第11話 宴と別れ

 村の門まで戻ると、村の大人達が歓喜の輪を作っていた。

「おい、バックさんが帰ってきたぞ!」

 気づいた人が銅鑼を鳴らす。先程まで敵を引き寄せていたそれが、今度は祝いの音に変わっている。笑顔でそれを見ながらも、英雄扱いされることを心のどこかで不安に思っていた。

 門の内側では、今回の作戦に参加していたであろう村人たちが、輪を作って出迎えてくれた。その輪の中から、村長らしき人物とラオさんが近づいてきた。俺はベガの背から降りる。

「バックさん、本当にありがとうございます。あなたは村の英雄です」

「照れますね。僕も達成感がありますが」

 ラオさんと握手をする。そして、横にいる村長らしき人も手を差し伸べてきた。

「私はこの村の村長のキッポスです。あなたのことはラオから聞かせていただきました。あなたはこの村の恩人です」

 俺と握手をした右手に、左手を重ねてくる。その手からは、感謝と村を思う気持ちがたくさん伝わってきた。

 村長と握手をし、まだ何か話があるのかと言葉を待っていると、ラオさんが聞きづらそうな様子で話し始めた。

「それで、その馬?のことなんですが…」

 ドキッとして、ベガと目を見合わせる。そうだよな。ちゃんと説明しなきゃいけないよな。

「何か特別な馬だというのは、見てわかってしまいましたが、彼のような馬がいること、そしてバックさんのことはこの村の外に漏らさないようにします」

 ラオさんはベガと俺の目を交互に見つめて、予想外の宣言をしてくれた。周りの村人たちも同調するようにうなずいている。きっとラオさんが僕らの思惑を察知し、説得してくれたのだろう。

「ラオさん、ありがとうございます」

 俺が深く礼をすると、それに合わせてベガも頭を下げた。

「なんとなく触れられたくないのはわかりましたから。私たちもこれ以上探るようなことはしません」

 「その代わり…」と言ってラオさんは少しだけ意地悪な表情をした。

「今日は村で宴をしますから、絶対に来てくださいね!」

 宴、そりゃそうか、今日1日村では飯炊きが禁止されていた。今日の夜はお祝いも含めておいしいものをたくさん食べるべきだ。


 一通り盛り上がった後、ラオさんと一緒に家へと戻ると、ドアを開けた瞬間にライとミラが抱き着いてきた。横でラオさんが複雑な顔をしている。

 二人の頭を撫で、ティタノベアを倒したことを伝える。家で待っていた3人の表情は不安から安堵へと変わり、リラさんとラオさんは夫婦で抱き合っていた。

「僕たち、バックさんが急にいなくなって心配してたんだよ」

「うん、戦いに行ったのはわかっていたけど、もしかしたらティタノベアにやられちゃったんじゃないかって」

「そっかそっか、心配してくれてありがとう」

 この数日ですっかり仲良くなってしまった。俺に兄弟はいなかったけど、弟や妹がいたらこんな感じだったのかな。こちらを見上げてくるキラキラとしたまなざしに、愛しさがこみあげてくる。

 それから、ラオさんとリラさんは宴の準備で家を空け、俺は二人に魔法を見せて時間をつぶしていた。その時に判明したのだが、強化する魔法は服や紙などにもかけることができ、服は布の柔らかさをそのままに耐久性が増し、紙も固くならないままとても破れにくくなった。


 たくさん魔力を使い、疲れて休んでいると、宴の準備ができたと外に呼ばれた。村の中央にある広場へ行くと、地面に張られた布の上に、たくさんの料理と飲み物が並べられていた。

 「おい、主役の登場だぞ!」誰かが言った声に反応して、その場の全員の視線が自分に向く。歓声と拍手に包まれて、俺はただ笑うしかなかった。

「ほんとに村の英雄だね」

 隣にいたライが嬉しそうに言っている。注目を浴びるのに慣れていないとはいえ、褒められるのは素直にうれしい。

 靴を脱いで敷かれた布の上に上がり、ラオさんとリラさんが作っていたスペースに腰を下ろすと、そこにはすでに5人分の料理が並んでいた。

 かなり人が集まってきたところで、広場の中央にある高台で村長が話し出した。

「皆さん、本日は喜ばしい日です!村を滅ぼす獣を打ち倒し、村を守ることができました。今回の作戦に協力してくれたすべての村民に感謝します、ありがとう!」

 そして、村長は自ら酒をグラスへと注ぎ、それに倣って村人たちも飲み物を手に取った。「乾杯!」という掛け声とともに、たくさんの衝突音がし、広場は喜びに包まれていった。


 宴が始まってから、門のそばにいた数人が俺のところにあいさつに来たが、村長が触れないでいてくれたこともあり、それ以降は人が訪れることはなかった。

 俺はベガの様子を見に行くといって、一人家に戻ると、村の集落にはだれ一人残っていなかった。玄関先で寝ていたベガを起こす。

「帰るぞ」

「宴は?終わったんですか?」

「まだだけど、今のうちに出ていかないと、もてなされ続けちゃうだろ?」

 ベガはなんとなく悟ったようだ。

「なるほど、じゃあ早いほうがいいですね」

 それから俺たちは身支度を始めた。

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田舎で育ったガンマンが、助けたペガサスとピストル二丁で成り上がる 大犬数雄 @ooinu_kazuo

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