるんだろうなぁ!?」


 観客席には多くの客が酒を飲みながら座っていた。

 騎士も居れば商人、そこらの酔っ払いも居る。


 オレはステージに立ち、隣で腕を組んでいるパールに目を向ける。


「おいパール。

 客が居るなんて聞いてないぞ」

「はっはっは!

 ただで闘技場を借りるのは無理だ!

 せめて客を寄せ、1イベントとして経費で落とさないとなぁ!」

「人を勝手に見世物にしやがって……つーかなんでキレてるんだアイツら?」

「私が30分早い時間を伝えていたからだな! 失敬!」

「……おかげさまですげーやりにくいんだけど。

 まぁいいか。すぐに黙らせてやる」

「うむ! 期待しているぞ!」


 ステージの外にはパールの他に三人の騎士が居る。

 全員女性だ。


「なんだそいつらは?」

「白魔術師だ!

 なにかあった時、すぐに君たちの傷を癒せるように連れて来た。

――おっと! ようやくもう一人の主役が登場だ!

 脇役たる私はステージから出るとしよう」


 待つのに飽きた観客の罵声が飛び交う中、

 ロングスカートとボタン付きのシャツ、上からローブを羽織ってレイラは現れた。

 あの服……学院の制服だろうか。校章のような物が肩に入っている。


「早いね。シール君」


「逃げずにちゃんと来たみたいだな」


「逃げるわけないじゃない。

 君に勝ってわたしは証明するんだ。

 おじいちゃんが、アイン=フライハイトがどれだけ最低クズな人間だったかを……」


 アイン=フライハイト。

 それが爺さんの本名か。


「――あぁそうかい。

 お前が勝とうが爺さんの人格は決まらないと思うがな」


「確かにそうだね。

 じゃあ証明じゃなくて否定だ。

 わたしは否定する。あの人の研鑽を、術を否定する。

 人体実験をしてまで得た、悪魔の術をこの手で叩き潰す」


「やれるもんならやってみな。

 そのくだらない妄想ごとテメェを封印してやるよ」


 レイラがオレを睨む。

 オレがレイラを睨み返し、一歩前に出ると、後ろで可愛らしい「その調子よー!」という声が響いた。残念ながらよく聞いたことのある声だ。


「そこよ! 

 そこで中指を立てなさい! こうよ! こう!」


「シュラ……」


 シュラは中指を立てて舌を出す。


 オレは後ろを向き、シュラに近づく。

 ステージと観客席の間には段差があり、溝になっている。そこにシュラは居た。


 オレはステージの上から身を屈め、ステージに手を付くシュラに視線の高さを合わせる。


「お前さぁ、なんでここ居るの?

 観客席に行ってろよ。うるさいから」


「はぁ!?

 わたしはアンタのセコンド! セコンドよ! 

 ばっちり的確な指示を出してあげるから感謝しなさい!」


「嫌な予感しかしねぇ……。

 っと、わりぃシュラ。そこに落ちてる麻袋取ってくれるか?」


「うん? これ?」


 シュラが足元に落ちている両手で抱える大きさの麻袋を掴み、ステージの上に乗せる。

 オレは「さんきゅ」と麻袋を掴み上げ、再びレイラの方へ足を向けて歩みだす。


 オレはレイラと二十歩の距離を離して立ち止まった。


「なにかな? その袋」


「ビックリドッキリ秘密兵器だ。

 楽しみにしておけ」



 鐘が鳴るまであと三十秒というところで、ステージの外で仁王立ちするパールが大声を出した。


「それではルールを説明する!

 敗北を認めるか、場外に出るか、戦闘続行不可能と私が認めた時、負けとする!」


 パールの説明を聞きながらオレは麻袋の紐を解く。


「なぁレイラ、戦う前に一つ――予言してやろうか?」


「いいよ、言ってみなよ」


 オレは麻袋の口を右手で握り、持ち上げる。

 そして左手をポケットに突っ込み、挑発するように言う。


「この戦い、

 先手は必ずオレが取る」


「……面白い冗談だね」


「それでは互いに正々堂々と戦うように!

 以上――」


――鐘の音が街中に響いた。


 パールの「始め!」の声でオレ達は動き出す。

 オレは麻袋の両端を掴み、思い切り振って中身をレイラの頭上に向けてぶちまけた。


 麻袋の中身、それは――


「ゴミ……?」


 丸めた、大量の紙だ。

 しわくちゃの紙の玉だ。一見すればただのゴミ、だが……


「――違うっ!」


 封印術を知っている者からすれば大量の武器の山だ。


 レイラは形相を変える。

 レイラはすぐさま気づいたのだ、この紙くず一つ一つに凶器が潜んでいることに。



「“火炎よ、立ち昇れ”ッ!!!」



 レイラは指先に形成の魔力を溜め、炎を指に灯した。

 紙くずを自分の間合いに入る前に焼き尽くす気だ。


「……させねぇよ」


 オレは地面に右手をつき、呪文を唱える。



「――封印close



 オレの右手からレイラの足元にかけて出現する、五角形の赤い字印。


――魔力封印の字印だ。


 昨日、このステージに来て、床の色に極力似た色で字印を描いておき、上から砂を被せておいた。

 魔力さえ込めれば色を出し、目立つが、魔力を込めなければまずバレない。


 オレが先にこのステージに来たのも東側にレイラを誘導するためだ。西側でオレが待っていれば自ずとレイラは罠が仕掛けられた東側に立つことになる。

 反則じゃない。罠を仕掛けちゃいけない、なんてルールは決められてなかったからな。



「魔力封印ッ!?」



 やはり、レイラは魔力封印を知っていたか。だが関係ない。お前はもう反応がワンテンポ遅れている。

 巨大な五角形の字印、その中心に居るレイラに対し魔力封印が発動される。これがギリギリの大きさだった。魔力封印の字印は大きすぎると性能が弱まる。だからこのサイズだと、精々魔力を乱すのが限界。


「まさか、君はあらかじめ――!」


 レイラの指先の炎が乱され、消える。


 宙を舞うゴミ屑達。

 ゴミ屑がレイラの頭上に位置したところでオレはさらに呪文を重ねる。


解封open


 ゴミ屑から吐き出される、七つの青き結晶、爆氷珊瑚コーラルクラッカー


 爆氷珊瑚コーラルクラッカーはレイラの足元に落下する。衝撃を受け、爆氷珊瑚コーラルクラッカーに光が満ちる。



「――ッ!!?」


「予言、的中だ……」


 破裂する珊瑚、巻き起こる爆風。


 これで終わりじゃない。オレは地面に手を付き、五角形の字印に己の魔力をギリギリまで送り続けていたからな。

 爆氷珊瑚コーラルクラッカーの爆発によって同時に五角形の字印が刻まれた地面が割れ、地面に封印していた分の魔力が解放・破裂する。


 誘発される爆発、二段階の先制攻撃が炸裂する。


 闘技場中に、煙が散漫するほどの爆風が巻き起こった。

 爆音が鳴り響き、観客の罵声はすっかり聞こえなくなっていた。



 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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