第7話 バズりました。不幸体質が治った?

 私がドローンを破壊してしまった翌日。

 二人で皐月さんのアパートへ帰り、いっしょに寝た。


 皐月さんが住んでいるアパートを見て、こんなすごいお屋敷に住んでいるとは思いませんでした、と言った私に、まさかこれ全部が私の部屋だとか思っていないよな?

 え、違うのですか?

 そんなわけあるか


 このようなやりとりがあって、古ぼけて錆びている階段をぎしぎしと音を立てながら2階にある皐月さんの部屋に入った。


 とんでもなく物に溢れて足の踏み場もない様子に驚きながら、なんとか寝る場所を確保して、疲れ切っていた私たちはすぐに眠ってしまった。


 カーテンもない窓から朝日が差し込む。


 まだ寝起きの私に向かって、皐月さんが私にダンジョンフォンを見せてきた。


「ほらほら、これ見てみろよ」

 

 たしか、昨日までは810人だった皐月さんのお友だち。

 とんでもない数字に増えていた。


「なんだかよくわかんねえんだけどさ。朝起きてみてみたらチャンネル登録者数10,521。爆上げだぜ、こりゃ」


「1万人を超えてるじゃないですか!? 不思議ですね。いったい何があったのでしょう?」


「とにかく1万人を超えたんで、約束通り、今後の報酬は半分ずつ山分けしようぜ」


「ありがとうございます」


 皐月さんはさっきから何度もダンジョンデバイスを開いてはチャンネル登録者数を確認している。


 にやにやしながら端末を見ていた。

 たまに数字が少し増えると、すこぶる機嫌が良かった。


「お前、全然不幸体質じゃないよ。あたいに取っちゃ。幸運の女神だ」


「よかった、これで私も普通にお友だちを作れます」


「大丈夫、いっしょに登録者を増やしていこう。あんたのチャンネルも作んなきゃな」


 皐月さんのチャンネル登録者数はじわりじわりと増えていく。

 現在は10,613人に達していた。

 

   ◆ ◆ ◆


 翌日。

 私たちはダンジョン探偵局からインタビューを受けた。


「今回は、モンスターパレードによる被害が皆無でした。今、ダンジョンチューブでは神宮寺穂南さんが話題になっています。デスソードを振り回す没落令嬢。装備は剣のみ。裾が大きく広がったフリルのドレスで戦う姿が拡散されています。切り抜き動画もたくさん作られているようです。今のお気持ちは?」


 私が大量のモンスターを倒したことがネットで話題になっていた。皐月さんのチャンネル登録者数が上がったのもそれが原因だった。


「いや、あの。私はただ必死に剣をふるっただけですので」


「またまた、ご謙遜を~」と言いながらインタビュアーは私の口元へマイクを近づける。


「人気になった要因の一つに、デスペラーズのドローンを破壊したことがあります。彼らは迷惑行為を行っていて嫌われていました。嫌がらせ行為なんかもあり、目に余るものでした。ドローンを壊してくれてスカッとしたとの意見もあります」


 それには皐月さんが割って入った。


「いや、ドローンはたまたま流れ弾に当たっただけで、狙って壊したわけじゃないですからね」


 万が一にも、デスペラーズからドローンの弁償代を請求されたらたまらない。

 ドローンを壊してしまったのは、あくまでも事故であったと念を押しておきたいらしい。

 これにはインタビュアーも、うんうんと頷きながら納得する。


「いやあ、あれは彼らが悪いのですよ。モンスター集団のすぐそばを飛行したら、そりゃあ巻き添え喰らいますって」


「ですよね~」


 インタビュアーと皐月さんは、二人してからからと笑った。


   ◆ ◆ ◆


 配信による収益も増え、私たちは装備を整えた。

 私も皐月さんのような冒険者らしい出で立ちとなった。


 けれど、思うように視聴数が稼げない。


 そのため、ドレスにデスソードという組み合わせに戻したところ、同接が増えていった。


「私、この格好、嫌なんですけれど……」


 皐月さんに不満をぶつける。


「でも、友だち増えるぞ。あんたもチャンネル作りなよ。友だち作りたいって言ってたじゃねえか。このままの格好でいこうぜ。それともやめるか?」


「やります……」


 稼げるうちに稼ごうということになり、私と皐月さんは何度もダンジョンに挑んだ。


 私の複雑な思いに反して、皐月さんのチャンネル登録者数は増えていく。やがて2万人に到達した。


 私のチャンネルはといえば、まだ開設していない。0人から本当に増えるのかという不安もあって開設に踏み切る勇気がなかった。


 皐月さんはとにかく機嫌がいい。


「いやあ、稼げて稼げて、うはうはだな。でも、このチャンネルはあんたのキャラでもっているようなものだから、あたい一人になったら下降するだろうけどな」


 皐月さんはそう言うが、たぶん二人の掛け合いがあって、会話があって、協力する姿があって、それでこそ視聴者は見てくれるのだと思う。


 仮に私一人になったとして、うまくいくかと言われたら自信がない。


 私が自分のチャンネルを作ってしまうと、私も皐月さんも両方がパッとしなくなってしまうだろう。共倒れになることは目に見えている。


「私……これからも皐月さんとやっていきたいです」


 でも、そうした打算的なことばかりではない。


 皐月さんのおかげでこうしてバズることができたのだし、今の私はレベル5になっていた。


 おおよそゴブリンを300匹ほど倒すとレベルが1から2になる。


 迷惑系チューバーが集めたと思われるモンスターのおかげで、私は一気にレベル1から5まで一足飛びにレベルアップしていた。


 運が良かったのだ。

 不幸体質で周りの人間の運を吸い取ってしまうと思っていた私だが、こうして二人して良くなっている。


 もしかしたら、皐月さんが私の不幸体質が治るきっかけとなったのかもしれない。

 皐月さんがあって、今の私があるのだ。


 こんな事を考えていたのだが、私の姿を見て皐月さんはいつもどおりに笑っていた。


「じゃあ、これからもよろしくな、相棒」


「はい!」


 私は元気よく返事をした。

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